13.禅問答
暗闇の中、ふと目が覚める。
身体が動かない…確か洞窟に入って…
あの化物が複数現れて、アミルが囮になってくれている間に外のみんなに警告して…
意識がゆっくりと戻る。
そうだ、あのあと首に衝撃がきて…
首が痛むのを感じるが身体が動かないため、周囲を見回すのも億劫である。しかし明らかに硬い物に身体が預けられており、少なくともうつ伏せで地面に倒されていることだけはわかる。
「目が覚めたのか?」
唐突に横から男の声が聞こえる、が敵意は全く感じない。目線だけでもと声を追っていくとアミルの剣が視界の端に入り、思わず目を見開き声を上げようとするがうまく声が出せない。
「安心しな。軽毒で動かなくなってるだけだから」
「な、なか、、ゥまわ、あ、あが」
「うぇ、もう喋れるんか。前に来た奴は最後まで意識なかったのにな」
しかし最後の一言には明らかな悪意を感じた。このままでは…思い描きたくない自らの最期を考えないようにしながら今は横にいるであろう男と何とか舌が回らないなか会話を試みようとする。
「な、かかまわ、ど、、ど」
「ん?一緒にいた他の人達のこと?そこらに転がってるよ」
「し、ししししししんん」
「大丈夫だよ、まだ生きてるから」
その言葉に少し安堵する。まだ、という単語が不穏ではあったが彼らが生きているならば互いに助かる見込みがある。痺れた身体によってうまく笑みを作れないが、彼女の顔を覗き込むように男は顔を寄せてくるがまだ彼を見えるまでに目は慣れていない。
「もしかして[ここのことは誰にも言わないから逃がしてくれ]って言うんじゃないだろうね?[欲しい物は何でもやるから]ってさ」
ビクっと身体が震える。逃がす気は全くない、それでもなんとか活路を見出さなければとぎこちないながらも首を上げようとする。少しずつだが喉の調子もよくなってきたように感じる。
「あ、あなたわ、だ、だだ」
「誰かって?ここに住んでる者だよ。もっとも君らからすりゃただの化物だろうけど」
「…お、お邪魔、をお、してごごっめんな、なさささい」
「別に構わないよ、俺の洞窟ってわけじゃないし入ったことを咎めるつもりはもない」
化物?魔物……いや、知能から察するに魔族だろうか。少なくとも会話が通じる相手であることに一筋の光を活路として見出すが、ではなぜ毒を盛って彼女たちの身動きを取れなくしているのか。答えの見つからない疑問に頭を埋めていると突然両肩を強く握られ、一瞬の痛みに顔を歪めるが抵抗することもなく宙に軽々と身体を持ち上げられる。
「おいおい、乱暴にするなと言ったろブッチ?持ち上げるだけだってば」
後ろの奴はブッチと呼ばれているらしく、続けてさらに両足と腰まで掴まれる。
(…え?手が6つ???)
突然の混乱に頭が追いつかないが、持ち上げられたことで周囲がよく見えるようになった。彼女の横にはアミルがうつ伏せで倒れており、前方にはミフネ、ミネアそしてボルトスの3人が壁にもたれかかるように座っている。肩が上下に動いており、皆が生きていることに小さく息を吐く。
「君、毒への耐性強いみたいだけど人族ではないよね」
先程まで話していた男がティアラの前に立つ。服装はところどころ黒い染みができ、紫のローブを頭から羽織っていた。しかしその中から覗かれる顔には目がなく、表面はまるで古い木のように枯れている。
ーーアンデッド
かつて討伐した集団がいたが、その生き残りだろうか。ふと群衆から横に逃げ出した1体のアンデッドの事を思い起こし、当時の復讐を果たそうとしているのかと恐怖するがそれ以上に驚く出来事があった。
「アンデッド、が、しゃ、喋った…の、か?」
「……やっぱ変だと思う?俺も変だと思うよ」
目撃例が少なくとも冒険者ギルドのデータベースにはしっかりと登録されており、僅かな情報ではあるがアンデッドに知性は存在せずに緩慢な魔物とされていた。しかし目の前の男はまいったなぁ、というような仕草をしており、その落ち窪んだ眼窩には確かな知性が宿っているように思えた。
いや、あるいは……
「あ、その表情前にも見たことある。俺が実は操られているアンデッドで、近くに操ってる奴がいるって思ってるんだろ?残念でした……ところで俺の質問に答えてもらってないんだけど」
男は愉快そうに笑う。前にも…ということはティアラと同じ状況に陥った者がいたということ、その者の未来は一体どうなったのだろうか。不安に胸が押し潰されそうになりながらも、男にどう答えるか考えあぐねていると男は痺れを切らしたかのように提案してきた。
「じゃぁこうしようか、俺が質問して君は正直に答える。君が質問して俺は正直に答える。言っとくけどこれでも生前は正直者なことだけが取り柄だったんだよ?…それで馬鹿ばっか見てたけどね」
溜息をつくような仕草も人間臭い。人間性を失っていないことに驚きながらそれならばやはりまだチャンスはある、それに彼女には答えないという選択肢はもはやない。生唾を呑み込み、毒が抜けてきたのを感じるとキリっと男を睨みつける。
「構わない」
「お、いいねいいね。ノッテくれると助かるよ。じゃぁ・・・始めようか」
男が笑うと目のない落ち窪んだ眼窩が赤く光り、それが冒険者たちにもはや逃げ場がないことを告げていた。




