承 部屋を出る
承 部屋を出る
休息をアダムに言われた通り長めにとった後、いつものようにカプセルを4つ飲み、その日の作業を開始した。通常なら時間が余るはずなのにソファで少し長く惚けすぎてしまった。時間の猶予がない。アダムが早く帰ったというのに、すっかりいつもと同じ時刻だ。
SCに向かって、手を翳す。目の前に出てきた表、グラフで今日の電力自給力を確認し、地上の天気予報を確認する。
…地上はこれから快晴か。
SCに太陽光発電増量の指示を入力し、他にいくつかの確認作業を行う。いつの間にか作業に没頭し、普段と同じペースで作業は終了した。息を吐きながら、ふと考える。
…快晴とはどれほどのものか。
アダムが持ってきた本で以前に読んだことがある。快晴というのは、温度すら変えることがあるという。快晴の前では温度は上がるらしい。そして空というものは、水色になったり濃い灰になったり、橙に染まるものらしい。写真も見たことがある。全く無縁の世界に驚いたものだ。
ここには、空はない。色彩も、無彩色ばかりである。温度も常に一定に保たれている。おかげで不便はない。地上というところでは、常に天候が変わる。そのためにSCだけではできない仕事を私たちが担っている。といっても、他の人間は何をしているのか知らない。何しろ、アダム以外の人間にあったことがないのだ。
…そろそろ来る頃だ。
アダムの座るソファを出して到着を待つ。ほどなくしてアダムがいつものように部屋に来た。いつもと違うのは…その手に本を持っていなかった。
「これから俺の部屋に来るのに持ってくる必要はないだろう。」
ということらしい。アダムに連れられて部屋を出る。部屋の外にはソファに枠がついたようなものがあった。
「乗って。」
先に乗ったアダムが自分の隣を指して言う。
「これは?」
「前にも言ったけど、俺はドライブに行ってみたかったんだ。それで作ってみた」
「アダムが?」
「まあ、SCがあればだいたいのものは作れるんだけどな。本当の車とは違ってタイヤはないしガソリンも使わない。浮いて移動できるし超音波を使うことで時空のゆがみを利用してワープができる。」
「…。」
「ま、乗ってみるのが一番だ。説明してもわからないだろうとは思っていた。」
アダムのいう車に乗って、出発した。この部屋で生活するようになってから部屋を出たのは、初めてだった。




