1-11:静かな快進撃
二回戦、三回戦とエリンは勝ち進んでいった。
一回戦の時点でエリンの戦い方はバレている。
しかし、相手の男戦士が分かった上でエリンの動きに対処できないのだ。
だから、一回戦と同じ様に試合は一瞬で決着がついた。
一瞬で終わってしまうので観客は盛り上がらない。
女の子が圧倒的な技量で男を倒すという、如何にも盛り上がりそうな構図でもだ。
それだけエリンが勝つ事を村の住民たちが快く思っていないのだろう。
そして、この事に喜んでいそうな老戦士たちの姿は観客席には無かった。
先程の様な村人たちとのいざこざを避けたいと、エリンに忘れ物を届けた後は試合会場を離れたのだ。
何処か遠くの方でエリンが勝つ様子を見ているのかもしれないが、応援は届かない。
だから、応援する観客の姿はなく、観客席が無声のままエリン勝ち進む展開が続く。
ブーイングこそ生じないのは、余所者の僕がいる手前、村の恥にならない様に我慢しているのだろう。
三回戦が終わったところで昼休憩になった。
「クロエ、師匠たちがお弁当を作ってくれたし、一緒に食べよう?」
「はい。いただきます」
昼食をどうしようかと悩んでいたところだ。
丁度良かったけれど、弁当だなんて何時の間に?
先程、忘れ物と一緒に受け取ったのだろうか?
「あっちで食べよっか」
見ると、大会に勝ち進んだ戦士たちが集まって弁当を食べている場所があった。
近くに木々があり、若干の木陰になっている。
僕とエリンは、そこで昼食を取る事にした。
弁当の中身は、パンに肉と野菜を挟んだ簡単なもの。
それと、ハーブティの入った瓶だった。
「やっぱり、師匠たちの作ったお弁当おいしいー」
「ええ、質素ながら美味しいです」
「もう、そういう事……って、クロエもしかして高貴な出だったりするの?」
しまった、つい質素だなんて言ってしまった。
出身とか以前に失言だ。
反省せねば。
それに、出身を正直に話すと正体がバレてしまう。
どうしよう?
「ううん、答えたくなかったら答えなくていいよ。旅しているだなんて、何か訳有りかもしれないし」
とりあえず、エリンが勝手に察してくれて助かった。
でも、訳有り発言は余計だ。
確かに思いっきり訳有りだけどさあ。
「そうですね、機会があったら話します。それよりも、今は午後の試合の方が大切なのでは?」
話題をそらしてみた。
だが、今は試合の方が大切なのも確かだ。
僕にとって、エリンが勝とうが負けようが正直どうでもいい。
しかし、エリンが優勝すれば少なからず周りから恨まれるかもしれない。
村の悪評を恐れて表立った嫌がらせはないかもしれないけれど、僕は一応逃亡の身だ。こんなところで悪目立ちするのはよくない。
だけど、このままエリンが優勝する姿に心躍る自分もいて複雑だ。
「うん。何か楽勝だったし、この調子だと優勝できるかも?」
「でも、だからといって油断は禁物ですよ」
「師匠にも似たような事言われた。物事が上手くいっている時ほど危ないから油断するなって」
その通りだな。
エリンにあんな事を言ったが、僕も気を付けなければ。
確かに今は食事に困らず、追っ手も今のところは来ていない。
エリンが戦って、僕はただ見ているだけだが、それでも実戦経験も一応は積めているし、おまけに泊る宿まであり、僕にとっても物事が上手くいっている。
油断しない様にしないと。
何があるか分からないし、近いうちに追っ手が来るかもしれない。
さりげなく、注意がてらに周りを見渡してみた。
他の参加者たちは談笑がてらに昼食を楽しんでいる。
まるで、祭りの一環として楽しんでいるようで、エリンと僕の二人だけが、そこから除外されているようだ。
余所者の僕に近寄り難いのは当然だが、エリンもこの扱い。
エリンはこの大会に優勝して周りを認めさせたいようだが、この様子だと無理だろうな。
試合前に会った白魔道士の女や乱暴な男の話からも、女戦士である事と槍使いである事の両方の理由で避けられている事が分かる。
そもそも、今の時代強さなんて求められていないからな。
というか、下手に強さなんて求めたら──。
「お弁当も食べ終わったし、そろそろ午後の準備しよっか」
食事を食べ終えたエリンが急に立ち上がった。
それを見て、僕は慌ててパンの残りを口に詰め込む。
「はうっ……はいッ……!」
「ごっ、ごめんクロエ。急がせちゃった?」
「……だっ、大丈夫です」
僕が慌てて食べて上手く喋れない様子を見て、エリンが申し訳なさそうに言った。
朝食の時の様に。また置いていかれたら面倒なので少々慌ててしまったじゃないか。
だが、今度は大丈夫な様だ。
とりあえずは、午後の試合か。




