CASE.016「魔都ダーナポリス」
ご覧いただきありがとうございます。
一方特殊第六執行部隊視点に移ります。エリオットの大暴走を受けて彼らは何を思うのでしょうか…
※本作はカクヨム、小説家になろう、アルファポリスにも掲載しています。
「死者数46万……なんだこれ」
突如RAC本部から緊急の通達を受け取り、ドゥーは困惑していた。
γ-411-ノード――改めβ-411-ノードに転送されて早5時間が経過した。
本来は人間側の都か街に転送される予定だったが、トラブルで座標にズレが生じ、“魔物”側の都に転送されたことで、任務は初手からかなり後手に回ってしまっていた。
それに加え、この通達である。
文面からでも本部に若干の焦りが生じているのが垣間見えた。
「いや~、なんかターゲットがやらかしたみたいですねぇ~」
「お前が転送でドジを踏まなければ、これも未然に防げたんじゃないか?」
「う……!」
痛いところを突かれ、ミラのうめき声が聞こえた。
「そ、そんなこと言ったってしょうがないでしょ~! 過去のことをぐちぐち掘り返さないでください!」
「……まったく」
座標がずれた原因は主にミラの誤操作だ。
昇格に向けて張り切りすぎたのか、位置情報のコードを誤入力してしまったのである。
おかげでターゲットがいるであろう人間側とは正反対の場所からスタートとなり、ドゥーは早々に項垂れているというのが現状である。
「さあ先輩! 気を取り直していきましょ!」
「ハァ……じゃあその死者数46万の詳細でも調べてくれ」
「あいあいさー」
とにかく、今ある材料で少しでもターゲットに近づくしかない。
今ドゥーが把握している情報は以下の通り。
・魔法が存在する世界
・魔物と人間という二つの種族
・その二種族の間で大戦が勃発中、起源は不明
そして最後に、彼がいる場所――それは魔都ダーナポリス。
魔物側の世界の中でもひときわ大規模な街であり、魔物たちの最終防衛ラインにして根城。いわば中枢だ。
これが人間側だったら話は簡単だったのだが、わざわざ正反対の場所とは中々に運が悪い。
「さて、どうやってこの国を出るかだが……」
ドゥーが現在立っている場所は魔都の繁華街だ。
様々な造形の魔物――例えばケンタウロスのように上半身が人で下半身が馬の者、レプタリアンのように二足歩行の爬虫類めいた者まで、色とりどりである。
彼ら魔物たちの外見は基底界人はおろか、この世界の人間と比べても遥かに個性的だ。中には全身フルプレートに身を包む者すら珍しくない。
故に、そんな中に一人全身メタリックの人型がいても、早々浮きはしない――はずである。
その上極度の人口密度でごった返しになっているため、ドゥーは街の中央を堂々と歩くことができるのだ。
(これはこれで不幸中の幸いだな……)
最強の万能スーツと謳われるFREYAも使えない中、この状況はドゥーにとって追い風に等しい。
わざわざ隠密する必要もないため手間が省ける。とはいえ、ターゲットは遥か先だが。
すると、ミラの軽快な声が聞こえてきた。
「先輩、調べてきましたよぉ~」
「読み上げてくれ」
「ういっす」
ミラはそのまま口頭で報告を始める。
「どうやらターゲットの“魔法”なるもので46万人が蒸発したらしいっス。それも一撃で」
「一撃……」
「場所は北方平原。先輩のいるところから南に120キロ先のでっかい広原っスね。そこでの戦線にターゲットが現れ、魔法による一撃で控えていた魔王軍本陣を壊滅、退却を余儀なくされたそうっス」
退却といっても、ほぼ全滅なので逃走に近い――とミラは最後に補足する。
