表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五十六歳の研究者、中学生から人生をやり直す  作者: 正宗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/22

第四話 ガラスケースの向こうの未来

放課後、忠夫は帰り道を遠回りした。

駅前の少し近代的な看板。


「NECマイコンショップ」


ガラス張りの店内に、白い機械が並んでいる。


ドアベルが鳴った。


「いらっしゃい。学生さんかな?」


眼鏡をかけた中年の店員が、カウンター越しに笑った。


忠夫の視線は、ショーケースの中央に置かれた機械に釘付けになっていた。


NEC PC-8001。


キーボード一体型の本体。

値札の数字が容赦なく目に飛び込む。


168,000円。


忠夫は息を呑んだ。


(知識では知っていた。だが、実物の値札は暴力的だ)


1982年の最低賃金は時給四百円台。

フルタイムでも月収は七万円前後。


(最低賃金労働者の二か月半分……本体だけでだ)


「……ゲームを開発したいんですが」


忠夫の問いに、店員は少し驚いた顔をした。


「ほう。珍しいね。君くらいの年代だと普通は遊ぶために欲しがるんだが」


「ゲームを作りたいんです」


はっきりとそう告げた。


店員は棚から資料を取り出した。


「もちろん作れる。BASICでもアセンブラでもな。

ただし――」


店員は値札の横に並ぶ機器を指さし。


「まず本体が十六万八千円。

モニターが十万円前後。

カセットテープ装置は付いているが、開発ならフロッピーディスクが欲しい」


隣に置かれた巨大な装置。


「フロッピーディスクユニットは三十万円」


忠夫の思考が一瞬止まった。


「さらに拡張ユニット、メモリ増設、カラー出力……」


店員は淡々と告げる。


「全部揃えると、軽く五十万円は超える」


(……車が買える)


「学生さんには厳しい金額だね」


「……そうですね」


「ただ、研究所や大学はもう導入を始めている。

これからの時代は、計算機を扱えない技術者は生き残れない」


忠夫の胸に、その言葉が突き刺さった。


(知っている。この国は半導体王国になる。

そして、衰退する)


ガラス越しに、PC-8001が静かに光っていた。


(これが、資本主義の入口か)


知識はある。

未来も知っている。

だが、資金がない。


「少年、親に買ってもらうのかい?」


店員が尋ねた。


「……勉強用、という名目で」


「それが無難だな。ゲーム機とは言わない方がいい」


忠夫は苦笑した。


店を出ると、夕方の街は活気に満ちていた。

焼き鳥の煙、子供たちの声、昭和の日本の熱気。


(この国は、まだ黄金時代の入口だ)


だが、その未来も知っている。


(だからこそ、先に金を稼ぐ)


ゲーム。

ソフトウェア。

未来知識の前借り。


それしか道はない。


家の門が見えた。

夕食の匂いが漂ってくる。


父を説得する。

資金調達の最初の交渉。


忠夫は玄関の前で一度立ち止まり、深く息を吸った。


(まずは、ここからだ)


そう決めて、玄関の戸を開けた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