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転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第一章「特殊第六執行部隊」1-3「ロザリア編」
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CASE.048「魔の手」

ご覧いただきありがとうございます。


いよいよロザリア編がクライマックスになってまいりました…

そして私の執筆もいよいよ追いついていない状況です。アカン!!


※本作はカクヨム、noteにも掲載しています。

 穂香とヴォルツ、二人の新婚生活は順調に進んでいた。

 ダリヤ王女との婚約という背景もあるため、公に結婚式は挙げず、近所公認の密婚という形で二人は夫婦として受け入れられていた。

 穂香の献身的な努力(?)も相まって、特に性格に難のある者たちを中心に頻繁にお裾分けを貰うことで、二人の生活はより一層の彩りを見せていたのである。


「おやおや、ヴォルツさん。おはよう~」

「おはようございます。本日のおすすめは何でしょう?」


 ヴォルツは今晩の買い出しに、八百屋へやってきていた。

 お裾分けのおかげで経済的に余裕が出てきたヴォルツは、仕事の時間を減らすことで愛しの穂香との時間を増やす調整をしていた。

 おかげさまで名物おしどり夫婦とまで言われるようになってしまったが、それはヴォルツにとってはとても誇らしいことである。


「ところで、名字はどうすんだい?」

「名字……ですか?」


 結婚に付き纏う名字の変更。

 もちろんヴォルツも考えていなかったわけではないが、あえて話題に出してこなかったのには理由がある。


「そうですね。そろそろ考えるべきですかね」

「まあ名字なんて大した問題じゃないわな。元気に暮らしてくれればそれでいい。あ、今日はキャベツがいいよ」

「……ありがとうございます。ではキャベツを一つ。それと人参も」


 とはいえちゃんと話さなければならない。

 これから長い時間を共にする上で、名というのは大事な要素だ。

 結婚式は挙げていないのだから、せめてそういった形で婚姻の証は欲しいところである。


「ホノカ様、帰りました」

「お帰りなさい、ヴォルツ」


 自宅へ帰宅し、愛しき妻を軽く抱擁する。


「“様”付け、まだ治らないわね」

「ははは……もう癖になってしまいまして……」


 かれこれ1年以上も“ホノカ様”呼びなので、今更呼び捨てもなにやら歯痒い。対して穂香はすっかり“ヴォルツ”呼びに慣れつつあった。

 ヴォルツはゴホンと咳払いをすると、神妙な面持ちで穂香と対面した。


「ホノカ様、大事な話があります」


 ――


「名字……」

「はい。我々は夫婦です。であれば姓も共有すべきかと思うのですが、どうでしょう?」


 台所で食事の支度をしながら、二人は真剣に話し合っていた。


「じゃあ私、ヴォルツの名字にするわ」

「え」

「? ……ダメなの?」


「いえいえ! そういうわけでは、ないのですが……」


 ヴォルツは言葉に詰まってしまう。

 個人的には穂香の姓である“カイヅカ”が好ましいのだが、どうやら穂香は自身の名前にどこかしらのコンプレックスがある様子なので、それも言い出せない。


「その……私の姓は、少々いろいろと不都合でして……」

「……そうなの?」


 ちょうどトマトのスープが出来上がったので、二人は食卓で続きをすることにした。

 豆や鶏肉が入った、比較的豪華なスープだ。温かく、とても美味しい。


「ヴォルツの姓って……何?」

「……カ、カスケリオンです。『ヴォルツ・カスケリオン』——それが私に与えられし名です」

「カスケリオン……え、あのカスケリオン?」


 さすがの穂香も“カスケリオン”の名くらいは知っている。

 現宝国の王――トルマリン・カスケリオンを筆頭とした王族の姓であり、現在進行形で好き勝手に暴れ回っているため、今や民から忌み嫌われている一族である。


「私は捨て子です。両親の顔も名前も知りません。そんな私を拾い、育て上げたのが他でもないトルマリン王です」

「そう、なんだ」


 ヴォルツから今の政権の腐敗っぷりを幾度か聞いたことはあるが、それでも彼が一時期戦士として大いに従事していたのにも、なにか大きな理由があると穂香は考えていた。

 弱みを握られているのか、それともただの出稼ぎか。

 だが育ての親となると、この話はまたその重みをより一段と増す。


「勿論あの方には恩義を感じています。だからこそ10年もの間、彼のために剣を振るい続けました。だが今のあの方は……もう……」

「……わかったわ、ヴォルツ」


 表情が暗くなりつつあるヴォルツの口に、スープの入った自分のスプーンを穂香は突っ込む。


「大丈夫。私は今、とても幸せ。だからこれ以上はもう、何もいらないの」

「ホノカ様……」


 八百屋と同じく穂香にとってもまた、名前というのは些細なことに過ぎない。

 彼女にとって、ヴォルツが愛の誓いをしたあの日の時点で、すでに十分に満たされていたのだ。

 彼女の言葉を聞いたことで、ヴォルツもまた我に返る。


「ありがとうございます……ホノカ」

「ふふ♡ やっと呼び捨てできたわね」

「あ……ハハハ……」


 彼女を選んで正解だった。

 あの日、あの城から飛び出した選択は間違いではなかった。

 剣を持たずとも、“宝剣”の名を捨てたとしても、ヴォルツは今幸せを謳歌していた。


 だがそれが、彼の人生のピークであった。

 


 ――――――

 


