CASE.031「上書く憎愛」
ご覧いただきありがとうございます。
今回はちょっと重めです。
胸糞度がかなり高いので一応注意喚起をば……
※本作はカクヨム、小説家になろう、noteにも掲載しています。
「さあ、こちらへ♡」
一糸纏わぬロザリアは恥ずかしげもなく両腕を広げ、己のすべてを見せつけるようにして皇子へ近づく。
皇子は喜ぶどころか恐怖で顔を歪め、必死に後退った。
月光に照らされたロザリアの姿が、ひどく不気味に映って仕方がない。
「来るなッ! 男を拐かす悪女め! とうとう正体を現したなッ!!」
「あらまあ、怖いこと♡ でも体の方は正直ね♡」
何を見てそんなことを言うのか――ラズリ皇子はロザリアの視線の先、自身の下腹部へ目を落とす。
そこには、思考が恐怖で満たされているにもかかわらず、この状況で昂ぶっている自分の証があった。
失望と困惑が同時に押し寄せ、頬を赤らめる。
「な……なぜ」
必死に辺りを見回す。
そして先ほどロザリアが横たわっていた寝台の傍ら――淫靡な煙を昇らせる香を再度視認した。
「ま、まさか……ッ」
「察しがいいわね……そう、みんな大好き媚薬の混じったお香。特別に男性にだけ10倍効くよう改良した特注品よ♡ いかがかしら♡」
「う"っ」
とうとうロザリアの息遣いを肌で感じる距離まで詰め寄られた皇子。
身動きもままならぬところへ、ロザリアの細い指が容赦なく彼の急所を掴み、情けない声が漏れてしまう。
誇張抜きに、ロザリアの裸体は美しい。
常人ならば、お香など必要とせず即座に膝を屈するほどの美貌。悔しいが、女性を数多知るラズリ皇子ほどの人物でさえ、一目見て息を呑んでしまうほどだ。
そのような御仁が、男を狙い澄ました特攻媚薬まで用いるのだから、抵抗など望むべくもない。
皇子の意識の隅々が、じわじわと桃色に塗り潰されていった。
「う……うあ……」
「うぶな反応が最高にイイわ♡」
「こ、この……!」
必死に抵抗するが、体にうまく力が入らない。
普段ならば鍛えられた肉体で、こんな細身の女腕など振り払うだけで鎮圧できる。
だが今のロザリアは、巨漢の万力を彷彿とさせる腕力でラズリ皇子へ抱きついていた。
それほどまでに、体が言うことを聞いてくれないのだ。
「ふふ……ちゃんと効いてるようね。お酒も♡」
「さ、酒だと……まさ、か……」
心当たりがあるとすれば、あの執事から手渡された果実酒だ。
今まで味わったことのない甘美な味だった。
おそらく、そこに何かが仕込まれていたのだろう。
散々警戒していたはずだった。
それでもロザリア勢の時間をかけた篭絡に、ラズリ皇子の心の壁は徐々に、だが確実に崩されていたのだ。
その瞬間をあの執事は見逃さなかった。
ぬかった、とラズリ皇子は心の中で己の不注意を責め立てる。
「じゃ、本番いきましょ♡」
そう言いつつ、皇子の腕を力任せに引き、寝台へと押し倒す。
そこから先は、為されるがままだった。
■■■を■■■■■。
■■■■■に■■■■勢いよく■■■■■■■。
■■■■皇子■■■■■■■■全身が■■■■■■■■■■■■■■■■。
■■ロザリア■■■■■■■■■■■■■■■■。
「あ……あぁッ」
「どうかしら?」
事が進むにつれて、皇子の記憶は混濁していく。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
■■■■■■■■■た■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
「ああっ、うあああああああッッ!!」
「すごいでしょ?」
まるで最初からロザリアが最愛の者であったかのように、記憶が、意識が、根こそぎ塗り替えられていく。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■す■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
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■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
■■■■け■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
「あ……」
「私の愛を受け取って、ラズリ」
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■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■て、事は終わる。
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部屋の扉が開かれる。
「おや、お早いですね。いかがでしたか?」
全裸のまま、しかし満ち足りた様子でロザリアが部屋から出てきた。
