魔界事変39 『最期の質問』
『最期ノ質問ダ。はっきりト答えてもらうゾ。』
・・・ダイゴロウに重症を負わせ、その取り巻きのシェラの首を取るあと一歩手前まで追い詰めたジーナは、魔界の凍りつくような冷たい空気のように、冷静にそう言った。
「・・・分かりました。私が答えられることなら何でもお答えします。だから・・・どうか私達を見逃してはくれないでしょうか・・・?」
鎌は首元から離れているとはいえ、真っ向からやりあえば手も足も出ないのは分かっている。だから下手に出てなんとか生き延びる道を探さなくてはならない。
『良いだろう。これニ答えテくれればあとハお前らノ事など知らん。』
「・・・では、お答えします。」
『お前達ハ魔界全域を旅してきタ・・・と言ったナ。今かラ一週間程前・・・』
今から一週間前・・・何だ?シェラは突然口を閉じたジーナの意図を探るが全く答えは見えてこない。
『一週間程前・・・どこかで男ノ子を見なかっタか?』
・・・男の子・・・?と言われてもそいつの容姿などわからないのに答えられるわけない。シェラはジーナに、その外見を尋ねた。
『年ハ12で・・・緑がかっタ黒髪・・・右側ノ欠けタ二本角・・・小さイ翼・・・金色ノ瞳・・・こんな所ダ。』
角に翼、金色の瞳・・・典型的な魔族の外見だ。だが12くらいの子供でそんな頭の色をしたやつは見たことがない。記憶の隅から隅までその条件にあったイメージを見つけ出そうとするが、見つけることは出来なかった。
「・・・ごめんなさい。そんな人は見たことがありません・・・」
『そうカ。・・・分かっタ。』
その言葉には、深い悲しみがこもっていた。
《そうか・・・まだパンデモニウムにのこされているのか・・・それとももう・・・寂しいぞ・・・ウィレム・・・》
またわけの分からない言葉をうわ言のように話し始めた。発音から何まで全く自分たちの使う言葉とは共通していないらしい。ただ唯一聞き取れたのは、発音は随分と違うが、「パンデモニウム」、と「ウィレム」という恐らくその少年の名前らしい言葉だけだった。
何が何だか未だに飲み込めないが、この死神族の娘は、「ウィレム」という名の少年とはぐれ、そいつをパンデモニウムで見たのが最後で、その行方をさがしている、といったところだろうか。
はっきり言って自分の連れをとことん痛めつけた相手に手を差し出すなんて事はしたくもないしする義務もないが、元はと言えばこちら側が喧嘩を売ったのが発端だ。何より今にも泣き出しそうな顔をしたジーナを、シェラはどうしても放っておくことは出来なかった。
「・・・あの・・・私の眼は実ははるか遠くまで物を見れるんですよね・・・」
『本当カ!?』
案の定食いついてきた。こちらの顔とあちらの顔がぶつかるかぶつからないかの勢いで接近している。
「はい・・・あなたともう一人の居場所を探し当てたのも、その能力のおかげです・・・もしよろしければ、そのウィレムという人を探してみましょうか?」
ジーナはいいのか!?いいのか!?と何度も聞き返してくる。
この様子を見るあたり、相当思い入れのある相手なのだろう。念の為邪魔をしないでくれ、と言ってブンブンと首を縦に振ったのを見ると、すぅっ、と息を思い切り吸い込んで、千里眼を起動した。




