異世界生物怪奇譚4:ソラマメ
ここは異世界、ナイラーヘイムル。
日は東から登るし月は一つだが、生き物は現実世界と少し違う。
そんな世界。の少し変わった生き物のお話。
思えば、この世界で初めての洗礼だったのかもしれない。
なんとなく異世界へ召喚され、右も左もわからず、とりあえず宿に泊まった時の事。
それなりに異世界からの転生者は多いのか、着任研修は充実していた。
どこかの勇者のように、ひのきの棒と小遣い賃だけ渡されて放り出されるのではなく、最低限の座学と物資支給、身分証に宿に仕事にと、至れり尽くせりである。
そうして、仮住まいの用意が出来るまでの間としてあてがわれたのがこの宿。
本来であれば、城内の客室らしいのだが、改装中だとかで街の宿を用意されていた。
タダなんだから、文句を言ってはいかんのだが、汚いし暗いし臭い。
まぁ、お城の客室も街の宿と大して変わらないのかもしれないが。
家具は黒ずんでるしカビ臭いが、寝具はきちんと洗濯されているのか、綺麗だったのは幸いだった。
ふと、部屋を見渡すと、机の上に紙の束が置かれている。
木製の窓を開けたが、それでも暗いので燭台を近づけてみた。
なんだろう?宿の紹介とか、仕事の契約書とかだろうか?
"新規オープン!ふわふわのパンがなんと30ペンス!"
パン屋の広告?期待していた物とは違ったが、他の書類はそうではないかもしれない。
パン屋の広告を脇に置き、次の書類に目を通す。
"急な出費でも大丈夫!30日間金利ゼロ!あなたのゴルト金融!"
今度は消費者金融だった。年利150%は高いだろ。いや、そうじゃない。
何か嫌な予感はしてきたが、次の書類、もといチラシに目を通す。
"3年ぶりの全国公演。あなたの街にも憧れの楽団が。"
あー、次はコンサートかぁ。異世界の音楽も聞いてみたいなぁ。
どれどれ、次はどんなチラシだろうか?
"信じる者は救われます。毎週日曜日9時半よりミサ。寄付歓迎。"
教会もビラを撒くのか。何故か女性の絵が描かれていたり、他のチラシより色鮮やかなのが気になるが。
そうして、30枚近くのチラシに目を通したが、全部広告だった。
消費者金融のチラシは5枚もあった。景気が悪いのか・・・?
チラシに対する脱力感なのか、異世界疲れなのか、少し身体のダルさを感じ、ベッド上に転がっていた。
そこから、15分か20分くらい経っただろうか?
窓からの西日が部屋の奥に突き刺さったあたりで、部屋のドアがノックされる。
ドアを叩く音と同時に、外から声を掛けられた。
「晩御飯が出来ましたよ。食堂へ降りてきてください。」
はーい、と返事をし、重い腰を上げ宿屋の階段を下りていく。
食堂は割と広く、部屋や廊下に比べるとずいぶん明るい。
席について、しばらくすると料理が運ばれてきた。
蒸された根菜類に、ステーキ肉と、赤いスープ。
それにパンとチーズも付いている。
城内の客室の代わりだけあって、食事は豪勢だった。味はわからんが、現実世界で食べたとしても、そこそこのお値段がしそうである。
かなりクセが強いチーズやら、香草類やらの匂いに苦戦しながら食べ進めていると、さらに籠に盛られた何かが持ってこられた。
「これはサービスだよ。今朝、採れたばっかりのソラマメ。」
ラグビーボールくらいの籠にぎっしりと、大き目のソラマメが10本くらい入っている。
緑が鮮やかでツヤもあり、新鮮なんだろう。生きが良く動いてるし。
動いてる・・・?
籠に入ったソラマメは、表面をボコボコさせたり、震えたり、ピチピチしていた・・・
気味が悪いと思いながらも、恐る恐る一つ手に取り鞘を割ろうとした。
その時。
「お客さん!なにやってんの!ソラマメ食べた事ないの?」
宿の女将さんに怒鳴られたかと思ったら、ソラマメをひったくられる。
「これは!こうやって!食べるんだよ!」
ガッ!ゴッ!グチュ!
ソラマメはテーブルに置かれ、鉄槌打ちで3度潰される。
私が知ってるソラマメからはしないような、生々しい音が聞こえた。
女将さんは少し潰れたソラマメを手に取ると、ヘタの当たりを千切って私に渡してきた。
「こうやって。潰してから、ヘタを千切って、中を飲むんだよ。」
出されるがままに、受け取ってしまったが、気分は初めて納豆を食べる外国人のような。
汚物でも扱うかのように、指先でつまむように触りながら、鞘を押しつつ中身を啜ると・・・
あ、ソラマメだ。ソラマメのポタージュスープ。
塩味が無いのが残念だが、少し甘く、しっかり旨味があって美味しい。
香りも普通のソラマメで、チーズなんかに比べるとよっぽど食べやすい。
意外と美味しかったので、二つ目に手を伸ばして、ドカドカと潰したところでハッとした。
これの中身って・・・
そうして、一本目のソラマメの切り口を見たが、幸いにも緑色だった。赤かったら泣いてたかもしれない。
なかなかにボリューミーな晩御飯だったが、ソラマメも含めてペロリと平らげてしまった。
こっそり、一本だけ懐に隠して持ち帰ったが。
そして、次の日。
朝から城で軽い説明を受けた後、ギルドクエストもとい隣町へのおつかいへと向かう。
身分証を提示し、城下を抜け、人の目が届かなくなった辺りで、ついに本題である。
ソラマメの中身が見たい。
カバンに忍ばせていたソラマメは、まだゴソゴソと動いていた。
改めて、グルリと回しながら眺めてみたが、外見は普通のソラマメそのものだった。
嫌な予感がしつつも、鞘の縁に爪を立て、少しづつ割っていく。
そうして、少し中が見えそうになった瞬間。
パカッと割れて、中身が飛び出してきた。1つは顔の方に飛んできたので、咄嗟に目を瞑ってしまう。
頬に痛みを感じ、地面に蹲ってしまったが、急いで辺りを見回した。
カサコソと這うような音が聞こえたので、そちらを見ると。
ヤツがいた。
緑の胴体に蜘蛛のような細長い八本足。蟹のように目が飛び出て、触覚のようなものも生えている。
その、"ソラマメ"たちは、草原の彼方に走り去って行った・・・
頬から滲む血を拭いながら、隣町への道へと戻る。
歩きながら嫌な事を考えてしまった。
これ、環境破壊にならない・・・よね?いや、黙っておこう・・・




