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第37話 橋村琴美

 病室に差す西日で目を覚ました僕は、いつの間にか自分が眠っていた事に気づきました。

 なんだか懐かしい夢を見ていたような気もします。


 身体を少し動かせば、あちこちが軋むように痛み、ギプスで固められた左腕に意識が向きます。

 全身打撲と頭や腕に切り傷、左腕にはひびが入ってるという医者の話を思い出して僕は顔をしかめました。

 きっと、これは僕に対する罰なのでしょう。


 彼女……琴美の気持ちを踏みにじった罰なのです。




「今度親戚が集まって新年会をやるんだけどさ、一真も来ない?」

「えっ、もう二月になるけど……というか、親戚の集まりに他人の僕が行ってもいいものなの?」

 それは明日から二月になるという日、僕が百舌谷家に夕食を食べに来ていた時の事でした。


 当時の僕は、実家での修羅場の後、勘当され大学も辞めて愛人の真似事のような事をして生計を立てていましたが、そんな生活を続けていると、嫌が応にでもわかってくる事があります。


 相手は僕という個人というより、都合よく自分をかまってくれていい気分にしてくれる人間が欲しいのであって、それは別に自分でなくてもいいのだという事です。


 相手の反応をよく観察して、相手の欲しがっている反応や答えをして、何時でもどこでも延々相手に付き合ってやる事は、僕にとっては物心ついた頃からしてきた事だったので今更苦ではありません。


 しかし、ふとした瞬間にどうしようもない虚しさに襲われます。

 自分の人間関係が純粋に自分の利害に直結するものばかりになってしまう事に、漠然とした不安のようなものを感じていました。


「平気だよ、親族だけの新年会はもう済ませてるんだけど、それとは別に、うちの親戚は何かにつけて集まりたがるお祭り好きな人が多くて、毎年知り合いや近所の人を招いて有志だけの新年会をやってるんだ」

 と、千秋は朗らかに笑います。


 僕はその言葉に甘えてみる事にしました。


 二月の初めに行われたその新年会は、千秋の実家の最寄駅近くにあるホテルで行われました。

 ビュッフェ形式の立食パーティーで、僕の想像していた以上に参加者は多く、少し驚いてしまいました。

 会場を見渡せば、名刺交換をしているスーツの大人や、私服の学生と思われる人達、小さい子供など、色んな人がいます。


 会場に着けば、僕は千秋達に連れられて、しばらく千秋の両親やその親戚、千秋達と親交のある人達へ順番に挨拶していきました。


 自己紹介をすると、大抵は職業を聞かれるものですが、ちょうどその頃、個人での株取引で金を稼ぐデイトレーラーが有名になってきた頃だったので、僕はそう答えていました。


 相手の勤めている会社の経営状態や勢いのある会社は母に習って僕もよくチェックしていましたし、この職業を名乗る時にボロが出ないよう、実際に少額の取引をしたりもしていたので、デイトレードについて何か聞かれても特に困る事はありません。


 ただ、デイトレードをやって五千万程稼ぎ、大学卒業後の起業資金にすると宣言し、途中までは実際に儲けて豪遊していたものの、最終的に大損して多額の借金を親に肩代わりしてもらった知り合いを知っているので、あまり大金をつっこむ気にはなれませんが。


「篠崎君ってさ、秋ちゃんと何繋がりのお友達なの?」

 挨拶周りから解放されて一息ついていると、先程、千秋に紹介された一人の女性が僕に話しかけてきました。

 千秋と霧華が子供の頃からこの新年会でよく顔を合わせて遊んでもらっていたという、三つ年上のお姉さんだと紹介された人です。


「大学のお友達とは聞いたけど、秋ちゃんが霧華ちゃん以外の人を連れてくるなんて珍しくて」

 派手さは無いものの、人懐っこい雰囲気の彼女は、邪気の無い笑顔で僕に話しかけてきます。

 これが、後に僕と無理心中を図る事になる、橋村琴美はしむらことみとの出会いでした。

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