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【再掲】バンドマン、大演説



「……で、つまり、逃げたクソ兄貴のフリをしてほしくて、キミらは俺を召喚?したのね」

 湿った地下室。翔馬は、トラックの衝撃に耐えた奇跡の愛機、バタースコッチブロンドのテレキャスターを膝に置いて、床に座り込んでいた。

 目の前には、必死な顔の二人__一人はダウナー系修道女エルザ。もう一人は、翔馬の顔を見て「兄上、兄上」と半泣きで縋り付いてくる美少年レオナルドだ。

 次に目が覚めるとしたらよくて病院、最悪地獄もありうると思っていたが、実際は謎の空間で、やけにツラの綺麗な人間に囲まれている。この修道女の言う召喚術には現実味がなかったが、その話を事実とするなら、翔馬はすでに一度死んでいて、この世界に転移させられたらしい。現に、ここが下北沢ではないということだけは確かだった。



「お願いだ、兄……じゃない、翔馬さん! このままだと僕は、王国の女騎士と政略結婚させられて、ラインハルト家の領地ごと乗っ取られちゃうんだ!孤児院の子供たちも追い出されてしまう!」

「レオ様のおっしゃる通りです!本来なら召喚した悪魔に魂を捧げるつもりでしたが……あなたがこれほど前代伯爵に似ているなら、話は別です。あなたが『死地から生還したショーン・ラインハルト』として君臨すれば、すべて解決します!」

 エルザが鼻息荒く迫る。その迫力に、翔馬は少し身を引いた。

「あーね、まぁいっか。サポートメンバーみたいなもんっしょ?どうせ俺、もう元の世界だと死んでるっぽいし」

 翔馬はニカッと笑い、おもむろに背中のギグバッグから、一本のシールドを取り出した。



「エルザちゃん。さっきの光る魔法陣、音をデカくするやつに変換できる? アンプは__あるわけねえな。この『魔石』ってやつをジャックに突っ込めば鳴るかな」

「……異世界の魔導具を起動させるのですね? 承知しました。我が魔力、すべてお使いください!」

 エルザが祈りを捧げ、魔石をギターの回路に無理やり直結させる。翔馬は立ち上がると、ドクターマーチンの踵で石畳をトントンと叩いた。

「よし。いくぜ」



 __一掻き。ただのEコード。

 だが、拡声魔法でブーストされたその音は、地下室の埃を吹き飛ばす。

「ひいいっ!? な、なんだ今の咆哮は!? 心臓が止まるかと思った!」

「素晴らしい……! 一撃で空気を浄化し、魂を震わせる。これこそが、民を導く『王の咆哮ロア』……!」

 エルザは法悦の表情で十字を切っているが、翔馬はただ「お、結構いい反響じゃん」と満足げだ。

「よし、いいぜ。サポートメンバー、やってやるよ。要はこの地の領主代理ってことだろ?いいハコにしようぜ」

「ありがとう、翔馬さん……!じゃあ、正装に着替えてもらって」

「え?やだよ」

 早速着替えを持ってこようと立ち上がったレオナルドを、翔馬が止める。

「俺はステージに上がる時は革ジャンって決めてんの」

「でも……せ、せめてその、悪魔みたいな口は隠さないと」

 悪魔の口、とレオナルドが表現した翔馬のTシャツ。そこには言わずと知れたザ・ローリングストーンズの『唇と舌』のバンドロゴが、でかでかと印刷されていた。

「え?!……あ、これ俺の口じゃない!模様!服の、わかる?模様!!」



 __数分後。

 館のバルコニーに立つ(流石にTシャツだけは着替えた)。すぐ下には、怒りと飢えで暴徒化しかけた領民たちが詰めかけていた。

「ショーンを出せ!」「税を返せ!」

 殺気立つ群衆の前に、翔馬が一歩踏み出した。

「__あー、テス、テス。下北……やべえ違う、し、えーと、そう死地。死地からから来た、翔馬……今はショーンだっけ? どっちでもいいや」

 拡声魔法を通した声が、領地に響き渡る。翔馬はギターを構え、民衆を見下ろし、底抜けに明るい声で言い放った。

「全員一歩前!イェ、手ェ上げろ!」



 殺気立っていた群衆が、そのあまりの「毒気のなさ」に呆然と静まり返った。まさか前に出てこいと言われるとは思う者はおらず、辺りから困惑のどよめきが広がる。処刑されるのか、あるいは__怯えた表情の彼らを見下ろしたまま、翔馬は演説(MC)を続けた。


「お前ら、そんな暗い顔してんなよ! 飯がねえ? 希望がねえ? ……んなもん、俺が今から爆音で吹き飛ばしてやる!」

 翔馬はギターのネックを高く掲げ、太陽の光を反射させた。



「俺が死ぬ気で盛り上げて、最高に楽しい場所にしてやる! どうにもならないこともあるけどな、だから今は踊ろうぜ!お前ら、今日出会えた奇跡、俺と一緒にバカ騒ぎしようぜ! __行けるか皆!宴の始まりだ!!」

 静まり返っていた民衆から、地鳴りのような歓声が上がった。それは怒りではなく、何かが始まる予感に満ちた熱狂。

 


 翔馬の指が弦の上を踊り始めた。

 戦後復興という名の、一世一代の奇抜なギグ。その第1音目が、辺境の空を震わせた。

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