1-12:決勝戦、そして
午後の試合も相変わらずだ。
エリンの初撃を避ける奴が現れて一瞬試合が盛り上がったが、そいつも二撃目でやられてしまう。
そして、こんな調子でとうとう決勝戦まで来てしまった。
「よーし、このまま決勝戦も勝つぞー!」
エリンは張り切っているようだ。
まあ、決勝戦ともなればテンションが上がるのも分かる。
もしかしたら、決勝戦もこのまま勝ってしまうかもしれない。
だが、対戦する相手はケーンとかいう、優勝確定みたいに言われていた男。
決勝戦までのケーンの試合は見ていたが、対戦相手が弱くて実力が分からない。
他の戦士よりも強い事は分かる。
しかし、エリンが何処まで強いのか分からないのと同様に、ケーンが何処まで強いのか分からない。
だから、今までのようにはいかないかもしれないし、これまでと同じ様にすんなりと勝てるかもしれない。
とにかく、実際に戦いが始まるまではどうなるか分からない。
少しは期待できる展開だといいのだが。
戦うのは僕じゃないが。
「では、只今より決勝戦を開始する。ケーン、エリン、両者とも魔道士と共に前へ」
審判らしき男の呼びかけと共に僕とエリン、ケーンとその相方となる白魔道士の女が前に出た。
エリンとケーンが中央でにらみ合い、僕がエリンの後方に、そして白魔道士の女はケーンの左隣に付く。
相手の白魔道士は珍しくやる気のようだ。
これまで相手をしてきた白魔道士は、戦士の後方にいるだけで実質何もしていない。
それが戦士と同じく前に出てきているのだ。
それだけで、他とは違いやる気がある事が分かる。
これは、期待できる相手かもしれないな。
「始めッ!」
これまでと同じ様に、審判の合図と共にエリンが槍で電光石火の一撃を放つ。
「甘い!」
しかし、ケーンの剣がその一撃を軽く弾いてしまった。
そして、エリンが槍での突き攻撃を繰り返すも、ケーンはそれに負けず攻撃を弾き続け、少しずつエリンを押している。
やはり、これまでの相手とは違う。
ケーンの隣に位置する白魔道士は、ケーンに対して常に素早さ増強の補助魔法をかけている。
更に、エリンの連続する攻撃でケーンがかすり傷を負っても、即座に回復魔法で癒している。
戦士と白魔道士の連携が取れた状態だ。
ケーンは白魔道士による補助でエリンの攻撃に恐怖せずに立ち向かえる。
そして、エリンに剣の間合いにまで近づく事に成功したケーンは、エリンの腹部に斬撃を与えた。
「痛ッ!」
エリンが思わず叫ぶ。
弱点となっている部分に攻撃されたのだ。
彼女が装備している鎧は腹部ががら空きとなっている代物。
肌が露わになっている箇所を剣で斬られれば痛いに決まっているし、下手をすると痛いだけでは済まない。
この一撃に、観客席は大いに盛り上がった。
「うおおおッ!!」
「いいぞ、ケーン!」
今まで相手を瞬殺していたエリンが、逆に攻撃を受けた事を観客たちは大喜びだ。
エリンが相手を倒した時はあんなに静かだったのに。
村人たちのエリンに対するその対応の差に、僕は心底呆れてしまった。
「ふはは、勝負あったな!」
ケーンが、エリンに対して高々と勝利宣言をした。
正直、僕もこれはケーンと白魔道士の連携による勝利だと思った。
一対一ならまだしも、これは戦士と魔道士による試合。
一人で戦っているエリンに勝てる要素がない。
だが、エリンは違った。
「まだまだァー!!」
痛みをかき消すかの様にエリンはそう叫び、再びケーンに向かって攻撃を始める。
だが、ケーンと白魔道士の女の連携に敵う筈もない。
違いの激しい攻撃の末、エリンは再び腹部に斬撃を受けてしまった。
「うッ!」
「もう止めろ、俺たちの勝ちだ!」
エリンの腹部からは血も出ている。
こんなちっぽけな村の大会。
命をかける程ではないし、さっさと降参した方がいいに決まっている。
しかし、エリンは。
「誰が負けるかッ!」
腹部からの出血も気にせず、エリンはまたもやケーンに立ち向かう。
「おい、まだやるつもりなのか!?」
「当然!」
そうして、エリンはやられてもやられてもケーンに立ち向かう。
「意地を張るな、エリン。例えお前が勝ったところで、槍もお前も認められる事は無い」
「黙れッ!」
「周りの観客を見ろ。お前に賞賛も勝算も無い。だから、これ以上はやめておけ」
「黙れ黙れ黙れッ!!」
「ふん。だったら、俺を倒すんだな!」
そして、ケーンはエリンが向かって来る度にエリンの腹部への傷を増やす。
しかし、エリンは止まらなかった。
「はぁ….…はぁ……いい加減、負けを認めろエリン!」
「誰が、負けるかッ!!」
こんな調子で決勝戦の試合は続いていった。
エリンが傷つく度に観客の多くは盛り上がる。
ケーンを応援する者もいれば、諦めないエリンに対してヤジを飛ばす者もいる。
だが、一部は違った。
どうも様子がおかしい。
最初は、力量の差が理解できなく諦めの悪いエリンに呆れているのかと思った。
しかし、その観客たちはしきりに僕の方見ている。
というか、僕の方を見て何かを確認している。
本来ならば、試合を止めなければいけないはずの審判の男までもが僕の方を見ている。
──頃合いか。
僕はそう思った。




