異世界生物怪奇譚8:フクロウ
ここは異世界、ナイラーヘイムル。
日は東から登るし月は一つだが、生き物は現実世界と少し違う。
そんな世界。の少し変わった生き物のお話。
これは何時の事だっただろうか?あまり覚えていない。
何かの依頼を受け、一人で野道を歩き、山へと入っていた。
採取だったか?狩猟だったか?
とにかく、山へ行かなければならなかった。
徒歩で行ける距離ではあるが、人里からは少し離れた森の中。
日帰りが間に合わない可能性もあったので、野宿の準備もして向かう。
街道から外れ、野道を歩き、獣道に入っていくと、どんどん森が深くなっていく。
木々は鬱蒼と生い茂り、下草が少ないのは幸いだが、根は大きく張り出し歩きづらい。
鳥のさえずりや虫の鳴き声も、数歩進むごとにどこからか聞こえてきていた。
そうして、奥へ奥へと進んでいくと、少し開けた場所へと出る。
水辺。湖と言うほどには大きくないので、池と呼んだ方が良いだろうか。
畔の向こう側には、小さい小屋が見えた。
スイレンの葉が浮かぶ池の縁を回り、小屋へと歩いて行く。
ところどころ、ぬかるんでいて足を取られる。
よたよたとバランスを取ろうとして、足踏みをしていると、傍らではカタクリの花がこうべを垂れていた。
ようやく、小屋に辿り着いたが人の気配はない。
小屋の周りをぐるっと回ってみたが、窓は全て閉じられ、中からの物音は聞こえてこない。
付近の足元も私が付けたものだけ。少なくともしばらくは人が近寄ってはいないようだった。
意味は無いが、ドアをノックしてから戸を開ける。
家の中には誰も居ない。
ずいぶん放置されていたようで、埃とカビの混じった匂いが漂っていた。
中に入ると、足元で埃が舞う。
窓を全て開き、閉ざされていた小屋に光と空気を取り込む。
小さな本棚と机、椅子、ベッド2台が置かれており、空いた隙間は広くはない。
調理場や収納はないので、近所の村人が使う避難小屋みたいなものなのだろうか?
場所としては、森の入口から近すぎず遠すぎず。水場もあるし、今日はここで一泊させていただこう。
さすがに埃が酷いので、近くで手ごろな木の枝を折り、箒代わりに小屋を掃除していった。
大して広くもないので、すぐに掃除を終えると、荷物を降ろし辺りを散策する。
森の中では時折ガサゴソと、ネズミかリスが走るような音が聞こえるが、姿は全く見えない。
果物や野菜はいくらかあったので、適当に収穫して小屋へと戻る。
小屋の中では調理が出来ないので、外で火を起こし、持ってきていた小さな鍋で煮炊きをする。
日が落ちてきたころには、料理は出来上がり、湖面に映る焚き火の揺れる明かりを眺めながら晩御飯をいただいた。
食べ終わると、池で洗い物をして、小さなランタンへ火を移し、焚き火の火を消す。
小屋の中へ入り、池を振り返ると。
青白い満月が、池の中央に静かに浮かんでいた。
夜更けの森の中に、梟の声がかすかに響く。
朝、目が覚め起きると、ゆっくり窓を開く。
朝日が小屋に入ってきて、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
昨日は気付かなかったが、本棚には3冊の本が並んでいた。
一冊手に取り、表紙を開く。
これは他で見た事もある、宗教の経典だった。しかし、装丁や文体がかなり古臭い。
閉じて、次の本を開く。
これには何も書かれていなかった。
消えやすいインクで書かれたものかと思い、外で光りに当てたり、表面をなぞってみたが、本当に何も書かれていなかった。
そして、最後の本。
これは・・・読めない。挿絵がついているが、ねじ曲がった抽象的な植物の絵や、天文のような図が付いている。
しかし、現代でも、この世界でも見た事がないような言葉が掛かれており、内容はわからなかった。
もしかしたら他に何かあるかもと思い、ベッドの下を覗いたり、床をいくらか叩いてみたりしてみたが、特に何も見つからなかった。
本を元に戻し、戸締りをして、小屋を後にする。
そうして、また湖畔を回り、来た道を帰って行った。
ここに、何をしにきたんだっけ?
