CASE.029「ラズリ皇子の受難」
ご覧いただきありがとうございます。
引き続き、宝国の内情を見ていきましょう。
ロザリアの標的、ラズリ皇子が到着したようです……
※本作はカクヨム、小説家になろう、noteにも掲載しています。
宝国の中央に聳え立つ、周辺の建物とは一線を画した大城――『ドン・クライム城』に、青色を基調とした一団が到着していた。
その先頭に立つのは、水色の麗しい髪を持つ青年。純白の制服に立派な直剣を腰に携えた男。
この者こそがラズリ皇子。隣国レイン共和国から馳せ参じた使節団の頭目である。
「ここが噂に名高い宝国か!」
馬車から姿を現した皇子を、沿道に控えた国民たちが割れんばかりの歓声で迎える。
紙吹雪をばら撒き、兵たちは剣ではなく花束を構えて待機。
完全に、国を挙げての大歓迎ムードというわけだ。
声援の主の大半は女性だった。
ラズリ皇子は、男でありながら可愛らしい美貌と均整の取れた体躯から、他国の王女より月に100を超える求婚を受けるほどの外見を誇っている。
その笑顔はすべての女性を一瞬で封殺し、男でさえ自然と頭を垂れさせる。
童顔で、無垢。そんな顔立ちにもかかわらず、皇子としての毅然とした態度を崩さない。
そのギャップこそが、彼の魅力の一つだった。
才色兼備のラズリ皇子であったが、今日の彼はいつにも増して気を引き締めていた。
「爺や、今日の予定を教えてくれ」
「はい。これより宝国王に謁見の後、ロザリア宰相との会食。そして観光でございます」
「ロザリア宰相……『宝国の魔女』か」
――『宝国の魔女』。
それはロザリアの異名である。
8年前、突如として現れた宝石のような美女。
戦争一徹だった当時の宝国王を説き伏せ、瞬く間に宰相の地位まで駆け上がる。
さらには、最強と謳われる親衛隊『ルーンプリンス』を従え、20年も続いた大戦をたった1月で終結させた。
その急激すぎる台頭、美しさと不気味さが相まって名付けられた二つ名だった。
「ロザリア・ディ・エルヴァニス……」
この訪問の目的は貿易契約の締結。
今後の宝国とレイン共和国の関係を位置づける、極めて重要な交渉である。
本来ならば王が直々に臨む場であった。
しかし今回、皇子が代わりとして入国したのには理由がある。
1つ目は、ロザリア宰相がいわゆる美男好みだという噂だ。
彼女直属の部隊であるルーンプリンスは顔の整った男性ばかりで、一人一人が国随一の美貌を誇るという。
さらに統計的に、王のような壮年よりも若い男性が交渉に訪れた際の成功率が高いという情報もある。
2つ目は、ラズリ皇子自身がロザリアを見定めたかったからだ。
(噂の魔女……僕自身が、信頼に足るかどうかを確かめるとしよう)
ロザリアにはもう一つ、黒い噂がある。
近隣の男性――とりわけ容姿の優れた者が、悉く姿を消しているというのだ。
使節団として宝国を訪れた上級貴族も含まれているとあって、ラズリ皇子は以前から彼女を危険視していた。
確証はない。
だが、ルーンプリンスの中に消息を絶った者と同一人物がいるという噂もある。
俄かには信じがたい。
だが、内通者から密告を受け、その目で直接確かめるべく本人が望んで馳せ参じたのが事の経緯であった。
「いくぞ、皆の者!」
ラズリ皇子の一声で、護衛を含む総勢30名の一団が王城へと歩を進めた。
―――
「よくぞ参った! レイン共和国の皇子よ!」
いよいよラズリ皇子一行は、王の玉座へとたどり着いた。
夥しい装飾の数々に、空へも届きそうな天井。
落ちてきたら死人が出かねない巨大なシャンデリアや、精巧に彫られた宝石の彫刻がこれでもかと並んでいる。
そして何より特筆すべきは、玉座後方に並ぶ六つの巨大な像だった。
左から――
初代王・ルーン=カスケリオン
二代目・パルイス一世
三代目・ルナモンド二世
四代目・サファール三世
五代目・エメラルディア四世
六代目・ルベリオ五世
そしてその中央に座る者こそが現宝国王――八代目・アゲートス=カスケリオン七世である。
何故六世の像だけがないのか。
それは六世がロザリアらの手により、戦争を激化させた戦犯として処刑されたからだ。
歴史書にも最も忌み嫌われた“愚王”として記され、完全に王族の名から外されてしまっている。
使節団一行は王の前に跪いた。
謁見の場では、ラズリ皇子が直々に王の御前へ進み出て、契約の巻物を献上するという運びだ。
王の反応は良好で、交渉は順調そのものだった。
母国からの調度品も大層気に入られたようで、話はするすると進んでいく。
そのあまりの手応えのなさに、ラズリ皇子は戸惑いを覚えた。
(なんだ……これは……)
「爺や、どうなっている」
「は、王の計らいにより貿易契約は無事締結、こちらの条件を快く受理していただいたところかと……」
「そうではないっ」
明らかに順調すぎる。
決して交渉が決裂してほしいわけではない。
だが、今後数十年という長いスパンの契約がこうもあっさり結ばれるものか――と、ラズリ皇子の中に疑念が生じていた。
