CASE.027「ブリーフィング2」
ご覧いただきありがとうございます。
※本作はカクヨム、小説家になろう、noteにも掲載しています。
次の日の朝、特殊第六執行部隊は新たな任務に向け、作戦室へ集まっていた。
メンバーは執行官のドゥー、オペレーターのミラ、監査官のカイ、裁定官のユリス。
そして今回は、珍しくインヨウ兄妹までもが出席している。
「ハイ、じゃあブリーフィング始めるわよぉ――って、あなたたち二人どうしたのよ」
「うぅ……」
「…………」
いつも騒がしい問題児二人――主にミラ――のテンションが著しく低い。
そのただならぬ様子に、カイは思わず突っ込んでしまったのだ。
インヨウ兄妹はそんな二人の腕をつついて面白がっており、ユリスに至っては眠りにつきかけていた。
「まったく……貴方たちまさか、揃いも揃って夜更かししたんじゃないでしょうね? 今回もこの部隊の行く末を決める重要な案件よ。しっかりしなさい。ほら、ユリスも寝ない! インヨウちゃんもちゃんと座りなさい!」
「「はぁ~い」」
「む……」
「「………………」」
別に、二人がローテンションなのは夜更かししたからではない。
そもそも彼らは疲労を取りにくい基底界人だ。一晩やそこら眠りが浅かった程度で、任務に支障が出るほどの弊害はない。
では何が二人をここまで沈ませているのか。
それは、罪悪感だった。
先日、彼らは調子に乗って部隊全員の過去をやたらめったら覗き見したのだ。
その結果、自分を含めた全員の過去があまりにも重すぎて、二人そろってどん底まで気分が沈んでいた。
そもそも彼らは等しく、全員が元転生者。
つまり第一生で人生を全うできなかったからこそ、今ここにいる。
カイもユリスも大概だが、何よりインヨウ兄妹が重い。重すぎる。
なんだ、アイドルの隠し子って。
しかも母であるアイドルが、父の不倫相手に目の前で刺され、そのまま自分たちも無残に殺されるとか。胸糞という言葉では足りない。
ちなみにその父と不倫相手は、その残虐な所業によりカルマ値がマイナスへ振り切っており、次の転生先はゴキブリとカマキリらしい。
実にお似合いだ。だからといって、何一つスカッとはしないのだが。
(はぁ……やはり人の過去は詮索するべきものじゃないな)
新たな教訓だった。
極力、転生者の過去は覗き見しない。
特に任務を共にする特殊第六執行部隊のものは忘れるに限る。
だが、収穫がなかったわけでもない。
それはヘパーの過去だ。
なんと、ヘパーのファイル名はどれだけ探しても“転生者”の欄には見つからなかった。
わざわざ寝床へ忍び込み、彼の愛酒へブレスレットを接続しても何もヒットしない。発見できたのは、“reincarnater”とはまた違う――“FALL”という名の項目に名があっただけだ。
つまりヘパーは、そもそも転生者ではない可能性がある。
そしてもう一つ――
(先輩……気にしてるんスかねぇ……)
「………………」
もちろん、ドゥー自身の過去も調べた。
ヒットはした。
したのだが、強力な閲覧制限がかかっていたのだ。
しかもファイルの保管場所は転生者欄ではなく、ヘパーと同じ“FALL”という場所にあった。
局長であるブッタの権限でさえ閲覧できないほどの強固なセキュリティに固められており、おそらく突破できるのはオーディン神を始めとした「主神級」だろう。
あのミラでさえ全力で突破を試み、最後には諦めたほどだ。
(……なんなんだ。俺の過去はそんなにも隠したいものなのか?)
