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31.分岐点

「宿ではお楽しみでしたね」


「だから違うと言っているだろ!!」


 街を出発してから馬車に揺られてすでに2日目、いまだにこの会話が続いている。絡む度にティアラとアミルが真っ赤になることに喜びを覚え、一生ネタにされるんだろうという予感とともにゴライアスは心の中で苦笑。




 ちなみに彼女らの言う通り、あの夜はやましいことは何一つしていなかった。

 お互いの気持ちを伝え合うラブロマンスっぷりには辟易することはあったが、気持ちとしてはお見合いを成功させたお節介おばちゃんな気分だった。何故知ってるかと言えば…泊まった宿屋もそれなりに年季が入っていたために穴はそこら中に空いており、ゴライアスは生前の本能に従って穴を潜ってしまったわけで……その生態を利用して結果的に覗き行為へと繋がった。あそこまでお膳立てをしたうえで、2人の恋の行方を気にならないわけがない。


 いずれにせよ、2人の仲も馬車の移動も良好。天気にも恵まれ、とてもいい日であった。しいていえば色が白と黒でしか世界が見れないことが辛く、これは実験で何とかできる問題なのだろうか。





「…様子がおかしい」


 先程までいじられていたとは思えない程真剣な顔つきになるティアラ。


「何がおかしいの?平和でいいじゃない」


「ティアラの言う通りだ。やっぱりおかしい」


「おいおい、何がおかしいってんだアミル?分かるように言えっての」


「ゴリアテにもっと遠くまで調べさせてくれ。森の中だ」


<了解>


「「おい!」」


 この2人もどこぞのエルフやリーダーと同じほど仲が良い。正直アンデッド的にも一体何がおかしいのか理解していなかったが、ティアラとアミルを交互に見れば周囲を警戒していてとても話しかけられる状態ではない。その様子を見かねたミフネが仕方なく、といった風に答える。


「……敵も…生き物の気配も…ない」




 言われてみればゲシュタッルトに向かう道中は魔物に襲われることはあっても遠くで鳥が囀ったり、たまに鹿やウサギを見かけたりもした。中には様子を窺いはしてもすぐ逃げ出すゴブリンもいた。

 しかし今は風の音以外何も聞こえない。


「…何かいると思うの?」


「昔のアンデッドの行進の時もこうだった」


 ジロリとティアラとアミルがゴライアスに視線を向けてくる。確かに右も左も分からないアンデッド初心者の頃は行進し、周囲の生命を片っ端から絶つこともあったが本件に関して言えば全くの無実であった。

 どのように弁明するか悩んでいたところで、ゴリアテの視界に砂塵が映る。


<北北西の方向に砂塵が上がってる。何かが移動してるみたい>


「もっと近づけるか?」


<…魔物の大軍だな>



 コポルト、ゴブリン、オーガ、二足歩行している魔物が一丸となって行進している。元アンデッドの行軍リーダーとして羨ましい光景でもあったが、問題は奴らの進行方向がカンジュラであることであった。その旨を伝えるとセシルの顔が見る見る青くなり、今にも倒れそうであった彼女をフェリペが慌てて支える。


「な、何が起ころうというの?魔族は私が留守の間にとうとうカンジュラを攻め落とそうと…まさか父の死が漏れたのでは!?」


「いずれにせよ、このタイミングで攻め込んでくるのはおかしい。そもそも他種族の魔物同士で組もうなぞ、それこそ」


「…魔王軍の再来、か?」


 ボルトスが最後の言葉を言い切る。まさか魔王が復活したのか?しかし勇者の誕生の話はまだ聞いていない。馬車の中で混乱が起きるが、ミフネにせがむように情報を求めるとゴライアスの鼻先を撫でながらいつも通りの口調でゆっくりと語る。勇者と魔王は何の因果か、同時期に誕生するものであると。つまり同じ年に生まれた者同士が殺し合いをしたという狂気の沙汰にしか思えないシステムであったが、すぐにその説を否定する。