その姿を見てもヴォルツは一切の動揺を見せない。
なぜなら、これは日常的に執り行われる儀式。彼女がモーニングルーティンで紅茶と菓子を嗜むのと、まったく同義の行為だからだ。
「はぁ……♡ ほんっと最高だった♡ ありがと、ヴォルツ♡」
「いえいえ……ロザリア様がご満足そうで、何よりのことでございます」
「フフフ……ところで……それは?」
ロザリアの視線の先。
ヴォルツの手元。
そこにはパールがいた――
――血にまみれ、顔の半分を腫らしながら。
前歯も無残にへし折られており、「う……」という呻き声を上げるのが精一杯の様子だ。
髪をヴォルツに鷲掴みにされ、力なく項垂れている。
「あぁ、これですか……内通者ですよ、内通者」
「内通者……あぁ」
国内にいるとされる内通者。
1月前から、ロザリアが淫行により男を洗脳しているという、根も葉もない――とは言い切れない噂を流す不届き者がいるという報告があった。
さらにはロザリアの悪逆を広めようとするチラシまで確認されている。
ロザリアは特に意に介していなかったが、主を心酔するヴォルツからすれば甚だ許しがたい蛮行だった。
内心では腸が煮えくり返っており、今にもこの小娘を撲殺したいところだ――もっとも、すでに半殺しではあるが。
「お……お兄を……がえぜ…………」
血を口から滴らせながらの、パールが今出せる全力の抵抗。
しかしそれは抵抗と呼べるものではない。
羽虫が死に際に見せる痙攣にも近い、取るに足らない戯言だ。
ヴォルツの耳に届くことはなかった。
「彼女はこんなものを」
もう片方の手で、ヴォルツが小さなナイフを取り出す。
ちょうど靴に仕込める程度の大きさであり、か弱い少女が精一杯の覚悟で携えたと分かる得物だ。
「あらまあ、怖いわぁ……」
「果実酒で、扉の前で倒れているところを発見しました。色々尋問しましたが、“お兄”としか言わない人形になってしまいました。私としたことが」
「ん? 今、お兄って言ったわよね?」
放してあげて、とロザリアが告げると、即座にヴォルツが手を離す。
急に解放され、ばたんッと脱力したままパールは床へ激突した。
よろよろと起き上がり、腫れ上がった痛ましい顔でロザリアをゆっくりと見上げる。
右目は腫れた瞼に塞がれ、左目には血が滲み、視界は赤く狭まっていた。
「お兄……がえぜ…………あぐまめ」
「貴女、ずっとどこかで見たことがあったのよねぇ……。あ、思い出したわ」
思い当たる節があった。
ちょうど1月前、彼女はとあるパン屋の店主を大層気に入り、半ば強制的に添い遂げた。
結果ラズリ皇子と同様の末路を辿り、最終的にはルーンプリンスの一員となったのだ。
ちなみに彼には妻も愛人もいなかったが、唯一の肉親として妹がいるという報告があった。
どうでもよかったロザリアは当時聞き流していたが、パールの顔はその男を連想させるほどによく似ていた。
「大丈夫よ。あなたのお兄さんは幸運にも私の騎士となったわ……今も幸せそうに、私のためだけに剣を振っている。だから安心なさい」
「……ざげる"な"……ふざげる"な"……!!」
ふざけた戯言を。
そんなはずはない。そんなはずがないのだ。
兄が幸せだったのは、あのパンを焼いていた時間だけだとパールは知っている。
霞む視界でロザリアをこれでもかと睨みつける。
それが、今できる精一杯だった。
目の前の悪女をずたずたに引き裂いてやりたい。
だが、もはや体が一ミリも動かない。
全身の激痛で、意識すらほとんど失いかけていた。
「そう言うと思って、呼んでおいたわ♡」
がしゃん、がしゃん、と鎧を纏った者が到着する足音がした。
そっと顔を上げる。
そこには白銀の豪奢なフルプレートを着込んだ人影が立っていた。
「ほら、挨拶なさい。あなたの妹よ」
フルプレートが兜を脱ぐ。
「あぁ……」
そこには、パールが――彼女が心の底から望んでいなかった光景が広がっていた。
「お兄ィ………!」
兄がいた。
1月前、突如として消息を絶った兄の姿があった。
やっとの思いでの再会。
しかしパールに喜びなど湧くはずもない。
なぜなら、もはやそこに彼女が知る兄はいなかったからだ。
目は虚ろで、どこか悦に浸ったような、今の現状に心の底から満足しているかのような顔。
汗水垂らしてパンを焼いていた兄の面影は、完全に消滅していた。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッッ!!!!」
パールは絶叫した。
屍同然の状態から放たれるはずもない声量で、地獄の底を連想させるような絶望の悲鳴を上げる。
「感動の再会のところ悪いのだけれども……お別れよ。せめて愛しき兄の手で逝きなさい」
ロザリアはパールの兄に何かをそっと耳打ちする。
すると「仰せのままに」という即答と共に、躊躇なく――
――パールの首を斬り落とした。
ぼとり、と首が無惨にも転がる。
鮮血が飛び散り、毎日隅から隅まで磨き上げられてきた床が赤に染まり始める。
