2-12:修行の日々、そして
あれから、午前中はダンジョンでの修行、午後からは狩りをしたり交易都市ポンに行ったりの毎日だ。
時々は老戦士ビルダルが作っていた小規模な畑の手伝いなんかもした。
僕とエリンは徐々にダンジョンの奥まで進める様になり、日に日に強くなっている手ごたえを感じている。
しかし、こう毎日食と住を世話になっていて大丈夫なのだろうか?
僕はビルダル様に聞いてみる事にした。
「あの? 急に二人増えて食費とかの出費が増えているはずなので、やはり対価を」
そう言って、僕は金貨一枚をビルダル様に手渡そうとした。
エリンがいた村の大会での優勝賞金の一部であり、本来ならば宿に泊まるのに使おうと思っていた金。
だから、僕がこの金貨をここで使うのは惜しくないが、エリンは何かしら文句をいいそうだ。
こういう理由から、エリンがいない時を見計らって今回の行動に出た。
しかし、
「食費として受け取ろう。と言いたいところだが、実はエリンが森で捕ってくる獲物で黒字でな。まあ、宿代含めてトントンって事でいいんじゃないか?」
この様に言われ、あっさりと受取を拒否されてしまった。
ビルダル様がそれでいいなら、僕からはこれ以上何も言えない。
今まではビルダル様の家に滞在する事に少し罪悪感もあったが、それも消えてしまった。
気兼ねなく修行が終わるまで長居するか。
こうして修行と狩りの生活を続けていたある日の夕食の時間の事だ。
「どうだ? 最近の調子は?」
老戦士ビルダルに現在の進捗状況を聞かれた。
「えっと、結構進めるようになったんだけど。どれくらいだったっけ、クロエ?」
「15部屋、最近は15部屋まで何とか進めるようになりました」
「そうかそうか。あと少しだな」
僕のその報告を聞くと、老戦士ビルダルは満足そうにそう答えた。
そうか、もう少しで最深部か
最深部そのものに用は無いし、どうせ大したものは無いはずだが、それでも達成感はある。
というか、そこに到達できるようになるまでの実力が身に付いた事実が大切だ。
と、こんな会話をしてから数日後。僕とエリンはダンジョンの16個目の部屋にたどり着いた。
その部屋は他の15部屋と違い、装飾品が多く並んでいる。
いや、装飾品では無く壁に飾られた武器の数々。
飾られた武器の下には箱があり、飾られているものと同種の武器が入っている。
そして、何より他の部屋と違うのは、先へと進む扉や通路が見つからない事。
どうやら、ここが最深部の様だ。
何が「あと少し」だよ? もう目と鼻の先まで進んでいたじゃないか。
言ってくれればいいのに、ビルダル様も人が悪い。
そう思いながら、部屋を眺めていた。
「クロエ、ここの武器大した事ないよ。師匠たちから貰った槍と同じくらいというか、私の槍の方がむしろ強いかも」
「修行が目的のダンジョンだからな。それに、ビルダル様も言っていただろう? 金目のものはないって」
「うん。綺麗に磨いた後はあるけど使い古した感じもするし、あんまり価値も無いかも」
だとすると、昔あった内戦で使われた武器をここに集めて保管しているのかもしれない。
となれば、槍使いの老人たちが住んでいる砦跡に残っていた武器と同程度と思われる。
何にせよ、ここが最深部である事には変わりない。
他に用が無ければ長居は無用。
「エリン、ここが最深部でこの先には何もないみたいだし、帰ろうか」
「えっ、ここがゴールなの!? だったら記念に何か持ち帰ろうよ」
それもそうか。
老戦士ビルダルに一応の報告をするにしても、証拠の品はあった方がいいかもしれないし。
「でも、ここにある槍は要らないし、何にしよう?」
僕とエリンは部屋の中で何か持ち帰るに相応しいものがあるかを見渡す。
よくよく見ると、武器の他に盾も置いてある。
「あっ、これいいかも? 丁度欲しかったし」
そう言って、エリンは円形の小盾を1つ手に取っている。
思い返すと、エリンが今までの戦闘で盾を使っているところを見た事が無かった。
攻撃は素早く避ける事が殆どで、避け切れなかった分は傷として受けている。
だから、盾があれば怪我をする事が減るというか、何で今まで装備していなかったんだよ?
「エリン、どうして今まで盾を使わなかったんだ?」
「何でって、持っていなかったからだけど」
真っ当な答えが返ってきた。
確かに、今の平和な時代だと、盾も武器も品物が無いから手に入り辛い。
エリンの村の店には売っていたかもしれないが、エリンの村での扱いから察するに売ってもらえなかったのかもしれない。
だから、あの砦跡に盾が無ければ手に入る手段が無いというわけか。
「ビルダルさんにこれ見せて自慢しなきゃだし、帰ろっか。クロエ」
こうして、僕とエリンは今日、戦士のダンジョンを初めてクリアする。
ダンジョンから出た僕とエリンは、昼食前に老戦士ビルダルの家へと帰還した。
「おっ、今日は早いな。どうかしたのか?」
「見て見て。修行場のダンジョン、クリアしたんだよ」
そう言って、エリンは老戦士ビルダルに持ち帰った盾を見せびらかす。
「やったじゃないか。だがまあ、修行はもう少しだけ続くぞ。もう何回かはあそこをクリアしてみろ」
「はい、勿論そのつもりです。エクスエナを殺すにはまだまだ修行しないと」
老戦士ビルダルの言う通り、これで終わりではない。
だが、終わりが見えている事も確か。
もうすぐ別れの時期である。
先に進めるのは喜ばしい事だ。
寂しくないわけでもないが、僕にはエクスエナを殺すという目的というか自らに課した使命がある。
そんな場合ではない。
それに、何時までもビルダル様の世話になるわけにもいかない。
そろそろ、先に進む準備をしなければ。
「よし、まずは昼飯で乾杯だ。それから、今夜の晩飯はお前らの初クリアを祝って豪勢にいくぞ!」
「そういう事なら、私もそれに相応しい獲物を捕まえなきゃ!」
気が早いな。
だが、最近の生活で忘れがちだったが、僕は一応逃亡の身。
今のところバレてはいないが、交易都市ポンでも逃亡中の黒魔道士として手配されている。
何時見つかって逃げなきゃいけないか分からないしな。
騒げる内に騒いでおくか。




