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98.招待状

 街の復興も一段落し、市内は歓迎式典のために普段とは違った活気で盛り上がっていた。各店舗でもよりよい製品を提供できるよう切磋琢磨し、孤児院の子供たち、しいてはクルスたちや3姉妹、そして魔王リゲルドまでが市内で手伝いをしている奇天烈な光景が街中で繰り広げられていた。魔王と言えど見かけ相応の中身のままであるらしく、嬉々として式典の準備に携わってくれた。そのおかげもあって市内の人々は魔族であるリゲルド、そして彼に付き従うデモンゴの存在にすぐに慣れてしまった。

 もっとも、巨大なハーピーが日常的に空を旋回しており、アンデッドが徘徊するような街の住人からすれば今更のようなものである。


 仕上げに彼らを導いた教団もアンデッドであり、君主にいたっては不死王ときている。



 魔物以上に逞しい彼らの学園祭のような盛り上がりを王城から見学し、その頂きで1つの巨大な国旗、緑を基調とした下地に青い羽根と死神の鎌が交差するように描かれた国旗がエールを送る様に青空の下で勢いよくハタめいていた。



「本当、どうなることやら…」







 ~魔王城~



「魔王様の不在、おまけにデモンゴまで職務を放棄しているとは…あやつめ、ただではすまさん!」



 魔王の世話役を押し付けたことも忘れ、配備を終えた魔王軍の力の行き場を失った現状に苛立ちを憶えていた。挙句の果てに魔王直々に「あらゆる戦闘行為は控えよ」と告げられ、本人の行方すら掴めない状態。


「くそ!このためにデモンゴを使ってやっているというのに!」


 ありったけの力で机に拳を叩きつけ、その勢いで机は原型をとどめない程ひしゃげてしまったがそれもデボンによって窓から放り投げられ、闇夜の中へと消え去ってしまった。それでも気が治まらず、魔王が神々しく座るはずであった王座を憎々し気に睨みつけるだけで時間が過ぎていった。





 ~カンジュラ~



「是非行きましょう!」

 

 招待状を受け、王女は早速隣国へ向けて出発の準備を始めていた。無論、式典の時期はまだ先の話であること、さらには相談役や騎士団長も招待状の内容に不安を覚えたこと、近頃珍しい流通品がその都市から出荷されているとはいえ知る限り延々と廃墟であった都市が急速に栄えたこと。

 それらの情報は臣下にとって王女を強く引き止めるには十分な理由であった。


「いけませぬ!招待状にも書かれております魔物どもによる罠に違いありません!あるいは悪戯という可能性も…」


「そうですぞ!ここは我ら騎士団を派遣し、まずは調査を…」


 矢継ぎ早に王女の意思が反対されるなか、睨むように全員を見据えたことで王座の間に沈黙が訪れる。


「だからこそ妾が行くのではないか!隣国とあらば互いの国の事を知らねばならぬし、そこへ下の者を送り込むなどもってのほか!!何よりも魔物が人間と共存し、国旗に蒼き羽根を掲げる国へ童が行かぬ理由がなかろう!」


 目を子供の様に輝かせる女王を前にそれ以上強く言える者はおらず、ひとまず彼女の当日の護衛強化に関して話し合う事となった。


「ふむ。そうとなれば土産も持参せねばなるまい…むふふふ、面白そうな臭いがプンプンしよる!」





 ~某国~


「…一体この招待状は何なのだ?」


「魔物と人間が共存する国…ふん、馬鹿げている」


 招待状は持っていた者の手の平の上で突然燃え出し、消し炭は儚く宙を舞っていた。その様子をしばらく見ていたが、再び眉間にしわをよせて話を続ける。


「しかし野放しにするわけにもいくまい」


「ご安心を、すでに密偵を放っております。情報を入手次第すぐにでも報告致します」


「我が国の脅威となりうる場合、最速で手を打つ。良いな?」


「はっ!」





 ~古都ファムォーラ~



「いつも賑やかだけど、ここ最近はとくに賑やかよね」


「本当ね」


「リゲルドだっけ?魔王って聞いてたからちょっと身構えちゃったけど随分とみんなと仲良くなったわね」


「ホントね」


「…機嫌悪い?」



 そんなことはない、とかぶりを振るが近頃は全く持って不愉快な毎日の連続であった。招待状が出されて以来、不穏な影が街の外をウロウロしているのを部下の目を通して確認しており、その度に捕獲してアンデッド化の作業に精を出さねばならない。警備業務は全てリロおよび彼女が率いるリッチの部下によって行われており、最初こそ素体が集まると喜んでいたが性懲りもなく悪意を持ってうろつかれるといい加減目障りになる。


 アンデッドの警備態勢に抜かりがないことに感心しつつも、今日もどことも分からぬ国の偵察隊を捕縛する1日が人知れず始まっている。



「……死人を尋問してソイツの派遣元を滅ぼしに行ったろうかな…」


「…どうかした?大丈夫?」


「へっ?あ、うん、大丈夫。あははははははは」


 頭を掻きながら必死に誤魔化そうとするが、何が彼を不機嫌にしているのか理解できずにとりあえずリッチに身を寄せ、肩を並べて街の様子を静かに見守っていた。

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