14.被害者の定義
5人組がこちらに向かってきている。しかしどこかで見たことあると何度も首を傾げるが、かつて己の同胞たちを焼き尽くした人間であったことを思い出す。カレンダーも疲れも知らないため、どれほど昔のことであったかは覚えていないが一瞬復讐の火が灯りそうになるのをすぐに静め、再び[映像]に注意を向ける。
最奥はゴロスタブ草によって守られているとはいえ、猛毒フィールドに侵入される前に姿を見られればその時点で身に危険が及ぶ可能性がある。あるいは多くの同胞たちが葬られたような強烈な攻撃魔法を洞窟の奥へ流し込まれれば、あっという間に火葬されてしまう。
身の安全をさらに強化するための課題としてアンデッド化の研究開発に勤しみ、多くの失敗を重ねながらもついに試作型アンデッド[ニンジャ]の制作に成功した。
度々アンデッドを復活させ続けることで徐々に動きがよくなっていき、今では一般人と相違ないレベルの動きが出来るようになっている。中でもニンジャはスピードや隠密に長けた特化型として開発され、脛から枝分かれするように追加で1本ずつそれぞれの足につけられた。結果的に木の上でも恐ろしいスピードで走れるようになったが、来るように命じると音もなく背後に立つため彼の存在に慣れるにはかなり時間がかかった。
そしてふとした拍子に全てのアンデッドの視界を共有することが出来ることに気付き、ニンジャに常時洞窟外を偵察させることで動き戦う監視カメラを設置することにも成功。いつものように木の上を移動させながら監視させている時、休憩している5人の人間が視界に入る。
視界だけでなく、要因は不明であるが周囲の音も拾うことができることで彼らの会話がはっきりと聞き取ることが出来る。進むか、進まないか、その2択で揺らいでいるらしく、結局3択目の[様子見]で決着はついた。話がつくと一行は再び歩き出し、彼らの頭上を影のようにニンジャは追っていく。
彼らの様子見とはつまり[正体]を見られるということ、そして前回の苦渋を考えれば今度こそ確実に始末される。かといって今更逃げるわけにもいかない……
「…いいぜ、歓迎しよう。ニンジャ以外のアンデッドのお披露目にもちょうどいい」
不敵な笑みを浮かべながらも、その背後には歪な姿の部下が命令を待つように佇んでいた。
「で、どうして毒の効き目が弱かったの?」
「……私はエルフだ、木と風の精霊の加護によってこの身は常に浄化されている」
「へぇ~」
大地に守られしエルフ、仲間にすら話していない事実を語ると男は感心したように私を見ていた。種族の特徴である長耳は人族の下卑た目を避けるために普段はフードで隠しているが、それでも奴らはいつだって私のことをジロジロと見てくる。アンデッドであろうと……男など全員っ!!
彼を敵意の目で見据えるが、相手はそれを意に変えさないように私の顔を覗き込む。
「エルフなんて初めて見たよ!道理で綺麗だと思った……」
私を見る男の視線にはどちらかといえば珍獣でも見るような、いや男に目はないがそういう反応をしている。似たような反応をしたのはアミルとボルトスたちに出会った時以来だ。双子の姉妹には……言わないでおこう。
昔の記憶に思いを馳せながら状況とは不相応に顔を染め、再び男は生気のない枯れた顔を近づけてくる。
「…で?」
「え?」
「いや、君の番だよ?」
互いに一問一答、当たり前のように約束を守った気さくな雰囲気を漂わせる魔物に一瞬呆気にとられたが、仲間と自分の危機をまだ脱したわけではない。気を引き締め、せめて状況を打破できるようにと質問の内容を慎重に選ぶ。
「…お前はここで何をしている」
「アンデッドの研究…かな?他にやることないんでね」
「……本当にアンデッドなのか?」
「…見てみる?」
そう言って男はローブを脱ぎ捨てるとその下は顔と同様に全身がミイラ化しており、どこからどう見てもアンデッドのそれであった。やがて男はローブを着なおすと再び私の方を見直す。
「俺の番、君らは俺を討伐しにきたのかな?」
直球の質問に心臓が鷲掴みにされる感覚を覚えたが、荒い呼吸を何とか整える。この男は刺激したくないが下手な嘘をつくのもまずい、仕方がないが正直に話すほかない。
