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男装ガールと同棲します!!~男だと思って楽しく絡んでいた陰キャの彼女が、気が付けばめっちゃ輝いていた件~  作者: サイトウ純蒼
第三章「女の子は可愛くなる権利があるんです!」
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41.龍之介さんと行ってあげる!

「おはよう、涼子」


「あ、おはよ。真琴……」


 翌朝、教室に来た真琴が友達の涼子に挨拶をする。

 昨晩、亮子からカエデ達との喧嘩について心配するメッセージが来ていたが、真琴は不思議とそれに落ち着いて対処できた。

 以前の自分とは違って自信が持てている。応援してくれる人がいる。それだけで真琴は前を向けた。涼子が小声で言う。



「橘さん、こっち見てるね……」


 教室の後ろから椅子に座り真琴達を睨むように見つめるカエデ。その視線に気付いた涼子が心細い顔で言う。


「大丈夫。大丈夫だって」


 真琴はそれに動じない態度で答える。もう負けたくない、その思いが真琴の体を巡っていた。




(朝比奈、真琴……)


 カエデは昨日真琴に平手打ちされた頬を手で押さえながら、じっとその後ろ姿を見つめた。






(桃香さん、いるかな?)


 放課後化粧についてまた聞きたいことがあった真琴は、授業が終わると一直線に喫茶店『カノン』へ向かった。

 どんどんと新しい世界を知って行く真琴にとって、目の前に広がる景色しか見ることができなかった。興奮気味の真琴。そのせいか、彼女は自分の後ろについて来ている影に全く気付くことができなかった。



「あ、いけない! ()()にならなきゃ」


 桃香のことばかり考えていた真琴は、バイト先に龍之介が居ることをすっかり忘れてしまっていた。着替えのため、急ぎ近くの公園のトイレへと向かう。


 だが、そんな彼女の前にその赤髪の女子高生が行く手を遮るように現れた。



「橘さん……」


 ひとりでやって来たカエデ。じっと真琴を睨みつけた。





「あ、大変! 龍之介くーん、ガムシロ切れちゃってたみたい。ちょっと買って来てくれる~??」


 備品のチェックをしていた桃香が、コーヒーに入れるガムシロップのストックが無くなっていることに気付き龍之介に言った。



「あ、はい。じゃあ、ちょっと買って来ます!」


 夕方の時間帯。比較的来客が減るこの時間なら少し店を空けても大丈夫だ。龍之介はエプロンを置いて裏口から近くのスーパーへと走り出す。



(あれ?)


 喫茶店からスーパーへの道。小走りで移動していた龍之介の目に公園の隅で睨み合う女子高生の姿が映る。



(あれってうちに良く来てくれる赤髪の女の子? 何してるんだ??)


 顔は見えないが誰か別の女子高生を睨みつけ何か言っている。一瞬で分かるただならぬ雰囲気。龍之介は迷うことなく公園へと向かう。




「目障りなんだよ、お前っ!!」


 真琴はカエデの罵声にじっと睨み返す。


「陰キャで根暗のくせに化粧なんてしやがって!! 何様のつもりなんだ!!!」



(負けない! 何を言われようが絶対に負けない!!)


「謝れよ!! 土下座して謝れ、昨日のこと!!」


 カエデは高圧的な態度で真琴に迫る。



(怖い。怖いけど、負けちゃダメ!!!)


 真琴が勇気を振り絞って口を開こうとした時、カエデの後ろに見慣れた顔が近付いて来て言った。



「君、令華高校の子だよね。何やってるの?」



(りゅ、龍之介さん!!??)


