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騎士「強すぎてゴメンね!」王女「でもあなた女性恐怖症ですよね?」  作者: ルーシャオ


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第一話 ハルトーク、大規模討伐参加中

 どこまでも続く平原を、埋め尽くすような魔物の群れ。


 それに対峙するために、世界各地から数多の傭兵から騎士まで集まる。魔物の討伐自体に報奨金が出るだけでなく、魔物から取れる素材は高値が付く。人助けができて金も稼げる——そのためなら命を張れるような勇者たちが、この場だけでざっと二千人ほどいた。


 そんな彼らが揃う最前線のキャンプ地の目抜き通りを抜けていく、一人の騎士がいた。


 一応は背が高く、何度も修理した跡の見える白銀の不思議な光を放つ鎧を着て、腰には左右に二本、背中には三本もの剣を抱えている。ただ運ぶためではなく、革のベルトで体にしっかりと固定させ、戦闘中に鞘から抜き取ることを考えての装備の仕方だ。剣はそれぞれ長さも意匠も異なり、美術品のような装飾を施された黒剣もあれば、持ち手以外に手のひらほどの鉄片が隙間なくびっしりとくっついた長剣もある。


 魔物の体液避けの防皮がついた兜から覗く顔は、少し童顔の青年だ。赤毛は少し伸びてきていて、そろそろ切らなくてはならない。


 彼は特別体が大きいこともなく、筋骨隆々というわけでもない。体格はしっかりしているが、騎士という職業柄標準と言える。


 しかし、鎧兜も五本の剣も重さを感じていないかのように軽快に歩く。まるで前線へ行くのではなく子供が遊びに出かけるかのようだ。


 赤毛の青年、リーベル・ハルトークは、どこかからか声をかけられた。


「ハルトーク、今から出るのか?」


 ハルトークが足を止め、声のしたほうへ振り向くと、歴戦の傭兵たちが一団をなしてやってきていた。皆、ハルトークよりよほど大柄で、使い慣れた武器と年季を感じる鎧や胸当てをしている。


 声をかけてきたのは、一団の長らしき中年のひげを蓄えた男性だった。右手には双刃の斧を下げている。


 ハルトークは正直——誰だろうこの人——と思ったが、特に警戒することもなく答える。


「ん、出るけど?」

「そうか。なら今回はお前に手柄を譲っとくよ」

「何で?」


 ハルトークは純粋に首を傾げる。それを見た中年のひげを蓄えた男性は、声を荒げた。


「何でって、お前のせいでこっちは商売上がったりだからだよ。味方のことも気にせずにバカスカ魔物ぶっ殺しやがって、取り分考えろ」


 中年のひげを蓄えた男性は怒っている。しかしハルトークからすれば、理不尽な怒りである。


 早く多く魔物を討伐すれば、その分、味方は安全になる。ハルトークは真剣にそう思っているからだ。少々不満を漏らしつつ言い訳をする。


「ええー……いや気遣ってるし、危なくないようにって」

「傭兵は危ないところに行かねぇと報酬手に入らねぇだろ!」


 まったく、と中年のひげを蓄えた男性はぷんすか怒って先へ行ってしまった。傭兵たちも奇妙なことを言うとハルトークを笑いながらそれについていく。


 いきなり出会った見知らぬ人に、いきなり怒られた。ハルトークは人の流れの中でぼうっと立って、ため息を吐く。


「理不尽だ……」


 なんだかんだで育ちのいいハルトークは、まだまだこの業界の荒っぽさに馴染んではいなかった。


 とはいえ、気にすることでもなし、と軽く流してハルトークはさっさと前線へ急ぐ。


 開けた高原地帯の真ん中で、やってくる魔物の大群に対するように両翼へ伸びる武装した人々の列。


 ハルトークがやってきたことに気付いた壮年の騎士が、装甲をつけた馬を寄せてきた。後ろにいる従騎士はこの国の旗を持っている——つまり、この騎士は今回の大規模討伐(バルジ)の指揮を国から任された人間だということだ。


 そして、今度こそハルトークの知り合いだ。兜で顔の下半分だけしか見えなくても分かる。


「ハルトーク、お前は真っ直ぐ行け。それだけでいい」

「アーセナル。来てたのか」

「ああ、全体の指揮は俺が取る。真ん中で暴れていろ、周囲から追い込んで魔物を送り続ける」


 実に頼もしい言葉だ、兵器庫(アーセナル)の異名を取る騎士は、一国の信頼を得るほどの戦果を上げてきている。ハルトークも異論はない、承諾する。


 しかし、ハルトークの胸には、ちょっとしたもやもやがある。戦闘前に、アーセナルに質問をぶつけてみた。


「なあアーセナル、俺の扱い、もうちょっとこう」

「何だ、今更待遇に不満か?」

「俺が不満じゃなくてさ、みんなが不満じゃね? なんか、いっぱい魔物倒したいんだってさ」


 ハルトークは戦いにおいて、あくまで討伐効率と味方の安全を重視している。


 対して、報酬を第一に戦う傭兵たちやその他の人々は、自分が魔物を倒したい。その意見のずれは決して噛み合わず、ハルトークは最前線で誰よりも討伐数を上げるだけに、煙たがられる。それはハルトークも何となく分かっていた、だがそのスタンスを変えるつもりはない。


 ただ、そのハルトークの考えを、指揮官たるアーセナルは共感し、評価している。戦闘における効率と安全の重視など、本来は指揮官クラスの思考だ。それを理解する人間は、意外と貴重なのだから。


「安心しろ。ただ参加して死ななければ多少なりとも金が手に入って儲け物、と分からない馬鹿は、不満垂らして死んでいってくれたほうが味方のためだ」


 アーセナルはハルトークを擁護したつもりだろうが、ハルトークはげんなりする。


「あーその言い方はきついよきつい、アーセナルもうちょっと配慮必要よ」

「事実だ。そら、行け。帰ってきたらいつもどおり、飯を奢ってやるから」


 アーセナルは上機嫌でどこかへ戻っていく。


 さて、とハルトークが馬を調達しようと、前線で働いている死骸使いネクロマキナトスを探していると、人波のどこかからまたしても声が聞こえてくる。


「おい、あれ」

「げっ、最強の騎士ハルトークか? こんな辺境にも来るのかよ」

「魔物がいればどこにでも来るって噂は本当だったのか」

「そういえばアーセナル騎士団にいたから、その伝手か」

「マジかよ。くそ、せっかく来たのに稼げそうにねぇな」


 見知らぬ人間の無思慮な発言に、さすがにハルトークもいらっとしてきた。発言主が誰なのかは知らないが、声のしたほうへこう言う。


「稼ぎたいなら、俺と一緒に来れば……?」


 ハルトークは真面目に提案したつもりだ。ハルトークは先鋒を担い、真っ先に魔物を討伐していくのだから、一緒に来れば討伐数も魔物の素材も稼ぎ放題だ。


 だが、その発言は、見知らぬ彼らからの不興を大いに買った。


「冗談言うな! 命がいくらあっても足りねぇよ!」

「脅しだ脅し! ちょっと強ぇからって調子に乗んなクソガキ!」

「どうしてそうなるの」


 盛大なブーイングを背に、ハルトークはそそくさとその場を離れた。

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