↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/11

外伝:ホワイトになった世界に、俺の『覚醒(カフェイン)』は必要なのだろうか?

しりとり軍との決戦から、数ヶ月。

我が「社畜(シャチク)」の街は、隣村の「ホワイト組合」との合併を経て、新国家『ホワイト・ヘブン』へと生まれ変われていた。


かつてのゾンビのような労働環境は完全に過去のものだ。

「完全週休二日制」「残業完全ゼロ」「充実の有給休暇」「美味しい社食(無料)」――。

街を行き交う人々は、誰もが健やかな笑みを浮かべ、穏やかな日々を謳歌している。


そんな平和な世界の中で……俺――カフェインは、一人、執務室の窓の外を眺めながら、深い葛藤に陥っていた。


(……俺の力は、もう、この街には必要ないんじゃないだろうか)


俺の固有スキルは『脳内覚醒(ウェイクアップ・カフェイン)』。徹夜のデスクワークや、限界を超えたデスマーチの時にこそ輝く、いわば「過酷な環境の特効薬」だ。

だが、今のこの街には、無理な残業も、徹夜のタスクも存在しない。


人々は夜になれば自然に眠り、朝になればスッキリと目覚める。

義妹ビタミンの『完全栄養回復』は、日々の健康維持として今も大人気だが、俺の「無理やり脳を覚醒させる力」は、むしろホワイトなこの街の調和を乱すだけなのではないか……。


「しりとり国を追放された俺を、ここまで受け入れてくれた街だけど……。役目を終えた俺は、そろそろ旅立つべきなのかもしれないな」


ぽつりと溢した独り言。

その時、執務室の扉が、凄まじい勢いでバァン!!と押し開けられた。


「お兄ちゃん!! 今、旅立つって言ったの!? どこに行くの!? 私を置いていくなんて絶対に許さないんだから!!」


涙目で突入してきたのは、義妹のビタミンだった。後ろには、ソウム総務部長とシャチョウ、さらにはホワイト組合の代表までもが、血相を変えて控えている。


「あ、いや、みんな……。だって、この街はもう完全にホワイト化されただろ? 残業も徹夜もないこの天国に、俺の『カフェイン』のスキルなんて、ただの劇薬でしかないと思ってさ……」


俺がバツの悪そうに目を逸らすと、シャチョウが美しい眉をひそめて、俺の肩を強く掴んだ。


「何をお馬鹿なことを言っているの、カフェインくん。あなたがいない『ホワイト』なんて、ただの気の抜けた炭酸水(出がらし)よ」


「え……?」


ソウム部長も、熱い眼差しで一歩前に出る。

「カフェインくん、あなたは勘違いをしています。労働時間が短くなれば、人間はそれだけで幸せになれると思いますか? 違います! 休みが増えたからこそ、人間は『自分のやりたいこと』に全力で熱中したくなるんです!」


ホワイト組合の代表が、深く頷きながら書類を差し出した。

「その通りです、カフェイン殿。データを見てください。我が組合の調査によると、労働環境がホワイトになった結果、住民たちは休日や定時後に、趣味、創作、スポーツ、勉強といった『自分のための挑戦』を始めています。そして――」


代表は、熱を帯びた声で続けた。


「義務の仕事(ブラック)が終わった後に、自分の好きなこと(ホワイト)に全力で熱中するためには……義務の時以上に、爆発的な『やる気』と、冴え渡る『集中力』が必要不可欠なのです!」


「自分のための、挑戦……」


俺が呆然とする中、ビタミンが俺のぎゅっと手を握りしめ、満面の笑みを浮かべた。


「そうだよ、お兄ちゃん! 体の健康を守るのが私の【ビタミン】なら、心が前を向くためのエネルギー(活力)をくれるのが、お兄ちゃんの【カフェイン】だよ!

本当のホワイト(理想郷)っていうのはね、ただ楽をする場所じゃないの。『溢れる健康』と『最高のやる気』で、誰もが自分の人生を100%楽しめる世界のことなんだよ!」


ドクン……!


みんなの言葉が、俺の胸の奥に深く突き刺さる。

脳内に、前世の記憶の一片が鮮やかに蘇った。

地球の人間たちだって、ブラック企業に耐えるためだけに缶コーヒーやエナジードリンクを飲んでいたわけじゃない。

休みの日のドライブ、大好きなゲーム、一世一代の勉強、大切な人との語らいの夜――そんな「人生を輝かせる瞬間」にこそ、みんなカフェインを愛飲していたのだ。


「そうか……俺の力は、暗闇を耐え忍ぶためだけのものじゃない。輝く未来にブーストをかけるためにこそ、あったんだな」


俺の心から、霧のような葛藤が一瞬で消し飛んだ。


「みんな、ありがとう。俺の居場所は、やっぱりここだ。……よし、新しいタスクを始めよう!」


俺は不敵に笑うと、街の中心へ向かって、これまでで最も澄んだ、最高出力の魔力を解き放った。


「スキル――【超・新星覚醒(ホワイト・エナジー・ブースト)】!!」


漆黒ではなく、朝日のような黄金のオーラが街全体を包み込む。

その瞬間、休日を楽しんでいた住民たちの目が、濁りのない輝きでカッと見開かれた。


「おおおお! 読書がめちゃくちゃ捗るぞ! ずっと描きたかった絵を今日中に完成させられそうだ!」

「資格の勉強の集中力が限界突破した! 自分の未来のために、今夜はちょっとだけ夜更かしだ!」

「身体はビタミン様のおかげで絶好調、頭はカフェイン様のおかげで超スッキリ! 人生最高ォォォォッ!!」


街中から、義務ではない、心からの歓喜の声が爆発するように沸き上がった。


それを見届け、俺は隣のビタミンとガシッと固い握手を交わす。

これこそが、俺たちの目指した本当の最強サプリメント王国だ。


「お兄ちゃん、やっぱり世界一かっこいい!」

「これからもよろしくな、ビタミン」


隣でソウム部長とシャチョウが「ちょっと、私たちとのアフター(定時後)の予定も忘れないでよ!?」と詰め寄ってくるのはご愛嬌。

『ン』の付く追放者たちが作った新しい世界は、今日も最高のやる気と健康で、どこまでも眩しく輝き続けるのだった。


(外伝・完)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。