4-2:次なる討伐への挑戦
その日の夕食は、槍使いの老戦士たちとの宴会だった。
「そうか、エリンは武の厄災を倒したいのか」
「うん。私、自分の力を試したくって──」
エリンが師匠に当たる槍使いの老戦士たちに次なる旅の目的を話している。
その様子を僕は出された料理を食べながら黙々と聞いていた。
「そうか。武の厄災アルベルトはハルベルトの使い手。エリンが奴と戦うのも運命なのかもな」
「いや、そんな風に持ち上げるなよ。奴がハルベルト使いなのは偶々だ」
「えっと、師匠たちの間で勝手に盛り上がるのはいいけど、ハルベルトって何?」
「なんじゃい、エリン。これから倒す奴の得物も知らずに倒すとか言っておったのか。呆れた奴だ、まったく」
戦う相手の事を全く知らなそうなエリンに僕も正直呆れたが、ハルベルトが何なのか僕も知らない。
気になるので会話に加わってみるか。
「あの、私も勉強不足でハルベルトが何なのか知らないです」
「ほら。クロエだって知らないじゃん。意地悪しないで教えてよ師匠たち」
「ったく、しょうがねえなあ」
老戦士たちは、勿体付ける様に渋々答えた。
「ハルベルトっていう武器はだなあ、斧槍といって簡単いえばまあ斧と槍を合体させたような武器だな」
「少し違うけど、まあそんな感じでいいんじゃないか?」
「いやいや、エリンが使うのより大きくて力強い槍って説明した方が分かり易くないか?」
老戦士たちの中でも意見が別れているが、まあ要するに凄い槍というか槍のボスみたいな感じでいいのか?
「師匠たち、それって斧使い槍使いどっちなの?」
「槍使いだ」「まあ、槍だな」「槍の方だな」
そこは綺麗に意見が一致するのか。
「まあ、要するに武の厄災アルベルトはこの村出身の槍使いだ」
結論が出た様にで何よりと思ったが、一つ気になる言葉が。
アルベルトがここの村出身というのは初耳だ。そして、戦士の村は剣至上主義で槍は明らかに冷遇されていたはず。
なのに、この村出身の槍使いというのは?
「あの、間違っていたら謝りますが、もしかしてこの村で槍が嫌われているのは、武の厄災アルベルトが槍使いだからでは?」
「するどいな若いの。確かにそういう考えもあるな」
「武の厄災が使う武器って事で槍が忌み嫌われているのは一理ある。しかも、この村出身だしな」
やはりそうだったか。
「ねえねえ? だったら私がアルベルトを倒したら槍の名誉も回復するって事?」
エリンの考えは分かる。
この村で槍や槍使いが冷遇される原因が武の厄災アルベルトにあるのならば、奴さえ倒せば槍の名誉を回復できるのではないかという目算だろう。
だが、それに対する老戦士たちの答えは冷ややかなものだった。
「まったくエリンは直ぐそうやって突っ走ろうとする。もっと冷静になれ」
「そう熱くなるのはエリンの良いところであると同時に悪いところでもある」
「よいか、もっと視野を広くしろ。そう狭い視野で物事を端的に判断するな」
わ、分かり難い。
老戦士たちの言いたい事は何となく分かるようで分からないし、これではエリンだって。
「ごめんなさい。でも師匠たち、それじゃあ分からないよ」
僕が思った通り、エリンも理解できていない。しかし、いつもは負けず嫌いのエリンも、師匠たちの前では素直に頭を下げるのだな。
「そうか、分からないか。仕方ない、一言で表現してやる。要は『槍を嫌う理由なんて誰も覚えていない』という事だ」
「それって、どゆこと?」
「まだ分からないか? いいか、最初は武の厄災が原因で槍が嫌われていたのかもしれないが、年月が経つにつれてそんな理由なんか皆忘れちまっている。だから、その結果『槍は忌み嫌うもの』って事実だけが一人歩きして残ったという事だ」
「実は槍が嫌われている本当の理由なんてワシらにも分からん。案外、槍がダサいと本気で思っている連中が多いだけかもしれないしな」
そういうものなのかな?
長い年月を生きている老戦士たちからすれば常識なのかもしれないが、理由を忘れるなんて少なくとも僕には信じられない。
魔の厄災と化した妹クラウディアを殺した事も理由も、僕は覚えているし忘れるつもりもない。
しかし、槍使いの老戦士たちのその言葉を聞いて、僕はいつか忘れてしまうのではないかと不安になり、そして恐怖した。
「エリン、ここまで言えば理解できるか?」
「うん、何か悲しいね」
「そうだな。って、そうだ悲しいと言えばだ。エリンに伝えなければならない事があったのを忘れてた!」
「ちょ? 忘れてたって何!?」
先程まで師匠として毅然としていた老戦士たちの一人が、急ぎ慌ててエリンにこう伝える。
「すまないエリン。村には顔を出さない方がいいかもしれん。エリンの両親が勝手にエリンの墓を作って、エリンを死んだ者にしちまった」
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