97.祭りの準備
「リッチ様!招待状を送り終え……お取込み中でしたか?」
興奮のあまり応接室の扉を勢いよく開き、そして室内を確認すると同時に我に返る。
客人と思しき旅人6名、目玉だけの魔物、難民を導いた司祭グレン、そして君主の妻。幹部会議のような早々たるメンバーに萎縮し、退出しようとするハノワを構わずリッチが招き入れて報告の続きをするように促す。気まずさを感じながらも恐る恐る入室し、気を紛らわせるために咳払いを1つするとゆっくりと口を開く。
「も、申し訳ありません。以前お話させて頂いた外部の方々を誘致する件ですが、各国のギルドマスターのツテや個人的なコネ、知り合いを駆使してうまく招待状を送ることができました。予定としては1カ月後に歓迎式典を行い、我が国を大陸中に周知させるとともに交易を増やす算段です」
「あれ、外部の受け入れだけじゃなかったの?随分大がかりだね」
「最も効率的な宣伝ですので。式典の準備は全て私が指揮しますので心配には及びません。あとは…式典の場所なのですが」
「何度も言うけど城の改築はダメだからな?」
雰囲気重視だ!指摘される度に返していた答え。アンデッドが跋扈する街、そしてその王城にはアンデッドの王が控えている…ホラー色を醸し出しているところをモダンな王城に戻そうなどとんでもない。
廃墟は廃墟のままに、難民が移り住むにあたって譲れない数少ない不死王からの脅迫めいた命令に近い要望であった。現に都市そのものは活気だっているが外観は当時のままであり、住むために内装をリフォームすることで民には妥協してもらっていた。それ以外は文字通り自由に繁栄してもらっており、必要あらばいくらでもアンデッドの手を貸してもらえ、常時国を防衛してもらってる立場のため文句を言う者も言える者もいなかった。
「…せめて演舞場だけでも」
「んー」
「貴方聞いてあげたら?あの広いだけの部屋のことでしょ?使ってないようなもんだし」
絞り出すように提案を打ち立てるハノワを可哀想に思ったのか、アウラがそれとなく彼の提案を聞き入れてあげてはどうかと進言すると女神でも見るかのようにハノワは彼女に熱い視線を送っていた。演舞場と呼んでいる空間は部屋の構造上、恐らく夜会やダンスパーティなどに当時は使われていたと思われるが今は未使用のアンデッドを貯蔵するための倉庫の1つとして稼働している。
アンデッド的には血も涙もないが、人情を忘れたわけではない。短い付き合いだが、ハノワの功績は目に見えて街を豊かにしており、彼の要望もできれば聞き届けてやりたいという思いもあった。部下を地下牢に移すしかないかと、妥協しながら彼の提案を受け入れることにする。
「了解。空けとくから好きに使っていいよ」
「ありがとうございます!!あと王城前の広場も立食式に致しますので宜しくお願いします」
生き生きと返事をするハノワに、頭を抱えながら溜息を吐く。外部の受け入れ以前にもっと大事なことがあるだろうと。
「あのさ。俺ら魔物なわけじゃん?人間が来て平常心でいられると思う?」
「問題ありません。我らの日常をご覧頂ければきっと他の方々もそれに呼応するでしょう」
それまで一言も話さなかったグレン司祭が突然割って入る。ハノワとリッチだけの会話であったかのように思えたため無言で話に聞き入っていた一同であったが、部外者と思われていた者が話し出したのをきっかけに水を得た魚のように次々と好き勝手に言葉が散りばめられた。
「人間ですか。私としてはまともに接触したことがありませんし、魔族との共存を考えるのであれば彼らの習性を勉強するにはいい機会かもしれませんね」
「街の案内は是非我が教団にお任せを」
「歓迎式典ってことは美味しい物食べれるってことでしょ!あたしも出たい!」
「えっと…僕たちも出来れば参加したいんですがいいでしょうか?」
「むしろしばらく置いてもらえないですか?今後私たちがどうするか考えなければいけないし…もちろんその間はお国の復興や式典を手伝うつもりです!」
「リッチ、私はそのシキテンの間どうしてればいいの?」
俺は聖徳太子じゃねぇ!!
と言いたかったが、不思議と全員の声ははっきりと1人1人聞き取ることができた。これもアンデッドの恩恵なのだろうか?今更知ることができた新たな特性に驚きながらも、全員の質問に冷静に答えていく。「好きにしろ!」と。




