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35.最速クリア

「な、な、な」


<うん?>



 目の前の醜悪の塊がティアラの声を聞き取ろうとお構いなしに顔を近づけるが、ついに吹っ切れたティアラは声を荒げる。


「何故アンデッドがここにいるんだ!洞窟から出ないというのが約束だろう!!」


<え、そこ?>


「大体なー!」


 その後は生命の冒涜だの、約束が違うだの、先程の弱弱しさがどこへ行ったのかという剣幕で怒鳴られる。流石のアミルも呆然としているしかなかったが、やがて息切れしたティアラによってひとまず戦闘に終止符が打たれたことを実感する。


「えっとさ、助かったのは素直に感謝するけどさ。それは何?」


<今手掛けてる秘密兵器。まだ途中だったんだけど、大軍をゴリアテが発見した時点で地下を掘って急行させたんだよ>


「そ、それでも、やく、約束が」


 息も絶え絶えに巨人を睨みながら問い詰めてくる。洞窟に拘束されていた時の強情さといい、なかなか面白い女性と巡り合えたことに感謝しつつ青い鳥は反撃の狼煙を上げる。


<そもそも屁理屈こねて、役割ぶん投げたのは誰だったかな?王女たちほっておいて責められるのは心外だな>


「うっ」



 今回の仕事で重要な項目の1つは王女たちの安全。それを放り投げて説教されても説得力はない。



「…すまなかった」


<急に謝られても困るんだけど>


「いや、前もそうであったがお前は私たちを見逃してくれた。今回に至っては一国を助け、私たちの命も守ってくれた。仕事を放ったくせに役にも立てずに講釈を垂れるのもお門違いだ」



 傍目から見ても落ち込んでいる彼女の肩に、手を置くかどうか悩んでいるアミルに痺れを切らして口火を切る。


<お前さんが来なかったらアミルは死んでたよ>


「下手な嘘をつくな」


<本当だよ。あのオッサンが武器振り下ろそうとした時はまだ到着していなかったからね。最悪ゴリアテで目に特攻でもかけてやろうかと思ったけど、多分あの調子だと効かなかったろうし>


 事実だ。特攻しかけた所で薙ぎ払われて終わりだったろう。物理的に救ったのは[巨人]であっても、その状況を作り出せたのはティアラとここまで諦めることなく踏ん張りを転生者たるアミルと魔女っ娘2人の力があってこそであった。

 恥じることは何もない。


「…そうか」


 その一言を吐き出すように言うと安堵の表情を浮かべる。

 やっと決心のついたアミルは彼女の肩に手を置き、それを合図に2人は互いに熱い視線を交わす。


<ちょいとお二人さん、まだ話は終わってないよ>


 胸ポケットのゴライアスの声に2人は我に返り、真っ赤に顔を染めて互いに明後日の方向を向く。


<ムードぶち壊す気ないけどまだ宰相残ってるでしょ?それに馬車追いかけないと>


「馬車って、うわっ!!」


 突如巨人の片手に2人は捕まれ、もう片方の手はいまだに魔力切れを起こして眠り続けている双子をすくい上げる。その2人が起きるのではないかというほど大声をアミルたちは上げるが、そのまま4人は巨人の背に乗せられると犬のように這って移動を始めた。

 凄まじい速度に身体が一瞬仰け反るが、背後をしっかりと支えられることで飛ばされずに済む。アミルはティアラが、ティアラはアミルが、それぞれ支えてくれたのだと感謝を述べようとするが背後を見た瞬間に表情が凍る。



「えっと、ありがとう」


<いいってことよ>


 嬉しそうに返答されるも、彼らは覆い重なっているアンデッドの肉体の上に座っている状態のため生きた心地がしなかった。そして先程彼らを支えたのは背中から突き出たアンデッドの腕であり、それらがシートベルトのようにしっかりと2人を支えていた。ミフネとミネアに至っては、荷物を捕縛するように各アンデッドの腕がしがみ付いている。

 ホラー以外の何物でもない光景に言葉を失うが、気を紛らわせるようにティアラが言葉を投げる。




「そ、それで宰相の件だがどうやって奴の嫌疑を証明するのだ?証人といえる男はお前に…食われてしまったぞ?」


「そ、それでも素直に話すような奴には見えなかったけどな」


 するとアンデッドの腕が背中から出現し、その手には羊皮紙が握られていた。


<書状。あの魔族のオッサンを宰相にするって内容が書いてあったよ>


「そんなものを渡していたのか?」


「……そういえばウラドはどうなったんだ?」


<生きてる間は二度と動けないようにしたけど…聞きたい?>



 その言葉に全力で首を振る2人。息の合った動きに顔が綻び、急ぎとはいえ先程彼らの邪魔をしてしまったことをふと思い出す。



<ほら、さっきのラブロマンスの続きをするなら今だよ?>


「「できるか!!」」












 2人は最後までイチャつくこともなく、拘束されながら森の中を素早く移動していく新たな感覚を味わっているとやがて速度がゆっくりと落とされていく。



<馬車の先回りもできたし、この辺でそろそろ下ろすよ。コレを見られたら多分青い鳥の名が地に落ちる>


「…そうだな」


 万が一のことを考えかなり迂回したつもりではあったが、ゴリアテの視界から観察すると問題なく馬車に追いついてしまった。2日半の工程をほぼ1日足らずで到着した計算になる。

 森の中で完全に停止すると4人は抓まれるように地面へと降ろされ、巨人は用が済んだとばかりに振り返ることなく召喚された場所へと戻っていく。出現するために開けた巨大な穴を塞ぎにいく作業もまだ残っていた。



「何というか、一生できない体験をここ数日で経験しちまったな」


「う、うむ」


「と、とりあえず打ち合わせ通りに行くぞ!」


「<おう!>」




 その後、無事馬車と合流できた一行は驚きと感激によって馬車組に迎え入れられ、魔力切れから回復した双子が起きたところで壮絶な嘘八百物語を聞かされることになる。





「…で、その首謀者を不意打ちで倒して書状も奪ったと。それで例の大軍は離散、ティアラの使い…青い鳥の生涯で数度しか使えない転移能力を駆使して馬車に追いついたと」



「「<その通りだ!>」」



 王女たちは「そんな、私たちのために貴重な能力を使ってしまうなどと」って真摯に受け止めていたが、残り3人は書状を見せたことで何も問うことなく納得してくれる。即席で作り上げられたゴリアテの物語をつっかえながらも話し終え、特別審問されることなく合流という第一関門を突破できたことにアミルとティアラは安堵のため息を吐く。

 しかし彼らは休む暇もなく、視線を上げると悪巧みをするように笑顔を浮かべるボルトスと目が合う。



「で、これからどうすんだ?」


「…言う必要があるのか?」


「言葉で聞きてぇんだよ」


 馬車に揺られながらも、一同は目前に迫るカンジュラの門を前に笑みを浮かべていた。



「仕方ないな、一度しか言わないぞ?王城に乗り込んで宰相をブッ飛ばす!!」


「邪魔が入れば?」


「ブッ飛ばす!!」


「「よっしゃーーー!」」


 ミネアとボルトスの景気のいい雄たけびを聞き、全員の士気が高まったところで真っ直ぐに城門へと馬車は近づいて行く。

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