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異世界生物怪奇譚  作者: 入舟三叉


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異世界生物怪奇譚1:ワタリガニ

ここは異世界、ナイラーヘイムル。

日は東から登るし月は一つだが、生き物は現実世界と少し違う。

そんな世界。の少し変わった生き物のお話。


そう、あれはこの世界に来て初めての夏だった。

北海への交易の護衛と、何かの人手が足りないとのことで、半分は荷馬車の荷として駆り出されていた。

いくつかの都市に寄り道をしながら、20日ほど掛かってその北海の街へと辿り着く。

道中は順調そのもので、問題と言えば、隣国の王都の飯が美味過ぎて予算オーバーしたことくらい。


北海の街は大きな港町として有名で、冬は雪に閉ざされているものの、夏は世界各地から多くの船や、陸路でも人が集まり活気に沸いている。

街に入る直前から、様々な異国の衣装や、肌の色、亜人や異種族など、さながらナイラーヘイムルの人種の見本市となっていた。

当然、北海航路での貿易品が目当てではあるのだが、真の目的はもう一つ。


私はまだ何も聞かされていなかった。

雇い主の商人や、その従者が荷を売ったり、仕入れで商いをしている間は暇だったので、街をぶらぶらとする。

海を伝って来たものなのか、寒い地方には似つかわしくない、原色の赤や黄色、鮮やかな青やピンクの産物が右へ左へ運ばれ、一部は露店で売られている。

そうやって、土産に何を買おうかと混雑する通りを歩いていると、ある事に気が付いた。

やたらとデカい奴らが多い。

この街よりもさらに北に住んでいるという、屈強なマハ族は居てもおかしくないのだが、遥か南の鱗の亜人や、新大陸の角付きだったり、2mを超える巨漢のグループが通りを窮屈そうに歩いていた。


そうこうしていると、日も暮れてきたので宿屋に戻り、隣の酒場へと向かった。

そして、雇い主の商人や従者、その他の護衛として雇われた者などと食卓を囲んでいると、酒場の戸が勢いよく開かれた。

「来たぞっ!今年は大軍だ!飯なんて食ってる場合じゃねぇぞ!」

口は汚いが、身なりは綺麗な男がニコニコしながらそう大声で告げる。

言い終わると、今度はバンと音を立て、戸を閉めると走り去って行った。

それを聞いた商人は立ち上がり、手を大きく叩く。

「よし!俺たちも急いでいくぞ!準備して馬車に集まれ!」

全く状況がわからないまま、促されゴソゴソと馬車へ乗り込む。

馬車に揺られながら、隣に座っていたリーダー格の年嵩の男へ聞いた。

「あのぉ・・・これから何があるんですか?」

問われた年嵩の男は、ガハハと豪快に笑うと、私の背中をバシバシ叩きながら答えた。

「聞かされてなかったのか。そうかそうか。今からワタリガニを取りにいくんだよ。大仕事だぜ?」

あぁ、ワタリガニか。ニシンみたいなもんで、水揚げの手伝いかなぁと思っていた。

この時までは。


「着いたぞ!」

馬車の前方から声が聞こえ、左右に振り回されながら馬車が止まる。

走っていた間は気付かなかったが、腹に響く地響きと、辺りで飛び交う怒号。

そして、馬車から降りると、どこそこでテントと篝火が炊かれていた。

辺りをキョロキョロと見まわしてると、どんどん地響きが近づいてきた。

「おーい!その辺は危ないぞぉ!もうちょっと山側へ下がれー!」

遠くに見える、テントの男が手を振っている。私たちは急いで、そのテントの方へ向かった。

「ほら、危なかったろ。その辺だと轢かれちゃうぜ。」

そう、指さされた方を振り向くと。

カニだった。ただし、大きさと数はそんな可愛いものではなかったが。

高さは4~5メートル。全幅は10メートルは優にあるだろうか。

それが一匹ならまだ良いが、見える限り地平の果てまで、延々と続いている。

えっ?これを狩るの?いくらガタイが良い男でも無理じゃない?

そんな事を考えてると、また声が聞こえてきた。

「無理に近づくなよ!弱って、列から弾かれたやつだけだからな。去年も7人やられてるんだから、気を付けろよ!」


勝手がわからずわたわたしていると、群れから一匹、また一匹と弱ったカニがはじき出され始めた。

動きを止めたところに屈強な男たちがロープをかけ、群れの列から少し離れたところまで牽引していく。

そうして、連れていかれたカニはひっくり返されると、口の部分に長い剣を差し込まれた。

しばらく足を痙攣させながら収縮すると、その後にだらんと弛緩させる。

あぁ、このサイズでも締めるんだなぁ。なんて思っていると、解体が始まった。

次々に足や関節がバラされていき、中身が掻き出されて、辺りに撒かれていった。

そして、別の集団では、中身の抜かれた殻を手際よく、馬車に積み込んでいっていた。

え?食べないの?こんなに大きなカニなのに?

しゃぶしゃぶは?ステーキは?


夜が明け、カニの列が途切れるまで、次々とカニを解体し殻を積む。引きずって、締めて、解体して、描き出して、積む。

私たちのグループは、隣のグループと協力し、なんとか7匹ほど確保出来ていた。

馬車が満杯になると、その時点で街まで往復していたようだが、まだ積み残しの殻が3匹分くらいそこら辺に纏めてある。

私たちのグループの半分くらいは、疲れ切ったのかテントで仮眠を取っていたが、向こうの獣人グループは馬車待ちが暇なのか、外で酒盛りをやっている。

そして、私は多少余力があったので、酒盛りをやってる集団に酒をたかりに行っていた。


そこで、詳しく「ワタリガニ」について教えてもらった。

このワタリガニは、年に一回産卵のために、上陸して湖まで旅をするそうな。

分厚い部位は、食器や鎧など様々な加工品の材料としてつかわれ、その他の部分は焼いて肥料にするんだとか。

特に肥料として優秀だそうで、ワタリガニが多かったか少なかったかで、この一帯の穀物の生産量が変わるくらいのものらしい。

身は残念ながら食べられない。ぴえん。

鮮度が落ちるのが非常に速く、さらに殻が変質する原因になるので、その場で捨てちゃうと。もったいない。

まぁ、無理に食べようとしても、アンモニア臭かったり、下痢したりでとても食用には向かないそうだが。

それで、産卵する湖からはまだ遠いが、輸送や地形の良いこの辺りで、素早く処理して回収していると。

ちなみに、欲張った王族が産卵地の湖に罠を張って、一網打尽にしようとしたところ、カニの怒りを買って国が滅ぼされたという伝承から、誰も無理せずにおこぼれに預かるだけになったとかなんとか。


カニ・・・食べたかったなぁ・・・

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