 真琴はその男の顔を見て唖然とした。

 どうしてここに!? そして今は『女の真琴』、ここで顔を合わせることはできない。

 慌てて両手で顔を隠すようにした真琴。同じくその声に気付いたカエデが振り向き、驚いて言う。



「あ、み、三上さん……」


 カエデは自分で最も醜い部分を見られてしまったと激しく動揺する。状況を何となく理解した龍之介がカエデに言う。



「前にさ、俺に好きなタイプは何って聞いたよね」


「は、はい……」


 カエデがひとりの乙女に戻って下を向いて返事をする。龍之介と真琴は友達だったはず。頭が真っ白になりかけたカエデに龍之介が言う。



「好きなタイプって言うか、人を罵倒したり脅したり、誰かを苛めたりする奴は死ぬほど嫌い。絶対に好きにはならない」



「え、あ、あの……」


 カエデは顔を上げ真剣な顔の龍之介を見つめる。そして目に涙を溜めながら言った。



「わ、私、違うんです。違うんです、ごめんなさい……」


 カエデは両手で顔を押さえながらそのまま走り去って行った。龍之介はそれを黙って見つめる。真琴が思う。



(ど、どうしよう……)


 一方、カエデと同じく両手で顔を押さえていた真琴は、龍之介とふたりきりになってしまったことに動揺していた。龍之介が顔を手で押さえている真琴に向かって言う。



「あ、ごめんね。余計なことを……」


 そこまで言い掛けた龍之介がその『おさげの少女』を見て言葉を飲み込む。



(え、うそ……、彼女って、彼女ってまさか……)


 龍之介の体が固まる。

 それはまさしく彼が恋憧れる『おさげの天使様』であった。



「ご、ごめんなさい!!」


 真琴は恥ずかしさに耐え切れなくなり、顔を押さえたまま走り出す。


「あっ、待って!!」


 龍之介の声も空しく、おさげの天使様はそのまま走り去ってしまった。



「マジか……、でも、初めて喋っちゃった!!! やったぜ!!!!」


 龍之介はこれまで眺めているだけの存在だった天使様と、初めて会話で来たことに興奮する。言い表せぬ喜びが龍之介の体に満ちる。

 龍之介はデレデレとだらしない顔をしたまま、スーパーへと買い出しに向かった。






(私、そんな、三上さんに……、どうしよう……)


 カエデはしばらく走って駅前のベンチに行き、ぼうっと空を見つめていた。


(三上さんに嫌われて、私、そんなつもりじゃなくって……)


 最近自分の思う様にならなくなっていた真琴。

 その彼女が憧れの龍之介と繋がっていることを知り、カエデ自身何をどうすればいいのかまったく分からずにいた。

 そして起きた昨日の取っ組み合い事件。彼女にとっては頭の整理もつかぬまま、今日学校を出た真琴に対してそのもやもやの気持ちをぶつけてしまった。



(三上さんに、あることないこと全部言われちゃう……)


 真琴と友達だという龍之介。

 きっとさっきの件で怒った真琴が龍之介にすべてを話すだろう。以前ならそんな心配もなかったのだが、最近の真琴は人が変わったかのように積極的な部分がある。



(謝ろう……、朝比奈に……)


 三上龍之介と言うパイを握られている以上、彼女にこれ以上の対抗手段はなかった。カエデは以前いたずらの為に調べた真琴の住所を確認すると、真っすぐ駅へ向かった。






「ど、どうしよう……、龍之介さんに気付かれちゃったかな……」


 まったく無防備で龍之介に接触された真琴。『おさげの天使』が自分であることがバレてしまったのではないかと、マンションに帰って来てからも落ち着かない。



(あんな間近で見られたんだし、絶対にバレて……)



 ピンポーン


 そう思った時、真琴の耳にインターフォンが鳴る音が聞こえた。



「え、誰?」


 真琴がインターフォンの前へと行く。そしてそこに映っている映像を見て目を大きく広げて驚いた。



「た、橘さん!?」


 さっき公園で因縁を付けられた相手。まさか激怒してここまで追って来たとか?