『アバドン・システム』の存在に、さらに自身の過去への強力な閲覧制限。
ここまで来ると、ある疑問に執着せざるを得ない。
――自分は何者なのか。
(だがヒントは得た。ヘパーさんと俺は同じファイル階層……つまり同じ出自の可能性がある。とりあえずこの会議が終わり次第、ちょっとVABOへ――)
「ドゥー!」
「……ッ!!」
カイの声で思考が途切れる。
「なーにぼーっとしてるのよ! これを一番聞かなきゃいけないのはあなたでしょ!?」
「……すみません」
ドゥーは頭を振り、意識を切り替える。
確かに今考えることではない。
今は任務、このブリーフィングに集中するべきだと、即座に姿勢を正した。
インヨウ兄妹がくすくす笑っているが、とりあえず無視をする。
「じゃあ再開するわね」
◇
異世界目録:バッドエンディングしか存在しない悪徳令嬢ポジで、自由気ままにイケメンハーレムをお作りしま(以下省略)
異世界座標:γ-010-ノード33.9
名前 :ロザリア・ディ・エルヴァニス
性別 :女
種族 :人間
年齢 :不明
身体的特徴:金髪三つ編み、耳長という典型的なエルフな見た目だが、人間である。黄金のように美しい長い金髪が特徴的。
性格 :尊大で自己中心的。自己愛性パーソナリティ障害の傾向あり。
地位 :宝国『セレスティア宝統府』の宰相。
人間関係 :取り巻きとは良好。国民からの評判も高いが、ごく一部からは反感を買っている情報アリ。
能力 :『アブソリュート・ラブ』
罪状 :第三級累積型執行対象+第一級姦行罪
追記
任務完了条件:ロザリア勢力の殲滅
◇
目録を眺めていた面々が、一斉に苦笑いをした。
「これはまた……」
「なっっっげぇ名前っスねぇ。目録も人名も……アタシら見習ってほしいッスよ」
「なんで毎回毎回こんなに長いの?カイ姐ぇ~」
「う~ん、それはねヨウちゃん……」
相変わらず内容そのままの目録だ。これはこれで分かりやすいのだが。
ちなみに「以下省略」の部分をタップするとさらに目録は広がっており、合計100文字を超えている。一同は呆れを通り越して笑っていた。
ユリスですら眼鏡を外し、傍らでごしごしと拭きながら視線を逸らしているが、執行官であるドゥーからすれば、決して無視できない情報だ。
内容の良し悪しはさておき、理解に専念することにする。
一方、カイは説明しづらい――というかできればあまり説明したくない問いを投げられ、苦虫を噛み潰したような顔をする。
だがヨウの、きらきらとした子供特有の好奇心の目に根負けした。
「ミラが前にちょろっと説明してくれたと思うけど…………ほら、異世界っていっぱいあるでしょ?」
「うん」
「いっぱいあると、どれがどれだか分からなくなるわよね?」
「うん」
「だから神様たちは、自分の世界がすぐ見つかるように、敢えてその世界の物語性をそのまま書いたようなタイトルを付けるの。分かった? 敢えてなのよ。敢・え・て分かりやすくしてくれてるの」
賛否両論あれど、確かにこのタイトル方法は執行部隊、特に案件を選定する監査官からすれば非常にありがたいものだという。
なぜなら一目でどんな内容かわかるから。コレがデカい。
一々中身を開かずにどういう世界線か、主人公の素性がある程度把握できるので楽なのだとカイは補足する。
だが中には凝った名前もあり、それらは中身が判断しづらいことから軒並み高難度の案件として回されている。
「ふぅ~ん」
「センスねぇーだけでしょ」
「ミラァ~~~~(#^ω^)!!」
「うにぃ~~~~!!」
せっかく言葉を選んで濁していたのにミラがど直球でぶった切ったので、腹いせに頬を左右へ大きく引っ張る。
「もぉ~、あの方々のネガキャンはやめてよねぇ本当! 謝るのはいつも私なんだから!!」
インヨウ兄妹以外の全員がぺこぺこと平謝りする。
三人ともカイには世話になりっぱなしなので、ここで反抗する気概など一欠けらも見せない。
問題児(特殊第六執行部隊)と問題児(神々)に囲まれ、カイは早速缶ビールを開けながら深いため息をつく。
全員が興味なさげに目を細めている最中、ドゥーだけはまじまじと目録へ食い入っていた。
「先輩、まさか気に入ったんじゃ――」
「んなわけあるか。“以下省略”がつくタイトルなんてタイトルとは――」
「ドゥー?」
カイに睨まれ、ドゥーは舌に急ブレーキをかけた。
「ン”ン”ッ! ちなみにこの第一級姦行罪とは?」
罪状欄の一項に目を留め、ドゥーが問う。
見たことも聞いたこともない罪状であり、任務に関わるのなら事前に把握しておきたかった。
こういう事務的な疑問への解答は、大抵ユリスの専門である。
「良いところに気付いてくれた、ドゥー執行官。第一級姦行罪――これはこの転生者のためだけに設けられた特例の罪状だよ」
「特例の?」
個人のために設けられた罪状。それだけで厄介な匂いしかしない。
それほどの緊急事態なのだろうか。ドゥーは思わず眉を寄せる。
また面倒な案件が舞い込んできたものだと、仮面の下で渋い顔をする。
「姦行って……要するにセ〇クスってことッスか?」
「そうだ、ミラ下級オペレーター。どうやら上の連中は早急にこの転生者を処理したいらしい」
「たしかに、“γ”の案件なのにやたら焦ってる感じしますね……。あと何でアタシにだけ“下級”付けたがるんすスか。ぶち殺しますよ」
「……ソーリー。口が滑ってしまった」
両手で盛大に中指を立てながらユリスへ悪態をつくミラ。