「ターゲット――エリオット・レインフェルは勇者軍として現れたという事か?」
「そこまで詳しくは分かりませんが、少なくとも人間側であることは確かっスね」
「……なるほど」
何となくだが、魔王軍からすれば大惨事な出来事であるということは分かった。
そこでドゥーに妙案が浮かぶ。
「勇者軍として現れたというなら、他の戦線にも現れる可能性は?」
「……ッ! なるほどなるほど、ちょちょっと待ってくださいね~」
カタカタと音が聞こえる。
ドゥーの妙案は極めてシンプルなものだ。エリオット・レインフェルが勇者軍として現れたというのが事実であれば、彼が現れそうな戦線を事前に絞り込み、待ち伏せできる可能性がある。
ミラもその作戦の有効性に気づいたようで、急いで近辺の戦線を検索を試みているようだ。
「うーん、目ぼしい所はあまりないっスねぇ……」
「どういうことだ?」
期待が大きく外れ、ドゥーは説明を求めた。
「どうやらターゲットの一撃が相当応えたようで、北方平原を拠点に勇者軍が大きく前進。それにより他の魔王軍の戦線も悉く瓦解してるっスね」
「奴の一撃が戦況を一変させた、ってことか」
「その通り――」
「その通りだ、来訪者の御仁」
「!?」
突如ミラではない、男の声が背後から聞こえ、ドゥーは身を翻して大きく後退する。
周りの民衆がざわざわとし始め、自然と二人を丸く取り囲む形で、綺麗な円の空間ができる。
「随分と詳しいな、来訪者の御仁」
「……(コイツいつの間に……)」
そこにいたのは長身の男。
全身を麦茶色の大きなローブに身を包み、外見から分かるのは口元と、履いている安物の粗雑なブーツだけだった。
一見貧相な魔物に見えるが、纏うオーラは警戒に値するほど不気味である。
背後を簡単に取られるほど、腑抜けた覚えも警戒を怠った覚えもない。
だからこそ、ドゥーの警戒信号が強く鳴る。
「何者だ」
「何者だとは、こちらの台詞だ。貴殿……魔物ではないな?」
明らかに確信めいた声音。
野次馬と化した民衆たちもざわざわとし始め、退路がいよいよ断たれる。
こうなった以上、誤魔化すのは逆効果。ここは潔く開き直るしかない。
「……だったらどうする?」
「現在、ここダーナポリスは外の変化に異常に敏感になっているのだ……とりわけ内部も、ね。故に貴殿のようなイレギュラーは実に不都合なのだよ」
「なるほど……交渉の余地は?」
殺気を感じ取り、ドゥーはローブで隠しながらブレードの柄に手をかけた。
「――ない。『絶対領域・魔王城』」
突如、ローブ男を中心に暗い闇のようなものが展開される。
ドゥーも即座に反応し回避を試みる。だが、その異常な展開速度は彼の運動能力を遥かに凌駕していた。
早々に見切りをつけ、回避行動を中止し、引き抜いたブレードで防御態勢を取る。
やがて闇は二人だけを大きく包み込んだ。
何かが来ると身構えていたドゥーだったが、突如として闇が晴れ、主であるローブの男のもとへ戻っていく容姿に拍子抜けしてしまう。
(何をし――……ッ!?)
意図が一切掴めず即座にミラに頼ろうとしたが、開けた景色で瞬時に先ほどの闇の意味を理解した。
開いた先、それは先ほどまでいた繁華街ではない。
豪勢なカーペットに厳かな装飾品の数々。そして最奥には物々しく配置された玉座。言わずとも分かる、まさしく王の間だ。そこに強制的に転移させられたのだ。
「先輩!? 今どこっスか!?!? 座標がめっちゃズレてって、これアタシのせいじゃないですよね!?」
(音信は依然として良好……何者だコイツ?)
