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33.希望と絶望の同居

 一体何が起こっている。



 そもそものはじまりは行軍の途中だというのに身体が動かし辛くなったことからだ。吾輩だけかと思っていたが、下等な魔物どもも動き辛そうにしていた。中には休憩を申し入れた腑抜けもいたが、瞬時に灰にしてやることで文句を言うやつはいなくなった。


 1匹や2匹どうということはない。

 こいつらはあくまでもただの贄にすぎん。





 魔王が死に、力ある者がこの世を支配できる今、巨人族のアホ共や知恵のない下等な魔族どもは群れを成して襲うだけの野蛮な方法しか取れなかった。

 しかし吾輩は能無し共とは違う。



 魔王の勢力と渡り合える種族はどこか?



[人間]だ。



 奴らは下等ではあるが知恵はある。だからこそ、この覇道の時代を虫ケラの如くしぶとく生きてきたのだ。

 さらに言えば人間の欲は我ら魔族をも凌ぎ、魔王と拮抗していたにも関わらず率先して我が種族に手を貸していた愚かな連中までいた。

 そうなれば話は簡単。


 能無しの魔族を従えるよりも、人間共を従えた方が手っ取り早い。


 そこで時節人間が繁栄している国々を監視してまわり、カンジュラの王の寿命がもう間もないと知った時はすぐさま宰相に接触した。やつの性根ならば監視している時に知っている。税金を着服し、奴隷をこっそり集めては死ぬまで痛めつけ、他にも数多くの悪行を人知れず行っていた。


 夜中に密会した際は恐怖に打ち震えていたが、吾輩の提案を聞くと徐々にその顔には醜悪な笑みが張り付き、言葉は交わさずとも奴は吾輩の計画に加担することになった。成功した暁に吾輩は宰相の地位を約束されたが、今はそれで問題ない。

 今は、な。




 その後の動きは迅速でなければならなかった。

 奴が王となるための手柄を立てるために急遽森に潜む下等なゴブリン共を服従させ、カンジュラへと向かう。負け戦を演じたところで吾輩は撤退し、奴は王となる。


 まだ3日分の距離があるため、休みなく進軍を続けさせてはいるが先程から感じる気怠さが鬱陶しい。






 それが一体何故こんなことになっているのだ。


 最初は先頭が火の海に包まれているのを後方から見た。

 瞬時にカス共が灰になり、それを見たカス共の中には逃げ出すものも出てきたため、隊列は大いに乱れた。


 吾輩の計画が漏れたのか?

 だとすれば恐らく宰相のミスによるものだろう。この騒動が収まる頃にはすぐにでも奴の首を刎ねてやる。



 第2波が来た。

 カス共に学習能力がないのか、我先にと火元に突撃すると同じく灰塵と化したがおかげで一つ有力な情報を得ることが出来た。


「敵は少人数だ」


 もしも大勢で対応しているならばすでにこの烏合の衆は滅んでいてもおかしくはなかった。つまり実力者を数名程度集めただけ。


 やられはしたが元々数を集めすぎていたのだ。計画のための調整には丁度良い。


 少しすると剣を携えた小僧が茂みから出てきた。あやつ1人でここまでやってのけたのか?いずれにしろ、始末しなければなるまい。



「奴を仕留めたものには極上の褒美をやろう!!」




「「「「ウォーーーーーーーーーーー!!!」」」」


 吾輩の指令を聞き、小僧に向かって武器を構えながら走るカス共の光景はなかなか圧巻であった。下等な魔物といえど、人間ごときに遅れをとるわけがない。











 戦いは始まった。

 数は計画通り半分近くまで減らせたがそれでも数はまだいる。双子に回復薬を飲ませているがもう[ファイアーウェーブ]を撃たせることは出来ない。

 俺が取りこぼした敵を順次撃退していってもらうしかない。


 勝負は、これからだ!





 それからの戦闘は血生臭く、次から次へと仕留められていくゴブリンやオークの緑色の血や体の部位で大地が満たされていく。

 斬撃だけでなく、強烈な風[エアハンマー]を受けて崩れ落ちる者、[ファイアボール]を顔に受け悶えながら絶命する者、まさに死屍累々といった光景が広がっていた。


 しかし[剣技]のチートスキルを付与されていようと所詮は人間、やがて体力も尽き始める。怪我は時節ゴライアスの魔法により軽減、あるいは治療されており、敵にかかった麻痺毒の効果もあって致命傷となる傷は負っていなかったが、それでも振るう剣は少しずつ重くなっていく。


 後衛の双子も徐々に打ち出せる魔法の間隔が遅くなってきている。


「最期まで諦めてたまるか」


 自らを奮い立たせ、それでも剣を振るい続けるがやがて攻撃は止まり、軍勢をかき分けて角を生やした男が前に出てくる。1人拍手をしつつ不敵な笑みを浮かべているものの、その目には怒りが宿っていた。


「なかなかやるな小僧…ここまでの活躍は素直に誉めてやろう。しかしこれ以上は計画に支障をきたす、悪いとも思わんがここで死んでもらう」


「…へっ、計画ね」


 それを最期の言葉と受け取った男は腰に差したメイスをゆっくり振り上げ、アミルの頭部に照準を定める。肩で息をし、剣で塞ごうとするが腕が上がらない。

 双子も必死に魔力を練ろうとするが、発動しても火の粉やそよ風が発生する程度。魔力切れを起こした2人はそのまま気絶してしまった。


「さらばだ勇敢な戦士よ。貴様のことはカンジュラを攻め込むまでは忘れないだろう」


 そしてメイスが振り下ろされる刹那、男の額には[矢]が生えていた。

 思わぬ一撃に反応できず数歩下がった後に倒れ伏したが、アミルにはその矢に見覚えがあった。幾度となく仲間を救った水晶の矢、エルフの民の誇りであると嬉しそうに語っていた美女が彼の眼前に立つ。



「…確か今回の仕事は[護衛]だったよな」


「そうだな」


「護衛の仕事そっちのけでこっちに来るなんてプロとして失格なんじゃないか?」


「王女の依頼だ。護衛よりもこちらの事態解決が最優先だと仰せつかった」


「そうか」


「…ああ」


「……ありがとうな」


 彼女は振り向くこともなく弓を敵に構えたままであった。しかし、滴が顔から流れていることでどのような顔をしているか容易に想像がつく。


「心配かけて悪かった。でもまだ終わってはいないぞ!」


「分かっている!」


 双子が気絶した分、自分が頑張らねば。改めて気持ちを引き締め、新たに参戦した強力な援軍と共に残りを制圧するつもりでいた。


「エルフの弓術か。恐ろしいものだよ」


 しかし、倒れたはずの男はゆっくりとその身を起こし、額に刺さった矢を意図も容易く引き抜く。思わず仰け反るアミルとティアラであったが、武器を下ろすことだけは決してしなかった。


「ぬか喜びさせてすまないな。しかしこれだけでは私は殺せんよ」


 再び弓を引き、男の心臓に向けて矢を放つ。

 男は避けることもせず、その矢を身体で受け止めるがものともしていない。


「な、なぜ効かない!?」


 矢を再び番える彼女の肩に、アミルが手を置いてそれを制止する。


「ほう。エルフよりも人間の方が賢明だな」


 口元を歪める男に対し、睨みつけるティアラ。しかし相手は急所への一撃に一切怯まない男、手の出しようもない。



「冥途の土産にいいことを教えてやろう。未来のカンジュラの支配者にしていずれは魔王となる男だ、心して聞くといい。吾輩はウラド・シュームリ。吸血鬼の真祖にして、かつての魔王の第3部隊を率いた者だ」

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