3-18:爆炎の黒魔法
クラウディアは爆炎の黒魔法を放った。
避けようと必死に素早く逃げるエリン。
だが、その黒魔法の光はあまりに巨大で、逃げ切れるものではなかった。
この光に触れた箇所から局地的な大爆発が起こり、このままエリンが魔法の光に触れれば、その魔法の威力で間違いなく死んでしまう。
だから、僕はやるしかなかった。
音も無く、広場が光でつつまれる。
だが、次に光が消えた時には何事も無かった。
「あれ? 生きてる?」
エリンは不思議そうにそう呟く。
「爆炎の黒魔法に対して、同じ爆炎の黒魔法をぶつけて相殺させた」
僕は、何が起こったのか分からなさそうにしているエリンに、そう説明しながら広場に姿を現す。
「こめん、遅くなった」
僕はエリンにそう謝りながら、妹クラウディアを探す。
彼女の姿が見えないからだ。
だが、それは直ぐに見つかった。
クラウディアは地面に仰向けになって倒れている。
魔法力を使い過ぎたせいなのか、意識はあるものの起き上がれない様子。
今度は白魔法で回復する様子も無いから、本当に魔法力を使い果たしたのだろう。
「そんな、イグニスの杖とウーラムの首飾りの力を借りて、トルテの命まで使ったのに、たった一回使っただけでこれ? しかも、あんたなんかに防がれて」
この状態になっても口が減らない妹だ。
だが、この後に続く言葉に僕は驚愕し、そして激しい怒りを覚える。
「ふふッ、フフフッ、フハハハハッ!! でも、この仇はきっと、きっとお兄様が取ってくれる! そうよ。風の噂で聞いた新たに出現した黒魔道士。それが、きっとお兄様。ええ、きっと、可愛い妹の仇を取ってくれる。だから、あなたたち、震えて待ちなさい。私なんかよりもお兄様はずっと、ずーっと強いんだからッ!」
僕は、妹のその言葉にブチ切れてしまったのか、我を忘れて爆炎の黒魔法を動けなくなったその妹に向かって放ってしまう。
「ああッ! 何で? どうして、あんたみたいなのがこの魔法を二回も──」
先程、エリンを助けるために初めて使った黒魔法であり、魔法力の消費も激しいはずなのに、怒りで頭が一杯になった僕には何も感じられなかった。
「兄の……兄の顔すら忘れてしまったのか、この馬鹿が」
次に自覚してそう呟いた僕は、エリンに抱きかかえられていた。
どうやら、僕が放った爆炎の黒魔法の衝撃から助けてくれたみたいだ。
魔法を放つ数秒前からの記憶が無い。
その記憶が飛んでいる数十秒の間に生じた爆発の衝撃から、僕を逃がしてくれたのだろう。
「エリン、ありがとう」
浮遊の白魔法をエリンに解いてもらい、降ろしてもらう。
周囲を見ると、爆炎の黒魔法が着弾した地点付近が灰で埋もれている。
死体の骨すら残さずに、全てを灰にまで一瞬で焼き尽くす程の威力か。
とんでもない魔法だ。
こんなのがエリンに当たらなくて本当によかったと心底安堵した。
「終わった、か」
「そう……だね」
僕のその言葉に、エリンが力なくそう答えた。
「私、何か入れ物を探してくる」
そう言って、エリンは城の中に行ってしまう。
入れ物なんて何に使うのか?
僕は灰と化して散らばってしまった妹を見ながら物思いにふける。
結局、アレは殺すしかなかった。
どこまでも我儘に生きるあの妹を野放しにすれば、もっと多くの人間がその犠牲となったであろう。
更に、戦いの最中の言葉のせいで微塵も後悔の感情が湧かないのが悲しい。
そう感傷に浸っていると、エリンが何やら空の壺を見つけて戻ってきた。
入れ物を探すと言っていたが、そんなもの何に使うのか?
「花瓶に使っていた壺だけど、いいかな?」
「いいかな? ってこんなもの、何に使うんだ?」
エリンは収集の白魔法を使い、周りにある灰を壺の中に集めている。
この魔法は、本来散らばってしまったものを集めるのに使うのだが、こんなもの集めてどうするつもりだ?
「せめて、お墓ぐらい作ってあげなきゃ」
墓?
そうか、入れ物を探していたのは灰と化したクラウディアを入れるための。
「魔の厄災エクスエナの墓なんか作っても、ろくな事にはならないぞ」
「それでも、クラウディアの墓は必要でしょ、クラウディオ?」
「そうか。好きにしろ。それと、僕の事はクロエと──」
「雨、降ってきちゃったね。水が入らない様に気を付けなきゃ」
「えっ? ああ、そうだな」
昼下がりのこの時間、空は澄み渡る快晴だった。




