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異世界生物怪奇譚  作者: 入舟三叉


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9/13

異世界生物怪奇譚9:サケ

ここは異世界、ナイラーヘイムル。

日は東から登るし月は一つだが、生き物は現実世界と少し違う。

そんな世界。の少し変わった生き物のお話。


そう、あれはこの世界に来て初めての秋だった。

北海の街へ行った後、さらにそこから西の漁村へ仕事に行った時の事。

前回、北海の街へ行った時はワタリガニを採ることは聞かされておらず、酷い目に遭ったが、今回は事前に何をするかは聞かされていた。

秋の風物詩。サケを採るために。


そうして、北海の街からさらに数日西へ進んだところにその漁村はあった。

寒村と言うほど寂れてはいないが、背の高い建物もないし、道も舗装されておらず、平均的な漁村といった感じである。

出稼ぎの労働者がそれなりの多いのか、宿は比較的にしっかりしており、どこかの農村のような木で出来た監獄では無かった。


漁は夜明けからなので、今日は早めの夕食をいただく。

バーイリンのような内陸部だと、魚はほとんど食べず、稀に乾物のものがあるくらい。

ここでは、漁村らしく魚介類をふんだんに使ったスープで、魚以外にもイカやエビ、カキのような貝類も入っている。

こちらの世界へ来てからというものの、魚介類はほぼ食べる機会が無く飢えていたので、このスープはとても美味しかった。

まぁ、香味野菜や香草はほとんど入っておらず、ザ・塩、という感じの潮汁だったが。

その日は酒も飲まずにかなり早く就寝し、翌朝の漁に備えた。


まだ、日も昇らない頃。喧しく叩き起こされ、漁の準備が始まる。

漁師の朝は早い。

浜に広げられていた網を畳んで船へ積み込み、水が入った樽や魚を入れる籠など、どんどん漁の準備を全員で進めて行った。

そうして、空が僅かに白み始めた頃、六艘の船で沖へと向かう。

ポイントに着くと、次々と網を海へ投げ入れていく。

それぞれ、二艘で一つの網を引いていくので、それが三組準備が終わると、ついに待ちに待った水揚げである。


「ファイトー!」

「いっぱーつ!」

ヤーレンソーランとか、よいとまけとか、いろいろ漁の掛け声はあるが、この漁村ではこういう掛け声らしい。海なのに崖が目に浮かぶ。

船が合流し、網を手繰っていくと、徐々に魚の姿が見えてきた。

銀色に光る青魚や、鮮やかな赤の鯛のような魚が水面に上がってきている下に、大量のオレンジ色がうっすらと見えてくる。

ベニザケだっけ?それにしても、なかなか色鮮やかっぽいなぁ。

なんて考えながら、どんどん網を引いていき、船へと揚げていく。


船に揚げた網を広げるとそこには。

大量のサケの切り身がピチピチと跳ねていた。

上に少しついた銀色の皮、オレンジ色の身や、血合いや中骨。

どこからどう見ても、サケ、ではなくサケの切り身だった。

他の魚は普通に魚の形をしているのに、これだけ切り身。

私は非常に困惑していたが、周りの人たちは普通に籠や樽に詰めていっているので、一旦忘れて作業を続けて行く。

一度目の網は良く取れた方らしく、大き目の樽にはぎっしりとサケの切り身が詰まっていた。


さらに、二度、三度と網を入れ、次々と大量のサケの切り身と、おまけで取れる普通の魚を籠へ樽へと仕分けしていった。

そこから四度目の網を引いていた時、カランカラン、と金属のようなセラミックのような音が聞こえた。

音がした方向を振り返ると、そこにはサケの切り身が落ちていた。

波で船が傾き、そのサケの切り身がこちらへ滑ってくる。

手に取ると、先ほどのサケのような柔らかさはなく、硬質な鱗のようだった。

片手で適当に網を引きながら、その少し違うサケの切り身を眺めていると突如として漁師の一人が叫んだ。


「ドラゴンだ!海へ飛び込め!」

漁師たちは手にしていた網を放り投げると、一目散に海へ飛び込んでいった。

何が起きたかわからなかったが、まだ船に残っていた漁師に声を掛けられ、いっしょに海へ飛び込む。

まだ、秋口とは言え、北方の海の冷たさに身をすくませていると、上空に大きな影が見えた。

大きな赤いドラゴン。赤いというか、少しオレンジがかっていて、サケの切り身と同じような色をしていた。


しばらく、旋回したかと思うと、ドラゴンはゆっくりと降下し漁船の一つに近づく。

その漁船に乗っていた漁師たちは、ドラゴンが近づいてくると泳いだり潜ったりしながら、そこから距離を取った。

ドラゴンの動向を伺っていると、ホバリングしながら樽や籠をいくつか鉤爪に引っかけると、口に放り込みボリボリと食べだした。

次はこちらか、と身構えたが、満足したのかドラゴンは空の彼方へと消えていった。


その後は、それぞれ船へ戻り、網を回収し残りの樽と籠を埋めると、港へと帰って行った。

港へ着いてからは、船から魚を降ろし、締めたり開いたりと下処理を行っていく。

私もそれを手伝うのだが、サケの切り身にしか見えないそれを一つ手に取った。

あ、小さいけど口がある。ここがヒレで、こっちが尻尾なのね。

中骨っぽい白い模様があるのがメスか。1mmもないくらいのイクラがちょっと漏れてる。


そう、サケの切り身にしか見えない姿は擬態だった。

それも葉っぱや環境に擬態するのではなく、ドラゴンの鱗に。

さっき船上で拾った鱗は、上部が銀色の縁取りでベースはオレンジ。中央の上部に血合いのような紋があり、下部に中骨のような紋が付いていた。

サケの切り身がびっしり生えてるドラゴン・・・生臭そう・・・

恐らく、近くにドラゴンが居ると喧伝することで、近くに寄らせないための警戒色のようなものなのだろう。

・・・いや、でもこれはちょっと・・・どう見ても切り身じゃん・・・


そんな事を考えつつも、一通り作業は終わり、遅めのお昼ごはんをいただく。

昨日とは違い、牛乳や根菜類があったのか、ジャガイモやニンジンが入ったクリームシチューだった。もちろんサケが入った。


翌日以降も漁に参加し、ドラゴンに襲撃される事5回。そのうち、溺れて死にかけたのが2回。

散々ではあったが、みんな優しくしてくれて、飯も美味しかったのでまぁ良しとしよう。

なんとなく、ブラック企業に染まっていく、社畜ならぬ異世界奴隷になっていっているような気もするが。

そして、冬が始まる前には漁は終わり、私はバーイリンへの帰りの馬車で揺られていた。

持ってきた荷物とは別の包みに、たっぷりの塩鮭を詰めて。

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