「どうしてこうなったのだ!!」


 宝国王城『ドン・クライム城』、軍議の間。

 かつては勝利の報告と次なる侵攻計画が高らかに語られたその広間も、今は重苦しい沈黙と苛立ちに支配されていた。


 長机を囲むように、宝国軍部の幹部たちと有力貴族たちが居並ぶ。

 誰もが疲弊している様子。

 目の下には隈、頬は痩け、髪は乱れ、身なりだけは豪奢でも中身はすでに擦り切れている。

 戦況図の上に散らばる駒は日に日に減り、補充の目途も立たない状況だった。


「……報告を繰り返せ」


 軍務卿の低い声に、若い伝令士官がびくりと肩を震わせた。


「は……セブンスソード帝国戦線、さらに後退。白鳳諸侯連合との国境線も維持困難との報が……」

「共和国残党の掃討はどうした」

「その、想定よりも反抗が激しく……加えて各地で徴兵忌避と脱走が頻発しており……」

「要するになんだ?」

「要するに瓦解寸前ということだろうが! この痴れ者がッ!!」


 机を拳で叩く音が鳴り響く。

 別の一人の一喝に、伝令士官は喉を詰まらせて黙り込んだ。


 場を支配するのは、焦燥と絶望。

 いや、それ以上に後悔である。


「……愚かだったな」


 ぽつりと、一人の老貴族が漏らした。


 その一言に、誰もすぐには反論できなかった。

 やがて別の男が、苦々しげに顔を歪めながら続ける。


「“宝剣”を手放した。あれは愚策どころではない。亡国を招く愚行だ」

「仕方あるまい。王の食事から脱走したのだ。捨て子風情がなんたる無礼千万。あの時はあれが最善だった」

「最善だと!? ふざけたことを!! その馬鹿馬鹿しい身勝手な決定で、こちらの戦線がいくつ崩壊したと思っている!?」

「は、貴殿も当時賛成派だったではないか。もちろん酒の勢いではあるまい?」

「貴様ァッ!!」

「フン……!」


 舌戦が白熱し、その後瞬時に冷える。

 誰もが薄々理解している。今は内輪揉めをしているところではないのだ。


 あの男が去ってから、宝国軍は明確に弱体化した。


 もともと宝国の戦線維持は常軌を逸していた。

 10の戦線を同時に支えられていたのは、兵の優秀さでも将の知略でもない。最終的には、たった一人の怪物が綻びを埋めていたからにすぎない。


 ヴォルツ・カスケリオン。

 “宝剣”の異名を持つ、宝国最強の騎士。血のつながらぬ、王の息子。

 彼が消えた穴はあまりにも大きすぎたのだ。


「今さら認めるのも癪だが……あの男の戦力は我ら宝国軍の戦力そのものだった」

「そもそも奴一人で戦線10を支えるという方が常軌を逸している! 奴も奴だ、なんなのだあの化け物は!」

「その怪物を、我らは自ら手放したのだがな」


 言葉の端々に滲むのは、自責と責任転嫁の入り混じった醜い感情だった。

 だが、今必要なのは反省ではない。


「……ならば、呼び戻すしかあるまい」


 その言葉に、幾人かが顔を上げる。


「戻ると思うか?」

「戻らぬだろうな。謹慎が決定した時もあの男は二つ返事で了承した。相当戦地が嫌になったと見える」

「それでも宝国の一員として、その義務を全うするべきではないのか!!」

「説得では無理だ。力づくでいくか?」

「本気で言っているのですかな? 結果は見え見えですぞ……」


「では、どうする?」


 沈黙。

 その静寂を裂いたのは、痩せた中年貴族の声だった。


「女だ」


 誰もが眉をひそめる。


「……何?」