しばらく歩いていたが、なかなか出口に辿り着かない。
来た時はそんなに遠くなかったはずだが、数時間経っても木々の鬱蒼とした獣道が続いている。
そうして、歩き続けていると、開けた場所に出た。
昨夜止まった小屋のある、あの池に。
道に迷った。
災難ではあるが、この池に出たのは不幸中の幸いか。
日も少し傾いてきていたので、無理はせずにあの小屋にもう一泊しよう。
昨日と同じように、いくらか辺りを散策し、果物や野菜を集める。
また火を起こし、煮炊きをし、片付けて眠りへついた。
雲は出ていないが、池に月は浮かんでいない。
夜更けの森の中に、梟の声がかすかに響く。
翌朝、支度をして、また森からの脱出を試みた。
覚えていた道は間違っていたので、今日は手法を変えてみる。
時間を数えながら、太陽の位置や切り株の年輪を見て、真っすぐ南へ進む。
多少通りづらいところや、危険はあるだろうが、大した距離ではないはずなので、遅くとも夕方くらいには森の外には出られるだろう。
そうして、小まめに方角を確認しながら、道なき道を進んだ。
獣道とも呼べない森の中を、小さな崖を降りたり、小沢を跨いだりしながら進んでいく。
そうすると、また開けた場所に出た。
あの、小屋があるスイレンの浮いた池に。
また戻ってきてしまった。
そう何日も森の中にはいられないので、早く帰りたかったがすでに日は斜めになってきていた。
焦る気持ちはあるが、夜の森の中などとてもじゃないが歩けるものではない。
昨日と同じように、いくらか辺りを散策し、果物や野菜を集める。
また火を起こし、煮炊きをし、片付けて眠りへついた。
雲は出ていないが、池に月は浮かんでいない。
夜更けの森の中には。梟の声が響き渡る。
朝日で目が覚める。
どうやら、戸締りがしっかりしていなかったようで、窓の一つが開いていた。
少し建て付けが悪いのかもしれないと思い、念入りに戸締りをして、小屋を後にした。
今日はまた手法を変えて帰路を進むことにする。
覚えていた道で大きな分かれ道を逆に進む。見た事が無い道に出てしまったら、一度分岐点まで戻ればいい。
そう考え、淡々と森の中を進んでいく。小一時間くらい歩いた頃、それは来た。
音もなく、目の前の樹上に大きなメンフクロウが突如として現れる。
「名も無き旅人よ。お困りかな?」
声の主は、そのメンフクロウだった。しわがれた老人のような声が、森の中に静かに響く。
私が驚いていると、メンフクロウはさらに続ける。
「森の外まで案内してやろう。もちろん、代償は払ってもらうが。」
突然の出来事に困惑していたが、なんとかわずかに言葉を返す。
「代償とはなんですか?」
メンフクロウは、低く嗤うとゆっくりと答えた。
「なぁに、命までは取らない。"い"だけで構わんよ。」
"い"とはなんだろうか?
しばし逡巡したが、森の中で野垂れ死ぬわけにもいかないので、申し出を受ける事にした。
その瞬間、耳鳴りがし、軽くめまいが起こり少しふらつく。
身体は特 、 ょうはな ようだ。
だが、な かがおか 。
がだ ょうとはこう う事か。
外へ出るまでの間なのか、それとも続くのか。
身体は健全だが、言語はとても困難である。
ベース文を書くのも苦痛だ。
そこから、外へ出るまでは速かった。
メンフクロウがルートを作ってくれるおかげで、夕焼けの頃、我が家へと戻った。
部屋でバッグを床へ置く。疲れ果て、服も変えずベッドで眠った。
翌朝、この苦難を治すため、我は僧の元へ向かう。
幸福なことで運よく、僧が作るウォータードラッグで治るそうだ。
お布施を払って、僧がそれを作るのを待つ。
空が暗くなる頃、そのウォータードラッグをようやく受け取る事となった。
僧が我へ語る。
「出来ましたよ、呪いに効く聖水の水薬。いい薬が出来たので、ちゃんと効いてくれるといいですね。」
僧は我がアレを使えぬのを分かってるので、その発言は我を貶す発言と思えた。
だが、やむを得ぬので、腹は立ったがそのウォータードラッグを飲む。
「どうですか?ちゃんと効きました?」
修道士が私に問いかけてきた。
うん。ちゃんと効いてくれたようで、"い"を使えるように戻っている。
このままだと、放送事故ならぬ投稿事故になってしまうところだった。
知っていながら"い"を山ほど使いやがって、と修道士に対してのイライラはあったが、ちゃんと治ったので不問とする事にした。
月日は流れて、とあるヤシマの居酒屋。
ナギが盃を片手に、私の過去の冒険話を聞いていた。
ニコニコしながら、うむうむと身を乗り出していたナギに私は続ける。
「こんな事があるから、あん だ ょうを払うのは良くな んだよ、ナ 。」
それを聞いたナギは、爆笑してひぃひぃ腹を抑えながら、かろうじて答えた。
「アハハハハハ!お兄やん、それ治ってないやん!"い"が言えてへんやん!」
そう て、ヤ マの夜は更けて った。




