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転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第一章「特殊第六執行部隊」1-3「ロザリア編」
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CASE.051「終演」

ご覧いただきありがとうございます。


※本作はカクヨム、noteにも掲載しています。

設定資料をご覧になりたい方はぜひnoteに訪れてみて下さい!!

「――長々とお聞きいただき、ありがとうございました」


「そんな……そんなこと、あり得るか……!」


 時は現在へ戻る。


 ヴォルツの大まかな背景。

 ロザリアの誕生秘話。

 ルーンプリンスの設立。

 そして、王権簒奪へ至る動機。


 それらを一気に叩きつけられたことで、ダリヤは膝から崩れ落ち、ほとんど半狂乱のまま涙を零していた。

 目を見開き、肩を震わせ、喉の奥から掠れた嗚咽を漏らす。

 受け取った情報が茨のように、彼女の脳を締め付けているのだ。


「残念ながら今お話ししたことは全て事実でございます、ダリヤ王女」

「嘘だッッ!!」


 吐き捨てるように、ダリヤはヴォルツの言葉を否定した。


 父が宝国を守るためではなく、侵略するために戦っていたという事実。挙句の果てに民を使い潰し、それでもなお征服という名の野望を追い続けた現実。

 その結果、民の心は離れ、ロザリア勢に傾倒し、ついには王権が崩壊する。


 当然、ダリヤにとって到底受け入れがたい事実である。


 それは己の12年間――苦虫を噛み潰し続けてきた地獄の時間の、その根底を。その行動原理そのものを、根っこからひっくり返すに等しいものだからに他ならない。

 民は正しき指導者を讃え、父は滅ぶべくして滅んだ。

 宝国に今も伝承される歴史書は、その史実をありのままに語っていたのだ。


「いやだ……! そんなはずはない!! そんなはずは――」


 そんなこと、あってはならない。

 認めたくない。

 全力ですべてを否定したい。


 だが全ての辻褄が合ってしまう。

 洗脳に端からかかっていないヴォルツ、そしてロザリア政権を快く享受した民達がまさにその証明だった。


「そう思うのも無理はないでしょう……が、あちらの方ならお分かりなのでは? 向こう側の御三方諸君」


 ヴォルツがこちら(特殊第六執行部隊)を見た。


 ドゥーはすぐさまミラへ手で合図を送る。

 だが当の本人は、いまだヴォルツのルーツの調査に躍起になっているらしく、イヤホンの向こうでは高速でキーを叩く音が鳴り続けていた。

 カイもまた、本部との照会を続けている最中らしい。


 これでは埒が明かない。

 そう思った束の間、意外な人物の声が割って入ったきた。


「ドゥー執行官。僕の声を出力することは可能かな?」

「! ユリスさん!」


 ドゥーはいそいそと左腕のガントレットを操作する。

 辛うじて多次元間音声出力だけは機能していた。

 それ以外の補助機能はほとんど沈黙したままだというのに。こういう最低限の仕事だけは果たすあたり、やはりFREYAの基礎性能だけは侮れない。


「あー、あー。聞こえるかな?」

「聞こえます」

「ユリスだ!」

「起きてるの珍しっ」


 ドゥーのガントレットから、ユリスの落ち着いた声が響き始める。


「ほう……貴方は?」

「誰だ!?」


 第三者の介入に、ダリヤが勢いよく振り返った。

 ヴォルツは眉ひとつ動かさず、その面妖な技術にむしろ感心したような目を向ける。


「音声のみの身だが失礼する。僕は特殊第六執行部隊・監査官のユリス。君たちの前にいる3人の上司とでも言おうか」


「ふむ……それで?」

「ダリヤ王女。残念ながら、彼の言うことは全て事実だ」


「馬鹿な!! どこにそんな証拠が……ッ!! というか本当に誰だ貴さ――」

「証拠はまさに今の宝国だろう。君の父、トルマリン・カスケリオン王は愚王として誅殺され、ロザリアを主とした新たな政権が確立された。だが暴動どころか、内紛、それらしき事象すら大戦以降こちらでは確認できないのだよ」

「それは……彼らがあの悪女に騙されたからだッ!!」


「うーむ。君は阿呆ではない。それは12年間の潜伏が証明している。だからこそ君はもう気付いているはずなのだが、どうやら脳がそれを拒否しているらしい」


 半狂乱のダリヤ王女を他所にユリスは淡々と説明した。


「もし、君の父――トルマリン・カスケリオン王が民から愛された“賢王”であったならば、少なくとも反対勢力の1つや2つは必ず生まれる。人は元来、変化を嫌うのでね。当然民の中には旧体制に縋る者が出る」

「だから……それはあの女の能力で……」

「そこまで彼女の能力は万能ではない。認識を改変できるのは、あくまで関係を持った者に限定される。恐るべき能力だが、同時に明確な制約もある。故に、この国すべての民と関係を持つなど物理的に不可能であることは、君にも分かるだろう?」