この世界での転移がどれほど高位の技術であるかは不明だ。
だが、ミラの警戒網を掻い潜って背後まで接近し、さらに瞬時に闇で二人を転移させる判断力となると、いよいよその正体に見当がつき始める。
「我が誰か知りたいとお見受けするが――」
(――来る)
「それは剣で語り合うとしよう」
ローブ男が踏み出す。
ケイン・アッキネンの際に見せた、ドゥーの急速接近にも匹敵する速度。
どこからか引き抜いた黒い曲剣で大振りを仕掛ける。
だが、それに反応できないドゥーではない。
即座にブレードで受け止め、綺麗に衝撃を受け流す。
受け止めることも可能だが、正直このANUBISは信用できない。一々分解して再起するのも手間なのでここは往なすことに専念する。
「フンッ」
「……」
キンキンキン、という音が連続して鳴り響く。
天井が高いこともあり、ぶつかり合う金属音が大きく反響する。
ローブ男の素早い剣速。
それを一撃も漏らさず、ドゥーは受け流す。
「す、すごいッス先輩!」
ケイン・アッキネンはステゴロのバーサーカータイプであったため分からなかったが、こうして見るとドゥーの剣技は目を見張るものがある。
ミラは分析のことが完全に頭から離れ、ドゥーの戦いぶりに見惚れていた。
「コラ、ミラ! 手が止まってるわよ!!」
「やべ!」
(まったく……うちのオペレーターは少々頼りない所が玉に瑕だな)
カイの叱責で、ミラが作業を再開した音が聞こえる。
「やべやべ」というミラの声。それらが鮮明に聞こえるほど、今のドゥーには余裕があった。
「こんなものか? 魔王」
ドゥーの言葉に、ローブ男がぴくりと反応した。
「ハッ言ってくれるね、来訪者の御仁!」
そんなやり取りの中、ミラの驚声が上がった。
「え?! この薄汚い男が魔王!?」
「コラ、ミラ! 失礼でしょうが! 見た目で判断するのはオペレーター失格よ!?」
「う、確かに飲んだくれのカイ姐も一応は元英雄ですもん――あいだ!!」
鈍い拳骨の音。
くだらない冗談にドゥーは構う暇がなかった。
なぜならローブ男――彼が魔王と呼称した者の動きに大きな変化があったからだ。
「付与・獄炎刀」
黒き剣身に、さらに黒々とした炎が絡みつく。
一般的な赤熱の火ではない。光すら喰らうような、禍々しく濁った黒炎。
刃を這うたび、炎は生き物めいて脈打ち、刀身の輪郭を不気味に揺らめかせる。
ゴウゥッ――と低く唸るような燃焼音が響き、それが見せかけではないことが明白だった。
「ハァッ!!」
ローブ男の呼気と共に、黒炎を纏った剣が大きく振りかざされる。
すると、刀身が伸びたかのように炎がドゥーへ襲い掛かった。
(これはいかにも触れちゃダメな奴――)
地を這うような黒炎の襲来。
速度はそこまでではない。ドゥーは大きく跳躍して回避する。
だが、それで終わるほど甘くはない。
「フッ!」
ローブ男が再度剣を振るうと、追尾するかのように黒炎がぐるりと進行方向を変え、ドゥーに迫った。
「先輩危ない!!」
空中にいるドゥーに回避の術はない。
このまま決着だとローブ男は笑うのではなく、何故か落胆したように小さくため息をついた。
それは普通の人間だったら、の話だが。
忘れてはいけない。ドゥー、この男は元転生者の執行官だ。
逸脱した転生者を狩る執行官。かつてどこかの世界の英雄であった彼にとって、この程度は危機の範疇外である。
「んん……フンッッ!!」
空いた左手で握り拳を作り、極度に力を籠める。
ケイン・アッキネンほどではないが、ミシミシとスーツが悲鳴を上げるほどに腕が膨らみ、その剛腕を思いっきり飛来する焔へ向けて薙ぐ。
ブワァッという轟音。
強烈な風圧が放たれ、黒炎をきれいさっぱりかき消した。
「何ッ!」
魔法でもなく剣技でもない。
ただの力技で己の魔法を薙ぎ払われ、思わずローブ男も驚きの声をあげた。
だがその表情は焦りでも恐怖でもない。先ほどとは打って変わって笑顔は張り付いていた。