「最近若い冒険者6名と中年の冒険者を1名、見かけなかったか」
「俺の質問の番だよ」
「…今言った6名の冒険者がこの一帯で依頼を受け、行方不明になった。一ヶ月も音信不通だったので襲われたとギルドで判断し、その捜索と……万が一襲撃にあっていた場合は襲撃者の討伐も依頼されている」
「ギルドって冒険者の捜索なんかするの?」
「そのうちの1名はかなりの実力者だったからな」
そう言うと男はニヤニヤ笑っていた。
何がおかしいんだ。
「それで……見たのか?」
「会ったよ」
「!!!」
「でも殺したよ」
その一言は私を絶望させるには十分であった。先程言った中年の男は新人6名を引率した教官であり、私が冒険者に成り立てだった頃は何かと絡んできたムカツク奴だったが確かな実力と人望はあった。
そして彼が目の前の男に殺されたという事は私たちも…
「君らを信用してないけど、まだ殺すと決めたわけじゃないよ?もう少し会話を楽しもうよ」
私の気も知らず、男は相変わらず笑っていたがこちらは悠長に会話をしているような余裕はない。
「俺の番、君はこれからどうしたい?」
「…ここのことは忘れる。ギルドにも死体は獣に食われていたと報告する。私たちは原因を討伐したので…みんなで……帰り…」
言い終わる前に大粒の涙がこぼれた。
みんなと帰る、死と隣り合わせの仕事であっても毎日顔を合わせていたいつもの光景が、今日を最後にもう二度と見れなくなる。泣いている場合ではないはずなのに、そう考えると涙が止まらなかった。
「…え、何でヒロインみたいに振る舞ってんの?俺が悪者みたいじゃん」
その一言に自分の立場も忘れ、我を忘れて思わず身を乗り出すと男は驚いたのか、数歩下がると私を掴んでいた姿すら見ていないアンデッドの締まりが強くなる。痛みは走ったが、それでも私は噛みつくことをやめなかった。
「お前は死体を弄んでる化物だ!!あのジジィは気に食わなかったが、それでも平和のためにも冒険者として尽力してきたんだ!何故お前は死んでいない!仲間に手を出してみろ!!精霊の御名に誓って八つ裂きにしてやる!!」
全て言い切ると息も絶え絶えになり、身体から力が抜けていくが言いたいことを全て言い放った。いつ殺されるか分からなかったが、それでも私には譲れないものがある。死を覚悟し、ゆっくりと重い頭を持ち上げるがそこには予想外のものが私を待っていた。
目の前に立つアンデッドの男は怒るどころか、殺意すら帯びずに静かに私を見つめていた。一体何を考えているのか、しばらく私を眺めているとやがてボソっと、聞こえるか聞こえないかという声量で呟いた。
「お前さん、死んだことあるか?」
「…死んだ、こと?」
「…俺は、もう死ぬのは嫌なんだよ……自分がアンデッドになっても死ぬ瞬間の恐怖だけはずっと忘れられなくてね。一緒にアンデッド化した兵士たち囲って隠れ家を探しに行ったんだけど…その時君たちと一度会っているよね?」
意地悪そうにこちらを視線を投げてくるが、視線を逸らすことが出来ない。あのアンデッドの集団、あの時逃げ出したのはこいつだったのか。しかし何故逃げたのかと考えていると、彼は洞窟をくるくると見回しながらあっさりと答えてくれた。
「君らが怖くてあの後何とか逃げ出した先にこの洞窟を見つけたんだ」
「…アンデッドでも死ぬのは怖いのか?」
「他は知らんが俺の意思ははっきりと残っているよ」
その後の話は何とも言えないものだった。
外に監視を置く前、私たちが捜索した冒険者たちは洞窟に入るとどんどん奥まで入っていく。このままでは殺されると思って先手を打った彼は、捕まえた彼らを説得して逃がそうとしたら背後から身体を真っ2つに切られた、と。彼を攻撃したことで彼の部下が冒険者を皆殺しにした、と。
「…真っ2つになったのに生きて…生きていたのか?」
「研究の成果かね」
その問いに男は寂しそうに笑っていたが、アンデッドとは思えない人間臭さを垣間見た気がした。
「俺を斬った奴はギルドに報告してここを潰すって言ってけどさ、さっきの質問、ちゃんと答えてくれてないよね。きみは-----どうしたい?」