「………………ッ!」


 それもそうだ、とドゥーも内心で納得する。


 執行者視点でも、ほんの12年前に王権が崩壊したとは思えぬほど今の宝国は平穏そのものだった。

 もしトルマリン王が本当に民から愛されていたのなら、この国は今ごろロザリア政権派と旧王権派に真っ二つに割れているはずだ。

 ルーンプリンスが反対勢力をすべて潰した可能性もゼロではない。

 だが、それでは国家の存続が難しい。民がいるからこその国家は成り立つというのは有名な話だ。そしてその民全員とロザリアが関係を持つというのは、あまり現実的ではない。特にあの過去を聞いてからは。


 だからこそヴォルツの語った過去は、今の宝国という現実に恐ろしく綺麗に噛み合ってしまう。


「なんか思ってたのと違ーう」

「話が重いっ!」


 今まで出会って来た物語の中で随一の濃さである。納得感と説得力。そしてラブロマンスまでを兼ね備えたヴォルツの愛の物語。

 それでも、ドゥーには一つだけ分からないことが残っていた。


「そんなはずは……そんな馬鹿なことがあるものか……」

「ご説明ありがとうございます。ジョウシのユリスとやら」


 ヴォルツが一歩、また一歩と歩き出す。


 いつの間にかその手には、宝石のような装飾で飾られた剣が握られていた。

 角度によって色味を変える刀身。

 鍔から柄にかけて散りばめられた宝石細工。


 その外見は、まさしく“宝剣”と呼ぶに相応しい。

 彼が大戦時代、幾多の戦場を切り開いた得物そのものだろう。


 そんな彼にドゥーは常々思っていた疑問を投げかけた。

 

「一つ聞きたいのだが」


「…………ハァ、なんでしょう?」


 ヴォルツはため息をつきながら渋々ドゥーの問いに対応する。


 正直、勝算は少ない。

 まともな武器は無し。FREYAもその防御性能のほとんどを失っている。

 今ある勝算と呼べるものは、ミラの解析とカイの応援要請だけだ。


 よってドゥーはとにかく、時間を稼ぐほかなかった。


「お前の話からすると、貝塚穂香――ロザリアの性格はそこまで破綻してはいなかったように聞こえる。少なくとも男を略奪するという発想が、自然に浮かびそうには思えないのだが……何故だ?」

「そうだ……そうだそれがあった! 過去がどうあれ、あの女がしてきた蛮行は消えはしない!! それはどうなのだ、ヴォルツ!!」


 反論の余地が見えたのか、ダリヤもドゥーの問いに食らいついた。

 するとヴォルツは歩みを止め、静かに言った。


「あれは全て、私の責任です」

「…………は?」


「薄々気付いていましたとも。ロザリア様、そして私はこの世界由来ではないこと。そしてこの世界もまた、作り物であることも」

「…………(この男、そこまで勘づいていたのか……)」


「私と彼女はあまりに異質すぎる。同時に、この世界もまた歪です。どの国の歴史的背景も、地理的整合性もまるで粗雑。後から付け足したかのように継ぎ接ぎで、あまりにも杜撰なのです」

「……何を言ってるんだ、お前は……」


「私にはこの世界が、誰かのために都合よく用意された出来損ないの舞台にしか思えないのですよ」


 ダリヤが、理解できないと言いたげに後ずさる。

 だがヴォルツは構わず続けた。


「だからこそ救済せねばならない。この世界の駒でしかない、この世界の人々に、せめてもの救いを届けたかった。私はそれを、ロザリオ様に託してしまった」

「それが“ルーンプリンス”だというのか……」


「な、何を言ってるのだッ! お前たちは!?」


 ダリヤは耳を塞ぎ、胎児のように蹲る。


「わからない! 何が何だか…私にはもう……」


 もはや現実を、これ以上情報を受け取りたくない。

 そんな拒絶の体勢になる。


「偽りの物語から解放され、ロザリア様の騎士という役目を与えられたのです。少なくとも、こんな世界で操り人形になるより遥かにマシでしょう」

「……。どのみち彼らもお前たちの操り人形のようなものだと思うが——」


「違う。断じて違う」


 ヴォルツの声が初めて、異様に強く響いた。


「彼らには意思があり、選択肢があった。私達が与えたのは、信奉する神を選ぶ“機会”です」

「…………そんな戯言、信じるとでも――」

「いえいえ(笑)。納得してもらうつもりはありませんよ、赤目の方。自分がとうに狂っていることなど、重々承知してます」


 自嘲でもなく、開き直りでもない。

 それは己の狂気を正しく認識した者だけが持つ冷えた諦念のような声音だった。


 

「だが、それもまた良し。この欺瞞に満ちた物語など破綻してしまえばいい。この下劣な世界の駒として終わるくらいなら、私は最後まで狂い続ける――それが私に与えられた、最後の使命なのですから」

