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85.魔王謁見

「……暗っ」


 部屋に入った第一印象。アンデッドアイを持ってしても全く見えず、完全な闇に包まれたその部屋はしかし、大きな力が内包されているように感じられた。死後初めての感覚に戸惑いと好奇心を覚え、キョロキョロと光源と目当ての魔王を探していると不意に声をかけられる。


「デボンの言っていた強大な力とは貴様か…」


「……魔王、なのかな」


「魔王リゲルド、我が名の前にひれ伏すがいい」


 舐め回すようにまとわりつく黒い靄を鬱陶しそうに払いのけながらも、意志疎通が可能であることを確認する。魔王、というには女神がノリでプログラミングしたと聞いているため、複雑な心境で話しかける。


「ひれ伏さんし、興味もないね。ところで何で自分が魔王って分かるの?」


「……余が目覚めた時、デボンがそう言っていた。先代魔王の魔素によって生み出された新たな器と」


 新たに魔王軍に加わる候補者と聞いていたが、いざ合ってみれば産まれて初めての無礼な物言いに苛立つ前に困惑を覚えた。いままで出会った者どもは畏敬の念を込めて接してきたというのに、入室してきた宙を浮遊する男は年長者のように振る舞っている。


「で、その魔王は復活したら何をするんだい?」


「知れたこと、この世界を支配するのだ」



 自らに刃向う者は皆殺しにし、この世のすべてが暗黒に包まれた時に最大最悪の幸福を味わえると信じて疑わない魔王を尻目にリッチは続ける。




「支配した後はどうすんの」


「…その後?」


「結婚して子供残そうとか、戦争以外に何か生き甲斐ないの?支配し終わった後じゃ何も残らないよ?」


「……何も、残らない、のか?」



 破壊の権化、災厄をもたらす者。魔王とはそうあるべきであり、それ以上に大切なことなどない。少なくともつい先ほどまでは考えてもいなかったが、男の単純な質問に心の内側に疑念の波紋が広がる。自分がこれから何処へ向かっていくのか、魔王としての悲願を達成した後の世界はどうなるのか。疑問が疑問を呼び、やがて自らの存在に疑問を抱き始める。



「余は…どうすればいいのだ。魔王として復活し、世に混沌をもたらさねば、余の存在は…」


「女神が言うには魔王がいない時代の方が混沌としてたみたいだし今更だよ。それに魔王だから必ず破壊をもたらさなきゃいけないってわけじゃないでしょ?自分の立場よりも、これからどう生きたいかを考える必要があるんじゃないかな」


「どう、生きるか」


「手始めに人間襲うのはやめときな。魔王軍の脅威もこれで人間側に伝わるだろうから当分は人間同士の争いも収まるだろうし、これ以上侵攻を繰り返していると勇者に目をつけられるよ」


「勇者…先代魔王を滅ぼした存在…」


「まぁアレだ。相談相手が欲しいとか困ったことがあれば年長者として少しは相手してもいいし、その時は…デモンゴだっけ?あいつ派遣して呼んでくれ」




「……分かった。デボンにそう伝えよう」


「ほんじゃま、大いに悩んで人生を謳歌したまえよ!死後は永遠でも生は有限だからね!それと話し辛いからさっさと復活して受肉でも何でもしなさいな…ばいび~」



 気の抜けた別れの挨拶と共に瞬時にその場から消えた男のことを思う。見ただけで把握しうる強大な力を持ち、デボンは配下に加えると息巻いていたが当の魔王は出会った時にその力を取り込んでやろうと思っていた。しかしあまりにも想像していたアンデッドの頂点という物とはかけ離れており、陽気なアンデッドにペースを崩された挙句、人生の意味を問いただされるとは。



 糧にしろ配下にしろ、陣営に加えられなかったのは痛かったが、面白い話し相手が出来たことに内心喜んでいる自分に気付き、思わず苦笑する。


「どう生きたいか、か…」









「あー、緊張した」


 女神と2度も会っている身として今更ビビらんだろうと高を括っていると魔王の謁見は思い込みからか、予想外に心労に堪えた。


「立場のある人とあんま関わりたくないけど、そういうわけにもいかんだろうな」


 相変わらず巻き込まれる面倒事に頭を掻き、ふいに足元へと視線を落とす。

 転移先は魔王軍によって滅ぼされ、朽ちた都。戦場を見学している時点で部下を派遣し、魔王謁見後に速やかに転移を行った。デボンに戦地の位置を教えてもらっておいて正解であったと思いながら街の中を進んで回る。


 都市は魔境に近い物から順に破壊されており、滅びた街と言えど魔境と対抗するためだけの人材や訓練は行っていたはず。つまり強靭なアンデッドを迎え入れられるという不謹慎な考えをもってして都を訪れていた。



「おー、思ったよりも兵の死体残ってるな。甲冑着てたから食べづらかったのかな……んぅ?」



 アンデッド化作業に取り掛かろうとすると、身に覚えのある電波を受信する。


 この気配は……





<………我が主。聞こえますか?>




「…はいは~い、聞こえてるよ~。みんな元気してる?」



 懐かしのリロであった。クルスとクロナが元気にしているのか、活躍や冒険譚を是非聞きたかったがそこは腐って死んでもアンデッドの王。毅然と対応して威厳を示さなければと、己を律して冷静に彼女との通話を楽しむ。








 その後、会話の最後にリロから聞きなれない単語を聞き、しばらく廃墟の中で呆然と浮かぶ不死王の姿を確認することができた。


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