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最適解②

 壮介に相談したその日の放課後、いつもの場所で先輩と会った。


 肺が圧迫されているように感じるのは罪悪感のせいだろう。他人の過去を掘り返しているような罪の意識がずっしりと体の中にたまっていた。


 それを吐き出そうと言葉にすればただの言い訳となり、それでは本末転倒だ。


 だから、俺はありのままを言葉にした。


 掛け値無く、一切の感情を消して事実だけを突き付けた。


 先輩は努力することを惜しまず、その上で成果を残し、誰からも尊敬されるような人物になった。自身を磨き上げる技術を身につけていた。そして、その代償に手放したものがあり、それを取り戻すためにおじいさんは今回の暗号を考えた。


 それは、他人に頼ること。


 問題があれば自力で解決してきた先輩はいつの間にか周りに頼ることが無くなっていた。頼ることができなくなってしまっていた。俺や壮介がそうだったように、周りからまるで完璧超人みたいな、聖人君子みたいな扱いを受けて頼ることが許されない立場に立たされていた。次期部長や次期生徒会長など、よりいっそう状況は悪化していく。


 今回の挑戦状は、いまのうちから頼ることもできるようにと練習のひとつだったのだろう。


 そして、先輩はその話を既におじいさんからされていた。部活の相談、本人は愚痴になってしまったと言っていたが、その際に周りに頼ることを諭されたのだろう。だから、あのメッセージの意味にすぐに気がついた。


 人に頼り、問題を解決することを実践し、実感した。


「うん、知ってた」


 そう言って先輩は微笑んだ。いつもの人懐っこい笑顔とは違う、どこか大人っぽくて何かを悟ったような表情だった。初めて見た先輩の表情。夕日が照らし出す先輩のもう一つの顔。先輩のことを少しだけ知ったような気でいた俺は言葉が見つからず、ただ、目が離せないでいた。普段の明るく親しみやすい先輩とは正反対の、冷厳で畏怖すら感じる冷たい笑みに見えた。


 時が止まったような感覚、というのはこういうことをいうのだろうか。実際どれくらいの時間止まっていたか分からないが、少なくとも、先輩が返事を待ちきれなくなるほど時間はたっていた。


「悠真くんの言う通り、お見舞いに行った時おじいちゃんに言われた。自分ひとりで解決できることなんて限られてるって」


 それはそうだろう。1+1が1を下回るなんてことはありえない。


「分かってはいるんだけどね。でも、それでいいのかなって思っちゃうんだよ」


 真面目な先輩らしい考え方だ。ただ、損をする生き方だと思う。おじいさんの話ではないが、人の力を借りなければできないことはたくさんあるだろうし、そうやってコミュニティは広がっていく。


「例えば、数学で分からないところがあったときに得意な人に教えてもらうのが一番早いし、分かりやすいと思うんだけど、自分で考えたり調べたりしたほうが記憶に残るし、応用が利いたりするんだよね」


 まるで独白のようだった。


「期限が差し迫っているような時はもちろん直ぐに人に頼るよ。でも、そういう状況って私たちにはあんまりないでしょ?」


 テストはテスト期間に行うし、大会にはタイムスケジュールがある。どれも事前に準備をして取り組むものだ。まして、特別優秀な学校でもない、自分たちのような学生にそんな緊急事態が起きるのはフィクションの中だけだ。


「それに、そうやって人に頼っていると頑張ることができなくなっちゃいそうで怖いんだよね。私は、そんなに強くないし」


 堕落してしまうのが怖いのか。これまで努力し続けていた先輩が。これからそれができなくなってしまうようで。


 そんなことはない。


 そんなはずはない。


 そんなことはさせない。


「先輩、今回の暗号は緊急事態でしたか?」


「……?」


 突然の質問に面食らったようだった。


「別に期限は決められてなかったけど……?」


「でも、人に頼りましたよね?」


 先輩は無言という形で肯定した。言動の不一致を、自分の言っていることの矛盾に気付いたようだ。


「先輩は努力することをやめましたか? これまで通り勉強して、部活して、暗号を解こうと努力し続けてきませんでしたか?」


 無言による肯定。


「つまり、バランスの問題じゃないですか? 頼りすぎないように」


「……うん、そうだね」


 先輩の価値観は分からない。でも、それでも出来ることはある。


「じゃあ――」


 まっすぐ先輩の目を見た。


「またこうして頼ってもらえませんか?」


「え?」


 今回のことで、先輩はいままでのように頼み事をすることを控えるだろう。自分の中にある矛盾が整理できるまで。


「もし良ければ、これからも頼み事をしてください。ただ、勉強や部活で先輩に教えられるようなことはないので、変わり種のことがあったときくらいしか役に立ちませんが」


 バランスをとれるように、バランスを崩さないように慣れればいい。いままでと同じようにそう努力すればいいのだ。その手伝いくらいなら俺でも出来る。


 先輩は遠慮するだろうか。それとも嫌がるかもしれない。


 でも――


「頼ってもらえると、嬉しいです。先輩に、少しは信頼されているんだと思えるので」

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