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Raving All Night B

挿絵(By みてみん)


 【side:storm・・・Timeline 十二月七日 午後二十時 ストリップ劇場】


 ストリップバーの最奥のVIP席に陣取って、クレアは周囲を眺めている。


 姜 敏革の一ヶ月の行動を洗った。初日に一撃二千万、それからも順調に高級スクロール(と銘打った詐欺スクロール)を販売し、瞬く間に十億近くの資産を作り上げる。成り上がり特有の派手な金遣いが帳簿の上に記録されていて、クレアはため息をついた。


 金の使い方には人格と知性が滲み出る。より資産を増やし幸福度を上げるためには絶対的な知性が不可欠だ。だがこいつにはどうも、その知性と品性が欠けている。品性を重視しないから二流のスーツで満足するし、知性がないから遊びは酒と女に寄っていく。典型的だ。その典型の一例がこのストリップバー、キャストに話は聞けていないが、どうもかなりの暴れっぷりだったらしい。踊り子には触れるし、暴力騒ぎは起こす。男が誤解されちまう、とクレアは唇を結んで頭を振った。


 赤の電飾が店内を暗く彩るストリップバー、『七枚目のベール』は客でごった返していた。べニーは既にこの店の看板娘だ。長い手足、見事な女性美を惜しげもなく笑顔で客に晒す。ここにいる男性客、或いは一部の女性客でさえ、ベニー・オーウェンのポールダンスを見るためにここに集まっている。


 開幕まであと三十分。プラチナの時計をチラリと見て、そのまま通信を起動させた。脳内の信号を読み取って、月と星の紋章がバーの周囲に配置された地下世界メンバー、それぞれの紋章へと送信される。


 [後三十分だ。ガキの面を見たら即座に拘束しろ。憲兵隊に賄賂は渡してある]


 クレアの通信に、舞台袖のバロンが周囲を見渡しながら、月と星の紋章が入ったラピルピンを発光させる。


 [用意周到だなァ?今んとこ異常はなし、バカみてえな酒の飲み方してるやつも見えねえ]


 マナフとニーアは、拠点に帰宅してしっかりクレアに揶揄われた。一文無しの足元を見られて、結局はクレアの仕事を手伝っている。報酬は二百万ゴールド。それでも今の二人にとっては大金だ。


 [二階席も異常なーし、っていうか若い男がいねえわ。年取ると女の裸で興奮するようになんの?逆じゃね?普通]


 軽口もよく回るニーアが横目に男性客を見ながら通信した。男性客の隣にいる美しい女性はなんだか非常に下卑た笑顔を男性に向けて、それから舞台を注目した。


 [年を取るとね、そういうので盛り上げなきゃ盛り上がらなくなるの。僕の事じゃないからね?後ダリアに言ったらマジで殺す]


 入り口付近を張るマナフが幾分か疲れた調子でそう返した。


 そしてフィリップは店の中央、黒服に身を包み、客に酒を提供している。ネクタイの代わりに彼の胸元を飾るのはクラバット、それを止めるカメオにはやはり月と星の紋章が刻まれている。


 [こちら一階席ー!聞こえるか、アリーナー!もうさ僕、マジで何着ても似合わない?やばくない?鏡が欲しい、って言うか正直に言うよ、酒と香水の匂いで頭痛い]


 そんな苦痛を微塵も見せず、笑顔で女性客にヒュパティアというリキュールを差し出した。目を丸くしながらもフィリップを見つめ続ける女性客の目がロマンスの色に蕩けている。だがフィリップにとってこの場所は毒の沼に等しい。即座に女性客から距離を取り、クラバットを口元に近づけ、呼吸をする。彼らの通信を受け取ったクレアが再度全員を鼓舞した。


 [蘭玉の傀儡回しは死体を操る技術だ。巧妙に傷を隠せば生きてる人間と見分けがつかなくなる。気合い入れろよ、この会場全てにいる人間が奴の木偶人形かも知れねえからな]


 全員の配置を確認して、クレアは待つ。人間はそう簡単に生活を変えられない。わかっているがどうしても自身の自由になる空間に戻ってくる。成金ならば尚更だ、贅沢な生活をするためなら親も子供も売り飛ばす。そういうやつを山ほど見てきた。だからクレアは待つ。そいつが何を考え、何故そこに至ったかを知るために。


 * * *


 楽屋でベニーは最後の衣装調整だ。

 今日の主役は自分。中央ステージの真ん中で踊らなければならないし、ショーの途中で肌を見せなければならないから、速着替え用のブラに腕を通す。キラキラと光って綺麗なのだけれど、サイズがなくてフロントホックが窮屈だ。それを止めて、もう一度ギラギラと輝く鏡でメイクを調整する。つけまつげも完璧、今日もメイクのノリがいい。一緒に踊る女の子は五人、皆ベテランだ。時計を見たら二十時二十分、舞台の上でMCが、太陽の国から来た踊り子、ベニー・オーウェン!と口上を述べている。客の指笛と歓声が聞こえる。それを聞いて笑顔になった、子供の頃からずっと聞いていた声だ。女だけのキャラバンで、女達だけで歌と踊りと体、そして織物を売って歩くマウロの民。遠い何処かの国の為政者が「売春婦は汚れている」とおふれを出して、彼女の母も、姉も、祖母も、みんなベニーの目の前で縛り首になった。でも、踊れる。歌を歌える。人を愛せる。その喜びを人に届ける。その為にベニーは生きている。