 準悪役として生まれ変わったアンデッドには、もっと合理的な答えが導きだされていた。。


<宰相だな>


「「え?」」


 アミルとティアラが反応する。

 他のメンバーもその声に振り返り、ゴライアスを注視する。


「あの…宰相が魔物を率いていると?」


<宰相が手柄を立てれば王になれると言わなかったか?>


「…八百長」


 この世界にも八百長という言葉が存在したことに驚きつつ、ぼそりとつぶやくミネアに力強く頷く。


「しかしそれでは自国を滅ぼすだけではないのか?」


<そのために魔族と契約したとしたら?>


「…魔族が国に攻め入って宰相が撃退させる。宰相が王になり、魔族との繋がりを作る。そういうことですわね?」



 セシルが唇を噛み締めながら吐き出すが、むしろそれ以外の予想は思いつかなかった。。何よりもゴライアスの視界に映る、一番後ろに唯一人のような外見をした邪悪そうな角を生やす者が巨大なトカゲに乗りながら腕を組んでいた姿に[魔族]という名称以外思い当たらない。

 生前に教本の挿絵でしか魔族を見たことがなかったが、念のためにその情報も各自に伝える。


「くそ、何とか奴らより先にカンジュラに着けないのか?」


<カンジュラは無理だが、馬車を急がせれば大軍の先頭には追いつくな>


「行こう!」


 アミルが即答し、他も力強く頷く。策があるようには見えないが、少なくとも今決断しなければ敵の大軍が先に目的地に着いてしまうだろう。馬車を急がせ、全員ただちに戦闘準備に入る。


「先回り出来たらミフネとミネアは俺について来い。ボルトスとティアラはそのまま馬車に乗って姫様たちの護衛だ」


「えっ?」


 聞き間違えたかと言わんばかりの反応であったが、彼女もすぐさま押し黙る。

 アミルの指示から察するに、アンデッドの大軍を焼き尽くしたコンボで魔物たちを足止めするという彼らの常套手段を今回も使用する予定なのだろう。そして足止めしている間、セシルたちを王国に送り届ける。そもそも今回の依頼はあくまでも[王女と王子の護衛]、優先順位は受注した時点ですでに決まっていた。


「ティアラ」


 彼女の肩にアミルが手をそっと置くとビクっと肩を震わす。


「…わかっている。彼女たちの保護が最優先だ」


「ごめん」


「謝らなくていい」


 ここからカンジュラまであと3日分の距離がある。どのようにやるかはともかく、セシルたちを国に届けている間に足止め役が死んでいる可能性は十分にあり得る。かといってボルトスだけで護衛させるのは心許ない。カンジュラでは何が待ち受けているか分からないからだ。


「大丈夫。きっと大丈夫だから」


 そう言って彼女の頬に手をあてるが、彼女の目からはとめどなく涙が流れる。


「…申し訳ございません。このようなことに巻き込んでしまって」


 セシルがばつが悪そうに謝罪するが、それを言ってしまえば青い鳥だとのたまったことでこのような状況を作り上げた元凶がいたわけであったが、本人は何を語るでもなく静かに2人を見守っていた。


<この者たちは我らの使者。死ぬことなどありえん>


 セシルとフェリペは流石に半信半疑といった顔をしていたが、ここまで来て今更引き返せないのだろう。深々と勇敢な冒険者たちとゴライアスに頭を下げる。


「僕からもお願いします。無責任な発言で申し訳ありませんが、青い鳥様も夢のねずみ様も信じております。きっと何とかなりますよ!」


 

(や、やめて、罪悪感がやばい。というかフェリペめっちゃピュアだな!)




「…ま、慎重派の私らでもやる時はやるんだから!いっちょやってやろう!!」


「おうさ!」


 こういう状況だと脳筋2人の存在がとてもありがたく感じる。








 そして無情にも、作戦の分岐点に一行は到着した。双子はさっさと馬車から降り、アミルが彼女らに続いて飛び降りようとした時に不意に肩を掴まれ、振り返るとティアラに唇を塞がれた。子供がするようなキスであったが、それでも長い時間、口同士を触れ合わせていた。


「……必ず生きて帰ってこいよ」


「…あぁ」


 微笑ましく2人の逢瀬を眺める中、かたやカンジュラへと出発し、かたや魔物の行軍の進行方向である茂みまで走って移動する。

今更ブックマークされていることに気付きました。

ブクマ下さった方々、ありがとうございます!

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