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18.旅のお供に

「うっ」


「アミル!無事だったか!」


 

 アミルが目覚めてからミフネに続き、残る2人が身体を起こしたところで男の提案を説明した。本当に信じてもらえるのか不安になったが、結局何も思い浮かばなかったがために提案通りの言葉を口にした。

 嘘が苦手な私の言葉に半信半疑といった風ではあったが、少なくとも私がパーティを救ったのだという事実は変わらなかったようで彼らに胴上げされる勢いで次々と感謝と賞賛を浴びた。悪魔との取引で助かりましたと口が裂けても言えず、彼らの言葉の1つ1つが私の罪悪感に突き刺さる。



 やがて落ち着いた彼らは私の両肩に止まっている新たな仲間に気付き、ミネアが指さしながら問うてきた。


「その子たちは?」


「え、あ、この子たちは、その」


「そいつら魔物じゃぁねぇだろうな?おめぇ、無条件に動物に嫌われてっし、エルフのくせに」


「そ、そんなこと!」


 必死に弁明しようとするが言葉が続かず、周りも可哀想なものを見るような目で彼女を見ながら頷いている。考えてみれば小動物の仲間入りの理由まで頭が回らず、しどろもどろになるティアラにボルトスが訝し気に眉を吊り上げながら詰め寄る。


「で、それはどうしたんだ?」


「うっ」


 とうとう俯き、どのような言い訳をするか必死に考えていたが何も思いつかない。気まずい沈黙が流れるなか、苦渋で顔を歪めるご主人様の肩から彼女の顔をつぶらな瞳で眺めていたねずみは静かにアミルたちに視線を向けると後ろ足で立ち上がった。


<こんにちわ>


 一瞬、いじめられた亀のように閉じこもっているティアラの肩から声が聞こえたような気がして一同は驚愕に満ちた視線でねずみを注目する。一番驚いていたのは当事者のティアラであったが、雰囲気にも構わずに小鳥とねずみが交互に言葉を続けた。


<我らは彼女の使い魔だ。不出来な主人が世話になっている>


「……使い魔…?」


「…使い魔って、彼女はエルフだぞ?」


<主人はエルフの里に選ばれし防人、とくに探索を里で担っていた。ゆえにごく限られた者しか知らない秘伝を受け継いだ。それが我らだ>


「……そんな話ティアラから聞いたことないんだけど?」


 流れるように聞かされる嘘に、ミネアがゆっくりと仲間を見回すが一同は首を横に振るばかり。再び視線を集めてしまい、次の嘘を小鳥が考えていると意識を取りも出したティアラが首を勢いよく振りながら取り乱すように言葉を発した。


「こ、これは、一族秘伝の術だったので皆に教えるわけにはいかなかったのだ!そう!」


「…ティアラ何かされた?こんな挙動不審なところ初めて見た」


<主人は話に聞いただけで詳しくは知らんのだ。その身に真の危険が迫った時のみ解放されるようにされている>


「危険って…もっと強そうな奴召喚出来なかったのかよ?」


<街中に熊でも連れ歩く気か?>


「…それも、そうか」


 その話にしばらく押し黙っていたがやがてミネアとボルトスは解決したかのように頷いくも、アミルとミフネは神妙な表情を変えることなく小鳥とねずみを交互に眺めていた。顎に手を当て、観察するように見ているとようやく口を開いた。


「その身に真の危険が迫った時のみ解放、ということが洞窟での出来事だよな?…彼女はもちろん、俺たちを助けてくれたことは感謝する。しかしその身体でどうやって、その…危険から守ってくれたんだ?」


<敵の目をつついてやった>


「あ、はい」


 怯んだ隙にティアラが獣の如く飛び掛かり、敵に斬りかかったのだと言うとミフネがティアラの前まで進み出てじっと小さな仲間たちを見ていた。いまだに難しい表情をしていたが、両の手の平を差し出したことで反射的にねずみたちはティアラの肩からミフネの手の平まで移動すると彼女は顔を近づけてくる。


「…冷たい…」


<使い魔だからな>


「…ちょっと硬い…」


<使い魔だからな>


「……何が出来るの?…」


<探索が主だが、防護魔法と回復魔法もそれなりに使える。あと麻痺毒もお手の物だな>


「…触ってもいい?…」


<主人の仲間ならば遠慮することはない>


 そして彼女は躊躇もなく、小鳥とねずみの小さな身体にグリグリと顔を押し付けて頬ずりをしてくる。やがて気が済んだのか、顔を小刻みに動かしたことでクシャクシャになった髪ごと顔を持ち上げるとアミルの顔を見上げる。


「…仲間として申し分……ない」


「いや、でも……しかし…う~ん」


「…アミルは私のことを信用していないのか?」


 アミルがいつまでも疑うような視線を解除しないことに俯きながら沈んだ声でティアラが呟くも、その言葉がはっきりと彼の耳に届いたようでアミルは慌てて手を振り回しながら弁明を始めた。


「ち、違うんだ!誰よりもティアラのことは信じてるよ!!ただほとんど弓しか使わないティアラが使い魔を使うってことにちょっと驚いただけで」


 自分が言ったこ言葉に気付いたのか、顔が赤くなっていくのを感じていると周囲のニヤついた笑顔がティアラをさらに俯かせる。そのため、表情は見ることができないが耳まで赤くなってることからどのような心境か容易に想像がついた。

 やがて場が鎮まるとミフネは思い出したようにティアラに質問を呟く。


「……名前…は?」


「ねずみはゴライアス!小鳥がゴリアテだ!!」


「「「「<えっ!?>」」」」


「え?」


 

 その問いに彼女はない胸を自信満々に張って答えるが、一斉に返ってきた一同の疑問符にティアラは不思議そうに仲間を見回していた。愛くるしい姿をした生物にごつい名前をつける神経を疑われつつ、言葉を失う一同を代表して恐る恐るミネアが言葉を発した。


「…正気?」


「何がだ?」


「…私は…好き」


 しかしミフネは満足したように小鳥の頭を撫で始め、つられて残ったねずみの頭をティアラが名前を呼びながら微笑ましそうに撫でる。ボルトスやミネアはそれでも納得がいかないようだったが、潤んだ瞳でティアラがアミルを見つめた時点で勝敗は決した。主人である彼女に名付ける権利があると顔を赤くしながらアミルは言い、あとの2人もそれで諦めがついたようであった。


 命名:ゴライアス / ゴリアテ



 こうして新たな名と仲間を得たアンデッドの魔術師の奇妙な冒険が始まるのであった。 


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