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2-11:今日はここまでまた明日

 結局、次の部屋に出てきた敵を倒したところで、僕たちは引き返す事にした。


「もう一部屋くらい進みたかったなあ」


「駄目だ。さっきだって、それなりに苦戦していただろうが。次の部屋で大怪我されても治せないんだぞ」


「ちぇっ」


 エリンは若干物足りなさそうだ。


 だが、満足行く戦いができたところで、怪我で動けなくなってしまっては意味がない。


 ある程度の白魔道士がいれば多少修行で無茶をしても治せるが、そうもいかないしな。


 だから、今は基礎を少しずつ成長させる他無い。


 エリンには我慢してもらおう。


 焦る気持ちが無いわけではないし、僕一人で先に進む事もできるかもしれない。


 しかし、数で敵に来られた場合、一人では不安だと今日の経験で改めて分かった。


 倒しきれなかったり、奇襲を仕掛けてきた敵との接近戦になる可能性も十分にある。


 可能ならば前衛はいた方がいい。


 だから、今はエリンを成長させようと思う。


 本人もそれを望んでいるしな。


「ふーっ、やっと外だ。って、うわーまぶしー」


 僕とエリンがダンジョンの外に出ると、日が高い位置に上っていた。


 丁度、昼頃だ。


「ここでお昼にしよっか」


「そうだな」


 万が一に備えて食料とキャンプ道具だけは常に持ち歩いている。


 ダンジョンに閉じ込められる事も想定していないわけではないが、やはり逃亡中の身。


 何時、この近辺から逃げ出さなければいけなくなるか、分からないからな。


 とりあえず今日は、昨日の残りの肉をパンに挟んだものがある。


 僕とエリンは、ダンジョン入口の森の広場で、それをピクニック気分で食べた。


 しかし、問題は午後からだ。


 ダンジョンでの修行を再開するにしても明日。


 今日はもう、ある程度体を休ませないといけない。だから、それ以外で何をするべきか?


「エリン、午後からはどうする?」


「どうするって、森で狩りをするに決まってるじゃん」


 狩り?