「…………」


「そして私の物語は、貴女によって終わりを迎えるのです、ダリヤ王女」

「――っ!」


 耳を塞いでも聞こえてしまったのか、ダリヤは即座に起き上がる。


「分かっていますとも。我々は、到底許されないことをした」

「ヴォルツ………」


「無知は罪です。だが、()()に罪は無い」

「やめろ……」


「貴女もまた、この物語の駒の1つ——」

「やめてくれ……」


「無知という役目を与えられた貴女もまた、我々と同じ被害者なのです」

 

(なるほど…………な)


 ドゥーは、この男の正体をようやく理解し始めていた。

 ヴォルツ・ディ・エルヴァニス。


 この男の心はとっくに壊れている。


 異なる次元――この世界の創造主たる神々と同質の“神域”由来だからこそ、彼にはこの世界が酷く滑稽で作り物めいて見えるのだろう。

 彼が言うこと為すことその全てが、ただの悪役の言い訳ではなく、神域由来の視点を持った破綻者の論理そのもの。

 必死に理屈を並べ、筋を通しているように装ってはいるが、まともな感性はとうに摩耗している。


 だが、それも無理もない。

 彼の人生は、必死に生き抜いたそのすべてが、最初からこうあれと敷かれていたものだったのだから。

 今の彼には、この世界は線画の無い乱雑なラクガキにしか見えないのだ。


「だから、貴女には私たちを罰する権利がある。義務がある。その役目がある」

「……な、なにを言ってるのか分からない、ヴォルツ……。私は、ただ――」


「だから、私は貴方を許します」

「――こんなこと望んでない……」


「貴女の無知を許します」

「うぅ…ッ!」


 ヴォルツは、一瞬だけ空を仰いだ。

 対照的にダリヤはゆっくりと地に伏した。


「貴女のおかげで、私のこの、ホノカ様への愛だけは、作り物ではないと分かりましたから……」


 ずっとずっと、この思いをも疑い続けた。

 この熱烈な愛もまた、ロザリアの能力によるものではないかと。これすら仕組まれたものではないかと。


 だが違った。


 彼女は死に、ルーンプリンスも瓦解した。

 それでもなおこの胸の熱は消えることはなかった。

 彼は今なお、ロザリア・ディ・エルヴァニスを愛している。


 皮肉にも彼女の死が、その愛を証明してしまったのだ。


「だが貴方方は許しません」

「…………ッ!(あぁもう、時間稼ぎもそろそろ限界だぞミラァーッ)」


「その異様な装いに、ルーンプリンスを蹂躙するほどの戦闘力。もしや貴方方はこの物語の、諸悪の根源と同じ側の者ですよね?」

 

「げぇ、バレてるよドゥー!」

「激ヤバ……」


 殺気がドゥーら三人を包み込む。

 インヨウ兄妹は己の正体を看破され、子供ながらに状況の深刻さを体で表現していた。

 そしてドゥーは気づいてしまう。

 彼から放たれる圧力が、あの時ブッダ神に感じた()()を彷彿することに。


(チッ、本当にこのままやるのか!?)


 ドゥーたち3人が、同時に戦闘態勢を取る。

 ダリヤは言葉を失ったまま、ただその場に蹲るほかなかった。


「お前たちの好きにはさせない……」


 ヴォルツの声音から、人間らしい抑揚が消えていく。

 それは覚悟を決めた者の声。

 星光を受けた宝剣がゆっくりと持ち上がり、その切っ先が真っ直ぐドゥーたちを捉えた。



「貴方方はここで殺します。そして私はダリヤ王女に殺される。これを以て、“ヴォルツ・ディ・エルヴァニス”の終演とします」


【今回の用語まとめ】


■ヴォルツの告白

ヴォルツが語った、旧宝国崩壊とロザリア誕生の真相。

トルマリン王の侵略戦争、民の疲弊、ロザリアの台頭、ルーンプリンス設立までの流れが明かされた。

これにより、ダリヤが信じていた“父は無念の賢王だった”という前提が大きく崩れることになる。


■ダリヤ王女の崩壊

12年間信じ続けてきた復讐の根拠、その根底から揺るがされた状態。

父トルマリン王が本当に民から愛された賢王であったなら、ロザリア政権に対する大規模な反発が起きていたはずだった。しかし現実の宝国は、ロザリア政権を受け入れ、平穏を保ち続けていた。

それこそがダリヤにとって最も残酷な証明となってしまう。


■ヴォルツ・ディ・エルヴァニスの終演

ヴォルツが自ら定めた結末。

特殊第六執行部隊を殺し、その後ダリヤ王女に討たれることで、自分の物語を終わらせようとしている。

これは復讐でも勝利でもなく、壊れた騎士が選んだ幕引きである。




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ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ



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・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。

・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

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