その光景を前に、顔を少しでも歪ませる者は存在しない。
まるでそれが当たり前のことだという共通認識でもあるかのように、その場の全員が平然としていた。
ちょうどそこへ、メイド長のラブラドーラが到着する。
「ロザリア様……この度は――」
「いいわ別に。それよりここ、綺麗にしておいてくれる?」
今回のパールの採用はラブラドーラに一任されていた。
そのため、責任を問うべくヴォルツがこの場へ呼んだのだが、意外にもロザリアはあっさりとしており、ヴォルツは拍子抜けする。
とはいえ主の意向である以上、反論する余地などない。
「ではメイド長。後は頼みましたよ。ロザリア様、これよりいかがされますか?」
「そうね……とりあえず新しく入った子の面倒を見るわ♡ ね、ラズリ♡」
「は、光栄です。我が主」
凛とした返答。
恐怖も困惑もなく、現状に心の底から満足しているかのような恍惚とした表情。
目は虚ろで、まさしくパールの兄と瓜二つの顔だった。
「皇子のお連れの方々はいかがされますか?」
「そうね……面倒だから始末しておいて。レイン共和国なんて仲良くするつもりは端からなかったし……それに私、政治よく分からないし」
ロザリアにレイン共和国と和平を結ぶつもりなど、最初から欠片もなかった。
すべては愛しきラズリ皇子を手に入れるためだ。
貿易締結という餌を垂らせば、物資不足に喘ぐ小国は必ず食いつく――そういう算段だった。
実際、すべてはロザリアの望み通りに、そしてヴォルツの計画通りに進行した。
ゆえに彼女はひどく上機嫌だった。
パールの謀反など、すでに記憶の端にも残っていない。
ラブラドーラがあっさり許されたのも、それが主な理由だろう。
「レイン共和国はいかがされます?」
「うーん、面倒くさいわねぇ……消しておいて、ヴォルツ。お願~い♡」
「フフフ……かしこまりました。ご命令とあらば、すぐにでも」
「噂が広がるのも煩わしいし……すぐに行ってきて♡」
「――御意」
「じゃあ行くわよ、ラズリ。あらあら、裸だと風邪をひいてしまうわね♡」
そう言うと、ロザリアはパールの兄と、新たに加わった傀儡――ラズリを連れてその場を後にした。
「では私はこれより、レイン共和国を滅ぼしに参ります。アナタは……そうですね……とりあえず彼女を丁重に埋葬でもしなさい。一応、彼女の内通のおかげでこうして新たな宝石を手に入りましたし……せめてもの情けで供養してあげなさい」
「……かしこまりました」
「何か誤解されているようですが、ロザリア様はお優しいので許しましたが私は違いますよ?この件の沙汰は帰国後追って伝えます。それまで自身の失態を心の底から猛省なさい」
「……は、大変申し訳ありませんでした」
「では」
軽く会釈をしたヴォルツは、颯爽とその場を去った。
残されたのは、首と胴を両断された新人メイドのパールと、メイド長ラブラドーラだけだった。
力なく転がるパールの首を見て、ラブラドーラは静かに呟く。
「失敗したのね………あなた」
ラブラドーラはパールの首を両手でそっと持ち上げると、哀悼を示すように額へ口づけをした。
そのまま胴体と共に袋へ収め終えると同時に、誰にも聞こえないよう、ひとりごとのように呟いた。
「大丈夫よ。これが、私の――
――メイド長としての、最後の務めなのだから」
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――報告。
地球時間012200ZFEB25
特殊第六執行部隊・準上級執行官ドゥー及び下級執行官インとヨウの現地への転送を確認。
速やかに行動を開始せよ。
輪廻庁の記録官及び、最上位存在方に通達。
本報告に一部過激表現を確認。速やかに表現制限をかけたし。
以上。
【今回の用語まとめ】
■アブソリュート・ラブ
ロザリア・ディ・エルヴァニスの恩寵。
対象の記憶や意識を塗り替え、ロザリアこそが最愛の存在であるかのように認識させる力。
ロザリアが“愛”と呼ぶそれは、実際には相手の尊厳と自由意志を奪う支配である。
■ラズリ皇子
レイン共和国の皇子。
ロザリアの黒い噂を確かめるため宝国を訪れたが、ロザリアの術中にはまり、新たな“宝石”として取り込まれた。
■パール
ロザリア付きとして配属された新人メイド。
失踪した兄を取り戻すため、内通者としてロザリアの城へ潜り込んでいた。
しかしヴォルツに正体を見抜かれ、ロザリアの前へ引きずり出される。
■パールの兄
1月前にロザリアに目を付けられたパン屋の店主。
ロザリアの力によって意識を塗り替えられ、現在はルーンプリンスの一員となっている。
パールにとっては、ロザリアの罪そのものを示す存在。
■ルーンプリンス
ロザリア直属の親衛隊。
美しい男性たちで構成されているが、その実態はロザリアに意識を上書きされた者たちの集団である可能性が高い。
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