感情がなく、欲がない世界
i. プロローグ
感情とは何か、欲を持つということは何か。
人類は長い歴史の中でそれらを捨てた。残されたものは画期的なコンピューターによる支配された世界。人工知能がすべてを補う世界で生きるということを考えたこともなかった。
ii. 現在 感情がなく欲のない生活
定時、酸素カプセルから出て乳白色の1cmほどのカプセルを4つ飲む。中身はビタミン、ミネラル、必須アミノ酸、エネルギーすなわち糖。生きていくために必要最低限取らなければならない。今日のノルマは終了している。政府からの指示の仕事は終了しているし、明日からの栄養カプセルの発注も終了したし今の生活に不足もない。すでに酸素カプセルで必要な分の休息をとってしまったので手持無沙汰になった。ふと、無機質なこの部屋に唯一の色彩が目に留まった。
…あれを読んで暇をつぶすか。
モスグリーンという濃い緑色の本を手に取る。
…この手の本は苦手だ。
歴史は何度読もうとも興味がわかない。今の世界と違いすぎて想像がつかないのだ。それなのになぜこの本を読めと言うのか。強引にこの本を押しつけた主を恨む。そもそもこの時代において本を読む必要がない。必要な情報、データーは銀縁の枠の中に手を翳すと出てくるこの透明なスクリーン、通称SCによって取り寄せられ、簡単に保存できる。紙というものがなくなって久しい時代に『本』があること自体稀有といえる。
…2xxx年代初頭、日本は少子高齢化時代をむかえた。貧困の格差が助長され争いが絶えず、自殺、他殺、交通事故が病死よりも多くを占めていた。
想像がつかない時代だ。なぜ自らやほかの人間の命を絶つのか。そこになんの意味があるのか。
…この手の本は苦手だ。
もう一度同じことを思ったところでオレンジのライトが頭上で点灯した。来客だ。私のところにくる人間は一人しかいない。
「起きてんだろ、早く部屋に入れてくれよ。」
待たせておくとうるさいのでドアを開くようSCに手を翳し指示する。
入ってきた人間は、私にとっては非常に珍しい人間だ。と言ってもほかの人間と関わったことがないので比べたわけではない。この時代にほかの人間と関りを持っていることそのものが珍しいのだ。
「どうだ、読み終わったのか?」
…話し方も珍しい。
「この手の本は苦手だ。まだ時間がかかる。」
「そう言うなって。仕事の早いお前のことだ、すぐに読めるはずだぞ。」
「想像がつかないから進まない。この時代の人間のことが全く理解できない。なぜ人を殺す?なぜ自ら命を絶つ?そんなことしなくても寿命が来たら自然と死ぬのに」
「まあ、感情があるからだな。感情と欲がある。だから幸せも感じるし憎しみもある。争いもある。」
「そんなものがあるから第四次世界大戦が起こったのだ。」
第四次世界大戦、それは文字通りの世界全体の戦いだった。強い国も弱い国もすべて、核兵器を隠し持っていた。最初に発動させたのは両サイドの国からの圧力に耐えかねた日本という国だった。