「は、はい……」


 真琴が小さな声で反応する。カエデが言う。



「朝比奈? あ、あのさ、ちょっと話があって……。少し出て来られる?」


 映像に映ったカエデは決して激怒している様には見えない。それどころか何か別の話をしようとしている。



「わ、分かったわ。今行く……」


 真琴は少し迷ったが、ここは行かなければならないと覚悟を決めた。





「よ、よお。朝比奈……」


「……」


 マンションのエントランスに現れた真琴にカエデが引きつった顔で声をかける。真琴が小さな声で言う。



「な、なんの用……?」


 それは脅かせば後ろにびっくりして飛び跳ねるような姿勢。明らかに戸惑っている。カエデが言う。



「あの、謝りたくてさ。朝比奈に……」


「え?」


 思いもよらぬ言葉に真琴が驚く。カエデが頭を下げて言う。



「ごめん。今まで本当にごめん。悪かったと思ってる……」


 カエデはどうしたらいいのか分からないような顔で真琴に言う。



「それって……」


 まだ状況が理解できない真琴が訪ねる。カエデが答える。



「もう朝比奈を馬鹿にしたりしない。いたずらもしない。だから許して欲しい」


 真琴はまだ信じられなかった。さっきのさっきまで自分に牙を向いていた相手。だが次の彼女の言葉を聞いてその意味が理解できた。



「だから、その……、三上さんにはうまく言っておいて欲しいんだ……」



(あ、そういうことか……)


 カエデは龍之介に好意を抱いている。

 だからさっきの彼女の醜態を見られて焦っているんだ。それでも思う。



(でも、それでもいい。彼女が勇気を出して手を差し出してくれたんだ……)


 クラスカースト上位のカエデが、下位で陰キャの真琴に謝罪する。

 当人同士だからこそ分かるカエデの思い、そして決意。これを邪険にしてしまったら、取り返しのつかないことになるだろう。真琴が手を差し出して言う。



「いいよ。前のことは気にしない。だから、ありがとう」


 真琴は笑顔でその手を握って言った。カエデの顔が明るくなって答える。



「いいのか? 本当にいいの?」


「うん、大丈夫」


 カエデが嬉しそうな顔になる。



「あと……」


 何かを口にしようとしたカエデに真琴が言う。



「大丈夫。龍之介さんにも上手く言っておくから」


「本当か? ありがとう、朝比奈」


 カエデが今日一番の笑顔になる。そして少し下を向いて言う。



「あとさ、朝比奈……」


「なに?」


 真琴が訪ねる。



「あの、化粧ってお前が自分でやったの……?」


 真琴は女子トイレで見られた自分のメイクを思い出す。



「え、ああ、うん、そうだよ」


 少し恥ずかしそうに真琴が答える。カエデが言う。



「良かったらさ、私にも教えてくれない? 自分でやったことあるけどあまり上手くいかなくって……」


 実はカエデ自身、化粧した真琴を見てそのあまりの可愛さに内心驚いていた。そしてちょっとだけ羨ましく思っていた。真琴が笑顔で言う。



「いいよ、いいよ!! 女の子は可愛くなる権利があるからね!」


「あ、ああ、そうだな……」


 真琴は今度カエデの家に行って化粧を一緒にする約束をした。






「ただいまー、マコ!!!」


 その日の遅く、バイトを終えて帰って来た龍之介が勢いよく真琴に言った。



「俺な、俺今日、『おさげの天使様』に会ったんだ!!!」


「あ、ああ、そうですか……」


 真琴は龍之介にバレていないかどうか内心どきどきである。龍之介が言う。



「なんかうちの常連の子と揉めていてちょっと助けた感じになったんだけど、初めて会話したぜ!!!」


「よ、良かったですね……」


 真琴は恐らく気付かれていないと安堵する。



「めっちゃ可愛かったな!! 可愛かった可愛かった!! 顔隠して逃げて行ったけど」


 龍之介はおさげの天使様を思い出し満面の笑みとなる。真琴が龍之介を見つめて言う。



「龍之介さん」



「ん? なに」


 真琴に見つめられ龍之介がきょとんとして答える。真琴が言う。



「ありがとうございます。お礼にご褒美あげますね」


「ご褒美? マコ、何のこと言ってんだ??」


 まったく意味が分からない龍之介。真琴が笑顔で言う。



「この間貰った遊園地のチケット、龍之介さんと行ってあげます」



「は?」


 龍之介の頭に真琴の誕生日に上げた遊園地のペアチケットが思い出される。龍之介が言う。



「いや、だってあれはお前、片思いの奴と行くんだろ??」


 真琴が龍之介の腕に手を回しリビングに歩きながら言う。



「いいの! 龍之介さんと行ってあげるから!!」


「お、おい、マコ……!?」


 真琴は笑顔になり、龍之介に絡めた腕をぎゅっと強く抱きしめた。

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