「そうこなくては、来訪者の御仁ッ!!」
再度黒炎を纏い、「来い」と言わんばかりに手でジェスチャーを送る。
挑発に乗ったドゥーは、着地と同時に綺麗に舗装された床を踏み砕き、あの時の倍の速度で接近した。
(はや――)
「アバドン・システム0%――『罰劾』」
そのまま躊躇なく強烈な十文字斬りを繰り出す。
単純な、ほぼ同時の、超高速の縦と横の撫で斬りの交差。
その交わる一点は、あの炎のように赤く輝き、錆びず、霊力を宿す伝説の金属――ヒヒイロカネの合金をも容易く粉砕するほどの衝撃力を誇るという。
集中力を要するものの、相手の防御を崩すには最高の一手であるため、ドゥーが愛用する基本技の一つだ。
弱点は、その威力で武器自体が破損すること。当然ANUBISも粉々である。
「~~~ッッッ!!!!」
ローブ男は反応が遅れ辛うじて剣を割り込ませたものの、黒剣は見るも無残に粉砕され、その衝撃で後方に一直線に吹き飛ぶ。
声にならない嗚咽。
玉座を貫通し、そのまま幾重もの壁を粉砕。
ついに、約八枚の壁を突き抜けた末にようやく勢いは止まった。
「ご……は…………」
「満足したか? 魔王」
ブレードを納刀し、じっと赤いモノアイが横たわるローブ男を間近に覗き込む。
ブゥンという異音は、彼の異質さをより強調していた。
勝敗は完全に決した。
得物を砕かれ、十八番の魔法もただの肉体運動で薙ぎ払われ、しまいには止めを刺されず見下される始末。
もはや反撃の意などローブ男からはとうに消え失せていた。
「ご……は、ハハハ。参った参った、我の負けだ……。御仁よ」
「……では自己紹介でもしてもらおうか」
ドゥーはローブ男に手を差し出す。
少々迷ったものの、すぐさまドゥーの手を取り、よっこいしょとローブ男がよろよろ起き上がる。
フードを脱ぎ捨て、いよいよ彼の姿が露わになった。
「勝者の特権……それが貴殿の要望なら、応える他ないな」
現れたのは地に着くほど長い黒髪。
取ってつけたように歪な一本角。
そして何人もの人間を呑み込んでしまいそうな、光なき深淵を思わせる暗い眼差し。
魔物じみた異形だというのに、そこに立つ男の姿そのものは、どこか人の良さそうな好青年を思わせた。
男は己の名を口ずさむ。
「私の名は『ギルベルト・アーナスタン』。すでに承知の様だがこの地――この戦争において『魔王』の名を冠する者である」
【今回の用語まとめ】
■β-411-ノード
今回の任務先となる異世界座標。
エリオットの大規模魔法による被害拡大を受け、当初のγ-411-ノードから難度がβへ移行した。
■魔都ダーナポリス
魔物側の都。
魔物たちの最終防衛ラインであり、魔王軍側の中枢にあたる大都市。
本来ドゥーは人間側へ転送される予定だったが、ミラの誤操作によりここへ転送された。
■ギルベルト・アーナスタン
魔王を名乗る男の本名。
かつては“最強の勇者”として知られていた名でもあり、この世界の戦争構造に大きな謎を投げかける存在。
■罰劾
ドゥーが使用した剣技。
アバドン・システム0%でも放てる、高威力超高速の十文字斬り。
高い破壊力を持つが、使用後に武器が破損する欠点がある。
相変わらずANUBISは粉砕した。
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ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ
最高の勇者=魔王だった…
彼もまた、この継ぎ接ぎだらけの地球もどきの被害者なのかもしれません…
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・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。
・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。