ついでにインヨウ兄妹まで便乗して中指を立て、ユリスの脇腹をつついている。
「十中八九、この転生者の恩寵関連でしょうね」
能力名『アブソリュート・ラブ』。
直訳すれば絶対なる愛。
急遽設けられた第一級姦行罪と照らし合わせれば、相当厄介なターゲットであることは間違いない。
「転生者もそうだけど、今回の任務――何より二つ懸念点があるの」
「二つも……」
「まぁでも、先輩の“アバドン”ならどんな転生者もイチコロ――」
「いえ、今回『アバドン・システム』は完全封印。使用許可は得られなかったわ」
「「え」」
「しかも本部の中枢機関からの、直々のお達し付きでね」
「「げッ」」
ドゥーとミラが仲良く気の抜けた声を漏らす。
「それってまさか……」
「二回も規則違反をしたツケね。今回は例外なく、恩寵無しで遂行しろってことよ」
「げぇ~~~!」
ミラはぐで~っと卓上へ伏した。
だがこれは懸念点の一つ目にすぎない。
ただでさえ中枢機関からの厄介なお達しで辟易しているといのにもう一つ、これ以上の問題があるのだという。。
ドゥーは嫌な予感しかしなかった。
「もう一つは転生者の取り巻きよ」
「取り巻きッスか?」
ドゥーは再度情報録へ目を走らせる。
たしかに人間関係の欄に“取り巻き”とある。
さらに最後には“ロザリア陣営の殲滅”とまで書かれていた。
「今回の執行対象は、転生者だけではないということですか」
「そう。今回の転生者、彼女自身には戦闘力がほとんどないらしいの。ただ、この取り巻きたちがそれはそれは厄介なのよねぇ」
「その取り巻きの情報はないんスか?」
「ないんス(ミラ風)」
「えぇ~っ!?」
前回の情報盛りだくさんな目録とは対照的に、今回提供された情報は転生者本人についてのみ。
それ以外は現地で自分たちで調べろ、ということらしい。つまり現地到着後のフィールドワーク調査となる。
それを担うのは、もちろん――
「あなたよ、ミラ」
「ぎえ~~」
「戦闘に臨むなら、相手の弱点・傾向・性格の精査が先決だ。故にミラか――オペレーター、君の出番というわけだ」
「む、むぅ。でもッスよ、アタシの分析には限界があるッス。範囲も質も、現地に行く執行官の位置情報を中心に分析するんで、どう考えても時間が――」
「――フフッ。だからこそ今回は、二人ほど助っ人を募りました!」
「助っ人ですか?」
「そう。二人とも、挨拶を」
パンパンとカイが手を叩く。
すると彼女の左右から、インヨウ兄妹がひょこっと顔を出した。
「え?」
「改めてやっほ、インだよ」
「またまた改めてやほ~、ヨウだよぉ~」
「「二人合わせてインヨウ兄妹だよぉ」」
さっきからなぜかずっといる、自由奔放なインヨウ兄妹だ。
フィクサーである二人が助っ人として名指しされるとは夢にも思わず、ミラは口をあんぐり開けた。
あの爆発饅頭の件があるので、ドゥーも内心複雑だった。
「え、ちょっと待ってほしいッス。このクソガ……インヨウ先輩ってフィクサーッスよね? それで助っ人ってどういう……」
(今、クソガキって言いかけたなコイツ)
「そうよ。だけど忘れてないかしら? この子たちは元執行官。それも飛び切り優秀なね♡」
「まさか……」
ドゥーは嫌な予感がした。
カイがこれから口にする内容が、自分の予想するそれでないことを願ったが、その願いが儚く散るのに時間はかからなかった。
「今回の任務、準上級執行官ドゥーに加え、下級執行官のインヨウ兄妹の三人で遂行するわ!!」
「よろ」
「よろ~」
ドゥーもミラ同様、きたる苦難に打ちひしがれ、だらしなく卓上へ伏すのであった。
―――――――――――――――――――――――――――
――報告
地球時間010923ZFEB25
特殊第六執行部隊の“γ-010-ノード33.9”への出動を確認。
本任務において、イン準下級フィクサー・ヨウ準下級フィクサーを一時的に下級執行官へ異動、以後ドゥー準上級執行官との共同敢行を許可する。
また、本任務における『アバドン・システム』の使用は一律で許可されていない。
例外はない。
以上。
【今回の用語まとめ】
■FALL
ドゥーとヘパーの情報が保管されていた謎のファイル項目。
通常の転生者記録である“reincarnater”とは別の階層に存在する。
ドゥーとヘパーが通常の転生者とは異なる出自である可能性を示す重要な伏線。
■主神級
オーディン神など、最上位存在の中でも特に高い権限を持つ神々。
ドゥーの過去ログには、ブッダ神の権限ですら突破できない閲覧制限がかかっており、主神級でなければ確認できない可能性が示された。
■中枢機関
最上位存在のみで構成される輪廻庁側の上位機関。
今回、アバドン・システムの完全封印を直々に通達した。
――――――――――――――――――――――――――――
ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ
よろしければ、フォロー・ブックマーク・感想などいただけますと励みになります。
感想については、質問・ご指摘・話の感想など、なんでもお気軽にお寄せください~!!全て受け止めます!!
※AIの利用について:
・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。
・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。




