魔界事変69 『回復の技法』
「さぁ、ここがその『治療』を専門的に行う施設です。」
ベッドに寝たままでも分かるように、ドクターは俺の寝ているベッドをゆっくりと回転させてその設備を見せてくれた。目に入ったのはちょうど俺くらいの人間が入りそうな大量の管で繋がれた棺桶、その直ぐ側に設けられた水晶玉、それに備え付けられた大量の瓶詰めの薬品・・・非常にものものしい。
ベッドとその棺桶を近づけ、俺をその棺桶に入れる準備ができたのか、と思っていると、ドクターは俺の着ていた服を脱がそうとしてきた。
「な・・・何で脱がすのですか?」
「この治療の効果を最大限に引き出すためには、一糸まとわぬ状態、つまりすっぽんぽんが一番最適なんですよ。」
ドクターは臆面なく答えた。
ドクターが言うなら間違いないのだろう。何せ瀕死だった俺の命をつなぎとめたのだからな。
・・・下着まで脱がされ、俺は自分の全てを晒すことになった。全身が死ぬほど痛いせいで隠したい部位を隠すことも出来ない。
天井に備え付けられた鏡を覗き込むと、思っていた以上にひどい傷を負った自分の体が視界に飛び込んできた。手足は生傷だらけで、胴体は痣だらけ、そして特にひどいのが脇腹の傷だ。・・・これでエレンを助けに行く?馬鹿な事を!
相当ひどい顔をしていたのだろう、ドクターは俺をなだめるように優しい口調で、
「この『治療』がうまくいけば、このひどい怪我もなんとかなりますよ。ある程度頑丈な身体なら成功率も高いですし。」
「それに・・・、君は意地でも死ぬわけには行かないでしょうし、ジーナちゃんも君には絶対に死んでほしくないでしょう。何度も言いますが君は本当に幸せものですよ?」
気を紛らわせようとしてくれているのか、ドクターはジーナの名前を出した。
・・・思えばあいつは・・・俺が昏睡状態から醒めた時も涙をボロボロと流してたし、治療の話の時も・・・本気で俺のことを想ってくれていなければあんな反応はしないのだろう。
脳裏にジーナの顔が浮かんでくる。笑うあいつ、喜ぶあいつ・・・あいつと海水浴に
行った時・・・
「まぁだから・・・君がどう思うかはどうあれ、ジーナちゃんのあの想いに答えてあげても、良いんじゃないかな、って思うんですよね。だから・・・おっと。」
・・・俺はドクターが言葉を止めた理由を察してしまった。
「・・・ッ・・・さっさと作業を進めてください!」
気が気じゃなくなって思わず叫んだ。ドクターはクスクスと笑いながら、はいはい、と笑いながら俺を抱きかかえて棺桶の中に納めた。
「いや失礼失礼。とにかく身体の方は・・・まぁ問題ないでしょ♪それにここまで痛めつけられても死ななかったんですしね♪」
ドクターはそう言いながらその管に何かの液体を注入したり、謎の装置に何かをしているが、何をしているか検討もつかない。
「あぁ、あと別に恥ずかしがることじゃ無いですよ?私も一応医者なのでからかったりはしませんよ。お腹が減ったり、眠くなったりするのと同じただの生理現象ですし、ウィレム君くらいの年頃の男の子ならごくごく普通の・・・
「いや・・・もういいです。」
・・・収拾がつかなくなりそうだったので途中で話を切った。
ドクターの方は準備が出来たらしく、棺桶の蓋の端を思い切り下に下げると、バタン!と大きな音を立てて棺桶が密閉された。
外側とは全く断絶されたような感覚だが、不思議とドクターの声がはっきりと聞こえる。
「・・・この治療は最近見つけたある種の鉱石から発せられる光を身体に照射して行います。未だ調査中ですがその光には被験者の細胞分裂を促し、欠損した部分や損傷した部分を再生する効果が確認されていますが・・・」
ドクターは相変わらず周囲の設備に手を触れ、何かを確認しながら淡々と説明を始めた。
「ただ身体に本来ありえないほどの強い負担を強いることになりますから途中の苦しみは想像を絶するようで、実験体のネズミもそれが原因で半分が死んでいますが・・・」
「・・・まぁ、頑張って。」
そう言い終えると、ドクターは側のレバーをグッ、と思い切り引いた。
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