「ビルダルさんにお世話になっているんだから、お金に変えられる獲物とか狩らないと」


「ああ、そうか」


「それに、ご飯にもなるし」


 確かに。


 エリンの言う通り、今日に限らず今後のダンジョンでの修行以外の時間は狩りに費やそう。


 僕たちが狩りに参加したところで、森の生物が絶滅する事も無いはず。


 仮にそうなりそうならビルダル様が事前に警告するだろうしな。


 それに、こう毎日余力を残したまま修行のダンジョンから帰還できるとも限らない。


 あくまで、午後に狩りが行える余力が残っている日だけだから大丈夫だろう。


 こうして、昼食を食べ終えた僕とエリンは、森の中で鹿を一頭狩ってから老戦士ビルダルの家へと戻った。


 ビルダル様が不在だったので、先程狩った鹿をエリンと僕で解体する。


 とは言っても、僕は動物の解体方法を知らない。


 なので、エリンに指示された通りに手伝う事しかできなかった。


 午前は僕がエリンを導く形での修行だったが、午後の時間は立場が逆転してしまったな。


 こうして一通りの作業を殆ど終えたところで、ビルダル様が帰ってきた。


「何だ、お前たちもう帰っていたのか」


「あっ、おかえり。見て見て、今日のご飯獲ってきたよ」


 エリンは老戦士ビルダルに今日の獲物とその成果を自慢すると、ビルダル様はニヤリと笑った、


「おお、よくやった。こっちも昨日のを売り払って得た金で食料を色々買い足したぞ。それと、畑から幾つか見繕ってきた」


 どうやら、昨日の「明日はマシなものを用意する」という約束は本当だったようだ。


 やはり、昨日は急な事で持て成せなかっただけなのだと改めて分かり、申し訳なくなった。


「やったー。ご飯のためにも狩りも頑張らなきゃ」


「おいおい、お前ら修行しに来たんだろ? まあ、今はとりあえず飯だな」


 エリンと老戦士ビルダルは楽しそうにやりとりしながら夕食の準備へと取り掛かっている。


 二人が食事の準備をしている間、僕はやれる事がない。


 かといって何もやらないわけにもいかないので、食卓を中心に簡単に掃除する事にした。


 食事前なので誇りを立てないように簡単な拭き掃除程度だが、それでも食事をするなら綺麗な方がいいだろうと考えての事。


 一人暮らしらしくて、十分に掃除が行き届いていない感じだし。


 師匠であり、親戚のお爺ちゃん的なジョルダン様の家も、こんな感じだったなあ。


 子供の頃、遊びに行った際に妹と二人で時々掃除していたのを思い出す。


 何となく懐かしく思いながら軽く掃除をしていると、夕食の時間となった。


 スープ付きのパンに、肉と野菜の双方を使った料理。


 昨日とは比較にならないくらいちゃんとしていて、老戦士ビルダルとエリンの二人は自慢げの様子。


「何時も一人だったからな。こんなにちゃんと飯を用意したのは久しぶりだ」


「ふふん。私が手伝ったおかげだね。それじゃあ、お腹空いたし、早く食べよ?」


 こうして、僕たちは昨日とは違う、豪華とは言えないがしかし豊かな夕食を食べ始める。


 食事の内容に比例してか、その最中の会話も昨日よりかは弾んだ。


「今日は何処まで進んだんだ?」


「もう全然。入口から数えて4部屋くらいしか進めなかった」


「初日でそれだけ進めれば大したもんだ」


「ちえッ、無理すればもうちょっと進めたのに、クロエに止められちゃってさあ」


「怪我して明日動けなかったら意味無いって、さっきも言ったと思うが」


「クロエの言う通りだ。それに、そんなに簡単にクリアされても、作った者としては悲しいぞ」


 確かに、目の前にいるのは修行用ダンジョンを作った者の一人。


 それを簡単に攻略してしまうなんてのは失礼な話だ。


 それに、修行の本番はクリアしてからだしな。


「にしても、お前たち。そもそもあのダンジョンを最後まで攻略するつもりなのか?」


「はい。妹……いえ、エクスエナは魔のダンジョンの最深部まで攻略しました。ですから、それくらいの実力は身に付けないと」


「わ、私も。えっと、もっと修行して師匠たちに成果を見せたいし」


「そうか。まあ頑張れ。言葉通り、ダンジョンの先は長いぞ」


 言葉通り?


 確かに、あのダンジョンは迷宮ではない一本道で、構造という意味で先が長い感じだった。


「ねえねえ? あのダンジョン何処まで伸びているの?」


「知りたいか? 何と、あの交易都市ポンの地下にまで続いているぞ」


 昨日、僕とエリンが買出しを行った近くの町というか、当初はあそこで寝泊まりする予定だった場所。


 近場とはいえ、結構伸びているなあ。


「えっ? 町の地下にダンジョンを作ったの!?」


「違う違う。戦士のダンジョンを作った後に、あそこに町を作り、それが交易都市ポンになったのだ」


 あの都市、そんなに新しかったのか。


「ダンジョン建設に集まった大工や石工たちが、修行用ダンジョンの完成後に手持ちぶさになってな。折角集まったのだからと、次の仕事にしたのがあの交易都市ポンの建設だったというわけだ」


「それまでは、ここは何も無かったのですか?」


「まあ、そうだな。ダンジョンの建設資材を集めるのに適している何もない場所だったからこそ、この地が選ばれたに過ぎない。元がそういう場所だから交易都市を作るのに適していたのだろうな」


 とまあ、こんな感じで今日の出来事を含めて、食事中に色々と会話した。


 夕食を食べ終えて後片付けをした後、僕とエリンは寝室へと入る。


 僕は、ベッドに横になると直ぐに眠ってしまったみたいだ。


 多分、思ったよりも今日一日で疲れてしまったのだろう。

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