プロローグ
気が付くと、僕は見覚えのない天井をベッドからぼんやりと見上げていました。
ここは一体どこだろう。
身体を起こして辺りを見回せば、そこは病院の一室のようでした。
違和感を覚えて腕を見れば、肘裏の血管に点滴が刺されています。
個室の僕以外は誰もいない部屋で訳もわからず呆然としていると、不意にドアが開いて見知った人間が入ってきました。
「ああ、目が覚めたんだね。僕が誰だかわかる?」
彼はいつもののん気な調子で尋ねてきます。
「千秋……? 僕はどうして……」
「災難だったよね、無理心中なんてさ。もう三日位意識不明だったらしいよ?」
雑談でもするかのように軽い調子で話しながら千秋はベッドの横に椅子を持ってきて座ります。
「ああ、そうか、僕は…………琴美は!?」
「もう回復して退院してるよ。僕に連絡してきたのも彼女だしね……今はどうなってるのかは知らないよ」
そう言いながら千秋は肩をすくめました。
胸の奥が急に冷たく、重くなります。
だんだんと意識のはっきりしてきた僕は、やっと三日前に僕の身に起こった事を思い出しました。
どうしてこんな事になってしまったのでしょう……。
いいえ、そんな事はわかっているのです。
こうなってしまったのは全て、僕のせいなのですから。
窓に視線を移せば、外は清々しい晴天で、千秋に頼んで窓を開けてもらえば、春らしい暖かい風が僕の肌を撫でます。
しかし、その柔らかな空気に触れても、僕の胸はかきむしられるような焦燥感と、凍えるような罪悪感に支配されたままでした。
けれど、その美しく暖かな世界と、自分の心情に、僕は妙な懐かしさを覚えます。
目の前の景色と、自分の心情とのギャップに、どうしようもなく苦しくなるこの感覚は、僕が子供の頃からよく感じていたもので、ある意味慣れ親しんだものでもありました。
ああ、そうだ、僕は……。
嫌が応にも過去に意識が引っ張られて、僕は自嘲しました。