 舞台はやっぱり少し緊張する。でも今は子犬がいるから、負けてられない。子犬に勇気をもらうため、くまちゃんの無線連絡機に呼びかけた。


 途端、ベニーの顔色が変わった。


「え・・・?ねえ、どうしたの、ねえ。・・・え、大丈夫?!ねえ!!」


 不穏な言葉を吐いている間に、ベニーの大きな目に涙がたまり始めた。手の中の魔法通話装置を握りしめ、体を左右に振る。そして、どうしよう、どうしよう、と狼狽始めた。MCが彼女を迎えに来る。本番五分前だ。


「ごめん・・・!支配人、私家に帰らなきゃ、子犬が、子犬が」


 ストリップ衣装のままベニーは楽屋を飛び出した。目を向いた支配人兼MCが大声で彼女を引き止める。


「帰るって・・・!もう本番始まるんだぞ!」


 その腕を振り払って、ベニーはキラキラしく光る瞳から大粒の涙を振り撒きながら支配人に告げた。


「ごめん・・・!すぐ戻る・・・戻るから!それまで、ええと、ええと、助けてフィリップ!」


 二十時三十分。


 ステージバンド達は、既にスタンバイ状態だ。だが、女性達が出てこない。代わりに、客がざわつき始めた五分後、汗を拭きながら支配人がステージ場に立つ。ピンク色のライトが小さくなった支配人を実に滑稽に映し出した。


「ええー、皆様には非常にご迷惑をおかけしております。踊り子のベニーが、少々体調を崩しまして・・・えー、開演の時間を遅らせていただく事になりました」


 客のブーイングが響いた。金返せ!というヤジも飛んだ。舞台の上の支配人は更に小さくなりながら、必死で彼らに頭を下げる。


「ええー、誠に勝手ながらベニー・オーウェン・ショー開幕まで今暫くお待ちください。幕間を埋めるためのコメディアンを用意いたしました。ご紹介しましょう。ランドマリーからきた魅惑の美青年!ジョークの貴公子、フィリーップ・D・キーング!」


 ビックバンドの派手な登場曲が鳴り響き、厚い緞帳が上がっていく。手を広げたポーズのまま、笑顔を作ったフィリップは、甘く女好きのする声を店内に響かせた。


「やぁ!みんな!僕だよーーーー!」


 ベニーを待ち望んでいた男達の落胆の声は、今やフィリップの美貌にノックアウトされた女性達の叫び声に塗り変わった。


 落胆する男は何も客席だけではない、舞台袖で状況を伺っていたバロンも呆気に取られて舞台のフィリップを眺めている。なんだ、あいつ。突然舞台に立たされたのに物おじもせず、ひたすら面白くもない事を喋り続けている。フィリップの喋りはほぼパッションだ、内容自体特に面白いものでもないのだが、勢いに押されて笑ってしまうタイプのコメディである。そこに彼のツラに惹かれた女性達の黄色い声援が加わるので、なんとなく派手に見えてしまう。


「はぁ!?ヤッバぁ!この空気!望まれてないってのはわかるよ、僕だってそう!ほんとだったらさぁ、サイッコーのショーが見れてたはずじゃん?チッチッチまだ早い早すぎ、早すぎだもん、門左衛門。今日来たお客さん、超ラッキー!なーんてったってこの僕、フィリップと出会えたんだから!ちなみにぃ!僕の前の職業は、ロッキー(炭酸ジュース)におまけを乗っける流れ作業ー!あー待ってまって、席を立たないで、お兄さん。なんなら今から僕が脱ごうか?」


 見たくねえ、とバロンが内心で突っ込む。だが店に来ていた女達は前のめりでフィリップの顔と勢いに飲まれている。余りの想定外に、一瞬意識を持って行かれていたバロンだったが、フィリップが舞台にいる、と言うことは客席を監視できる人間がいないと言うことだ。視線を客席に寄せる。だが、店は広い。やはり、客席近くに移動し、監視する人間が必要である。即座に判断して、舞台袖から客席へいく専用通路に向かった。演者以外通り抜け禁止ではあるが、支配人には話を通してある。重い通用口の扉を閉め、観客の笑い声(主に女性の)が響く店内へ向かうバロンの前に、一人の女が現れた。


 薄暗い通用口だ、女の全貌は見えなかったが、酷く肌が白かった。金髪が首の辺りでチグハグに切り揃えられている。首元に巻いたチョーカーは確認できた。色の白さと目の隈をバロンはゴスメイクだと判断した。チョーカーの上には縫い目のような跡も確認できる。


 女は奇妙な動きをした。頭を左右にカクカクと揺らし、口を開いてカッカッと不思議な音を立てた。そのまま酷く聞きづらい低い声で、女はバロンにこう告げたのだ。


「舞台のおtこよ、り、アんたの方が好kィ。姜 敏革の行方について、しりたいでsよう?」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

さて、二つの凶悪が相対します。ミンヒョクは逃げます。

次回更新:【11月7日 21:10】

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引き続き『イノベーション・デストラクション』をよろしくお願いいたします。

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