追記
以上が、私ことカイの不思議な体験記である。
かねがね思っていたのだが、バローズが物にしたバルスーム(火星)は、違った次元にある宇宙の世界(火星)だと思われる。ジョン・カーターの手記を読んでいるとわかるのだが、バルスームが存在する宇宙への入口が、約10年に一度の周期で火星の軌道と交差するものと考えられる。別宇宙への入口と火星が、地球から見て一直線上に重なったときに、不思議な現象が起こるのだ。
私が1年前に火星に飛来したのも、同じ現象と思っている。だが、私自身は地球上でふだんと変わらない生活しているのである。バルスームのカイは幽体離脱した私の半身なのだ。
ある夜のこと、いつものように床についたのだが、なかなか寝付けないでいた。何度も寝返りを繰り返すが、どうにも眠れない。ようやく浅い眠りに落ちたと思ったが、夜中の2時をまわった頃だろうか、ふと目が覚めたのだ。気がつくと体を動かそうにも自由にならない。信じられないことに、私は金縛りにあっていた。生まれて初めての経験にパニックになりながらも、何とか自由になろうと激しくもがいていた。いや、身体はまったく動かなかったから、強い精神集中によるあがきを繰り返していたのだ。
その折りに強いショックを頭に受け、一瞬意識が遠のいていった。次に目を開けたときに私が見たのは、もう一人の自分が空中に浮遊している不気味な光景だった。もう一人の私は、次第に上に上っていき、やがて天井の中に煙のように消えていった。これは夢なのだろうと、その時は気にも留めなかったのだが、次の日から決まって不思議な夢を見るようになったのだ。あの時私の自我が、二つに分離したのだろう。
一人は今まで通り地球にとどまり、もう一人は次元の境を抜け、バルスームに到達した。昼は別々の生活をしている二人が、夜になると精神融合するのだろうが、残念なことに火星にいるカイは、そのことに気がついていない。私は、夜毎もう一人のカイと心が一つとなり、同じ体験を経験していた。
その驚異に満ちた物語は、いまだに続いている。シスとリア・ソリスのことで葛藤し、生命の危機もともに味わった。
今、火星のカイは幸せそうだ。ジョン・カーターと同じように、もう一人のカイも数百年は若さを失わないことだろう。数十年後に私の命が尽き、魂が肉体から解放されたときも、彼は若いままだろう。
その時こそ私は、本当にバルスームに行くことが可能になり、二つに分離した魂は一つとなることができる。
愛するリア・ソリスのもとで……・。
おしまい
おつきあいありがとうございました。
この小説は2000年か2001年ごろに書いたものです。
ひどい勘違いの誤字は今回修正しましたが、あとはそのままです。
少しは楽しんでくれれば幸いです。