「街の者から聞き出した。今、奴は街外れで女と暮らしているらしい。とんでもない美女だそうだ。どこの出かは知らんが、相当に入れ込んでいると聞く」

「馬鹿馬鹿しい。あのヴォルツが色狂いになったとでも?」

「だが現に、戦場にも戻らず民の雑事に甘んじ、女と慎ましく暮らしている。事実だけを見れば、十分にあり得る話では?」


 卓上にじわじわと別種の熱が広がっていく。

 希望とも、悪意ともつかぬ熱だ。


「その女を押さえれば、ヴォルツを動かせる……と?」

「少なくとも、揺さぶりにはなる」

「人質にして脅すのか。宝国軍も堕ちたものだな」

「堕ちた? 今さら何を言う。国が滅ぶかどうかの瀬戸際だぞ。この際、手段は問わない」

「それに、相手は所詮ただの女なのだろう? 一人消えたところで問題あるまい。一人の犠牲で宝国が救われるのならば、王もお許しになる」

「ヴォルツが従わぬなら、その女の指でも耳でも斬り落とせばよい。あの男も、さすがにそれを前にすれば剣を取るだろう」


 卑しい笑いが、ぽつぽつと漏れ始める。

 当然それを嫌悪する者も少なからず存在する。だが、だからと言って止める者はいない。止めるための枷など、とっくの昔にこの大戦が始まった時から外れているのだ。


 皆、十分に理解していた。

 ここで手を汚さねば、本当に宝国が終わると。


「……やるのか」

 

「やるしかあるまい」

「生け捕りか?」

「場合による。まずは確保だ。ヴォルツが従うなら良し、従わねば見せしめで耳か髪を斬り落とせば良い。あの男がどこまで正気でいられるかによるが……」

「護衛は?」

「私の兵団から精鋭を出す。ヴォルツ本人と鉢合わせぬよう、夜を狙え」


 全員が納得したように頷く。

 決定だった。

 もはやそこに、騎士道も誇りもない。あるのは戦線維持という名目に縋る、溺れる者のあがきだけ。


 軍務卿が静かに立ち上がる。

 その顔は青白く、死人のようであった。


「もし失敗したら?」

「……失敗したその時こそ、宝国が終わる。それだけだ」


「そう……そうだ、全ては宝国のため……」

「そうだ。我らは国を守り、そしてやがては20の国をトルマリン王に捧げるのだ!!」


 誰かがその言葉を心の中で復唱した。

 己を無理やり納得させるため。罪悪感を強引に噛み殺すように。

 だがその響きはひどく空虚で、もはや自分たちを誤魔化すための呪文でしかなかった。


 かくして、その夜。

 宝国軍部はついに最後の一線を踏み越える。


 戦場へ怪物を呼び戻すために。

 その怪物が、初めて心から愛した女を人質として拉致することを決めたのであった。


「我が精鋭――『クンツァ』『ベリル』に伝えよ! 今夜、ヴォルツの女を生け捕りにせよとな!!」

――――――――――――――――――――――――――――



ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ



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※AIの利用について:

・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。

・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

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