別の目的があるのか。
はたまた、ここから追加条件を持ち込まれるのか。
思考を巡らせていると、奥の方から小さなどよめきが上がる。
「あれが……」
王の横から現れたのは、まさしく宝石の権化のような女性だった。
美しい金髪に合わせて仕立てられた純白のドレスは、その体躯のラインを際立たせ、妖艶さを増している。
肩から腰にかけて黄金と白銀の薔薇柄の帯が走り、そこらの王女とは比較にならないほどの美貌が謁見の場を圧した。
レイン共和国の屈強な兵たちですら唾を呑まずにはいられず、ラズリ皇子でさえ一瞬目を奪われる。
なんなら御年86の爺やですら、男の性を取り戻しかけているではないか。
だが皇子はすぐに頭を振り、意識を切り替えた。
王の真横、同じ壇上から登場することを許されているということは、彼女が王と同格に近い扱いを受けているということだ。
この先、一度の過ちで宝国との関係が瓦解しかねない。
その危機意識を胸に刻み直し、彼はロザリアの前へ一歩進む。
そして再度跪き、王の御前と同様の礼を執った。
「はじめまして、宰相ロザリア閣下。噂に違わぬ御美しさ、危うく目が眩んでしまうほどの輝きでございます」
「あら。おべっかがお上手なのね、ラズリ皇子」
ロザリアが右手を差し出す。
その意図を察し、ラズリ皇子は左手でその手を取り、手の甲へ軽く口づけをした。
典型的な忠誠の表れであり、儀礼的な所作に等しい。
もう一度その御尊顔を確かめようと顔をわずかに上げた、その瞬間――
「――ッ!?」
ラズリ皇子はすぐに視線を伏せた。
(な……なんだ、今のはッ!?)
彼が視界の端で刹那に見たもの。
口角を限界まで吊り上げ、それこそ魔女を彷彿とさせる不敵な笑みを浮かべたロザリアの顔だった。
反射的に身体が熱を帯び、臨戦態勢へ移行しかける。
思わず剣の柄へ手をやりそうになるのを、彼は必死に堪えた。
だが周囲の誰も気づいた様子はない。
恐る恐る確認すると、そこにはいつも通りの麗しき美女の姿があった。
(気の……せいか?)
「顔をお上げください、皇子。せっかくの美貌ですもの、よく見せてください」
「……は」
ロザリアはまじまじとラズリ皇子を観察した後、満足したのかおもむろに口を開いた。
「立ち話もなんですし……せっかくですから、私おすすめのレストランでお昼はいかがですか? よろしいですね、我が王」
「よいよい、行ってまいれ。我が愛しのロザリアよ」
ロザリアは王へ向けて軽く会釈する。
ラズリ皇子はその様子に、さらなる疑念を深めた。
王とはその国の最たる存在。
国民であれば誰もが跪き、最上の礼を尽くす。
しかし目の前の女はどうか。
「よろしいですね」という一言は、一見王の意向を伺うようでいて、実際は気にも留めていない発言だ。
さらに王と同じ高さの壇上から現れても誰も咎めず、体の向きを王へ向けることもなく、軽い会釈だけで済ませる。
普通ならば即刻首を刎ねられてもおかしくない振る舞いを、涼しい顔でやってのける女。
ラズリ皇子は静かに警戒を引き上げた。
しかし、ロザリアと王のただならぬ関係に疑念を抱くのは皇子ただ一人だけだった。
使節団の一行は、悉くがロザリアの美貌に目を奪われていたのである。
「では行きましょうか、皇子」
ロザリアが手を差し伸べる。
(鬼が出るか蛇が出るか……やってやるとも。我がレイン共和国のためにもッ!)
「はい、ロザリア様。ご案内の程、どうぞよろしくお願い致します」
【今回の用語まとめ】
■ラズリ皇子
隣国レイン共和国から宝国へ来訪した皇子。
可愛らしい美貌と皇子としての毅然とした態度を併せ持ち、他国の王女たちから多数の求婚を受けるほどの人気を誇る。
今回は宝国との貿易契約締結と、ロザリア本人の見定めを目的に来訪した。
■レイン共和国
宝国『セレスティア宝統府』の隣国。
今回、宝国との貿易契約締結のため、ラズリ皇子を使節団の代表として派遣した。
■ドン・クライム城
宝国の中央に聳える大城。
現宝国王アゲートス=カスケリオン七世が座す王城であり、ラズリ皇子一行が謁見のために訪れた場所。
■ルーンプリンス
ロザリア直属の親衛隊。
国随一の美貌を誇る男性たちで構成されていると噂される部隊。
ロザリアの周囲で語られる“容姿の優れた男性の失踪”とも関係が疑われている。
――――――――――――――――――――――――――――
ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ
よろしければ、フォロー・ブックマーク・感想などいただけますと励みになります。
感想については、質問・ご指摘・話の感想など、なんでもお気軽にお寄せください~!!全て受け止めます!!
※AIの利用について:
・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。
・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。




