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61.成長、ハーピー版

 ぴーぴー


「はっはっは。さぁ私に捕まる前に私を捕まえてみるのだー」



 まだ飛ぶことは出来ないが、それでも覚束ない足取りでリロの宙に浮く生首を追いかけ、その後方から胴体がゆっくりとヒナたちの後を追いかけていた。


 ハーピーは鳥獣種。本来の生態を考えれば歩くことは不要ではあるのだが、適度の運動とどのような環境でも生き抜ける適応力を身に着けるために必要だと力説するリロに押され、一連の鬼ごっこトレーニングを一任した。


「トレーニングというよりリロが娘たちと戯れているようにしか見えないのだけれど」


「遊びの中にトレーニングを混ぜることは大事なことだよ?…ま、あれはほぼ戯れの割合の方が大きいだろうけど」


「そういえばクルスたちは?」


「子供たちのご飯を取りに行ってるよ」


「ふふふ。相変わらず張り切っているのね」



 まだ人語は話せなくともすでに乳離れはしており、今日もクルスたちは森の中へ狩りに出掛けていた。自分たちが3姉妹の兄、姉であり、両親のように立派な姿を見せたいと意気込んでいたのだが、当のロード夫妻はそのような姿を見せた覚えはないと、この手の話題が上がる度に不思議がっていた。

 3姉妹の名前はもう少しすればいいのが思いつくと、いまだ名無しであったがアウラは寝る間も惜しんで命名を自分のことのように悩んでいた。それだけハーピーにとって名とは大事なものらしい。

 


 念の為、リロに3姉妹について聞いてみたが「我が主と奥様のためならいくらでも死ねます」という見当違いな返答をもらっていた。



「ハーピーの雛ってどの位で飛べるようになるの?」


「話せるようになればそう遠くはないのだけど」


「会話スキルが先に来るの!?」


「飛べるまで無防備だから、鳴き声や歌声で外敵を追い払うのよ…低俗な魔物にしか効かないけど」



 大空に舞う姿が見れるのかと思っていたが、まず第一声が先に来るのは人間と同じらしい。そうなると最初に何と言うであろうか。3人もいれば色々だと思うのだがと感慨に耽っていると、とうとう胴体に捕まった3姉妹は腕に抱きかかえられ、リロの生首はすかさず3人に頬ずりをしている。


「今日のトレーニングはここまでだ!そろそろクルス様たちも帰ってくるだろう」



 やりきった表情を顔に張り付けるリロの直感は正しく、ほどなくして部下数名に補助されながら、竜のような魚を掲げて誇らしげに姿を現すクルスとクロナが駆け寄ってきた。調味料の類は一切なく、相変わらずの丸焼きオンリーではあるがリッチとリロ以外は美味しそうに咀嚼しており、どのように仕留めたのかという話から自然と3姉妹の第一声について話題が上がった。


「それは楽しみですね!」


「ちなみに私たちの第一声はどうでしたか?」


「クルスはママーって言ってたわね。クロナはパパだったかしら」


「2人の自我が育つまでは互いにそう呼ぶようにしてたからな」


「あれはあれで良かったわよねー…気付いたら母上とかお母様って堅い呼び方されてたけど」



 そもそもクルスとクロナが何故敬語で会話をするのか。丁寧な言葉遣いは目上や敬う相手に使うものだと触り程度に教育をしたのだが、次の日から2人は両親に使うことに決めていた。目上でも親は別だと諭す不死王の説得も空しく、頑なに譲らない2人に諦めることになる。


「もう1回ママーって呼んでくれてもいいのよ?」


「や、やめてください恥ずかしいっ」


「クルスお兄様の顔、赤いですよ?」


「クロナ!!」



 一行はいつものように笑いの絶えない会話を繰り広げていただけだが、その団欒の様子を意味深に眺めている3姉妹の姿があったことに誰も気付いていなかった。









 いつも通りの朝を迎える。


 クロナたちはリロとの稽古を中断し、日課となりつつある家族全員の散歩を開始する。山の周りを歩くだけではあるが、トテトテ歩く3姉妹の姿に皆心を奪われるのであった。なお、リロはその姿を間近で眺めるために頭部を地面すれすれに浮かせて目をギラつかせている。



 もう少しで山周り1週は終わる。そうなれば稽古は再開され、3姉妹はアウラと共に住処に戻ることになる。



 しかしこの日はいつもと様子が違った。



 最初に気付いたのはリロであった。いつもはぴーぴー鳴きながら歩くのに対し、今日は一言も発しようとしない。不審に思っていると他の面々もその事実に気付き、体調でも悪いのかと心配するがリッチのアンデッドアイには不調の様子は窺えなかった。


 全員がヤキモキするなか、1週歩き終えた一行を前に3姉妹は振り向く。サイズの小ささから仰け反るように皆を見上げる中、口をパクパクさせながら難しそうな顔をしている。



「っく」


「……く?」


 怒った時はぶーぶー鳴くが、「く」は初めて聞く音であった。不思議に思いながら3姉妹を眺めていると「く」に続いて言葉を繋げようとする。


「くぅ、くくく」


「くぅるー」


「くるくるくる」


 この場にいる1人の霊体は、娘たちがバグったのではないかと本気で心配し出すが次の言葉でその不安も拭い去られた。



「くぅるす!」



 満足そうに1人が言い切ると続いて、残る2人も口々にクルスの名を口にする。


「「くるすくるすくるすくるすくるすくるすクルス!」」



 第一声の名誉をクルスに盗られたと無念そうにしているリロをよそに、3姉妹はクルスに群がる。


「……もしかしてクルスが父親だと思われてるんかね?」


「こんなに懐かれるようなことはした覚えはないのですが…」


「お兄様羨ましいです」


「あらあら」


 微笑ましくその光景を眺めていると、3姉妹はリッチとアウラに向かってくる。


「「「ぱーぱ。ままー」」」


 その言葉を皮切りに全員の名前を呼びながらヨチヨチと、それぞれの元へと3姉妹は歩いて行き、リロの名が出た際に呼ばれた本人は号泣していた。





 ほどなくして彼女らはアウラが宣言した通り空を飛べるようになり、それから愛情表現の一種として獲物を仕留めるかのように相手の胸元に飛び込んでくるようになるのだが、それはまだ先の話。

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