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ゆい、ちいさくなる⑤

ミニマム唯の珍騒動。今回と次回は当事者達の視点からお送りします。

視点は亨!

「ふう。」



渡瀬の淹れてくれた濃い目の緑茶を一口飲んで、ほっと息をついたのも束の間、何があったか聞きたくてうずうずしている母と兄・翼が目端に写っているのに気付いた。先程初めて俺を叱責した父は何故か少しだけ影が薄くなっているような気がするのだが、放っておけば元に戻るだろう。


しかしながら、何がどうなってこんな超常現象が起きたのかこっちが知りたいぐらいだ。



まず一緒に寝ていたら、隣で寝ていたはずの唯の感触がしなくてふと目が覚めた。結構朝方タイプのあいつは、目覚ましが鳴らなくてもいつも起きている時間になると目が覚めるようで、それでいつも朝食を作って待っているのだが、時計を確認するとまだ四時半。いくらなんでも起きるには早すぎるだろうと、隣に寝ているはずの唯がいるかどうかを布団をめくって確認した。


その時の衝撃を想像して欲しい。

正直今でもゾッとする。


何故、昨夜までは何とも無かったのに、俺が起きたら隣で寝ていたはずの唯が小さくなっているんだ。


寝起きで、しかも早朝四時半。我が目を疑うという言葉の意味を、身を持って証明してしまった瞬間だった。


それからこれは寝ぼけているために起こった所詮夢の中の出来事なのだとひとまず現実逃避をし、とりあえずは唯を揺さぶってみたものの、うんでもすんでもない。ただひたすら、すーすーと寝息をたてて安心しきって眠っている、俺の彼女。

ただでさえ周りからはロリコン認定を受けている身、こんな小さくなった唯が自分のモノだと言った暁には、真面目に性犯罪者の烙印を押される。というか、俺が父親で、唯が俺の子供にしか見えない…。

隠し子だと言われる可能性が大だ。



これは現実ではないという俺の淡い希望が儚く打ち砕かれる前に、翼に助けを求めた。

しかし、翼も翼で小さくなった唯に絶句し、結局何の解決にもならなかった。挙句、何らかの解決策を見つけるまで寝かせておこうと思っていたらナイトにあっさりと起こされるし。あの犬、俺の事を絶対に下に見ているような気がしてならない。一応主人である唯がいる時は大人しく従順な態度を取っているが、いなくなった瞬間俺にそっぽを向くなんて日常茶飯事だ。

起きてしまったのは仕方ないので覚悟を決めてかかると、またしても唯の舌がまわらないと言う問題に直面、これでは本気で俺の子供の様に思われてしまうだろう。


実際、桐生家へ行く前に子供服専門店へ赴き、店員にこの子の全身コーディネイトしてくれと頼んだ。その時に



「可愛いお嬢ちゃんですねー。お嬢ちゃんもパパがかっこよくて羨ましいわー。」



という言葉を何回もかけられてうんざりしていると、唯も唯で何も言えずにむっつりとした表情をしていた。

車に乗って店に行く際も見た目が二、三歳のためにチャイルドシートに乗らなければならず、「とんだちゅーち(羞恥)ぷれいだ!」とぷりぷり憤慨していた。


桐生家に行っても受難は続く。

まず時差ぼけと疲労とパニックにより、桐生さんがダウン。オヤジはオヤジで、小さくなった娘を目に入れても痛くないほどの可愛がりよう。多分昔の自分に戻っていたのかもしれないが、暫くすると「唯が着ている服が気に入らない。なんでこんな服買ってきたんだ」と叱られた。そう言えば、唯が小さい頃から着ていた服は全部このオヤジのハンドメイドだったらしいという事を思い出した。世界的デザイナーが惜しげも無くその才を奮う服をそんなに小さな頃から着せていたのかと呆れていると、参観日などの勝負服に限っては。という事だという事が後にわかる。なんでも昔、祥子さんに「唯に服作ってる暇あったらちゃんと自分の仕事しなさい!」とこっ酷く叱られたらしい。


そんな事をつらつらと考えていると、いつの間にか唯に着せる服をデザインし始め、あっという間に型紙が出来上がった。かと思うと、自らミシンで縫い始め、細かい仕上がりにいたってはようやく目が覚めた桐生さんと一緒になって喧々諤々(けんけんごうごう)。

そうこうしているうちに美奈が帰宅。めでたく服は完成したものの、そんな義妹を見た美奈が放っておくはずも無く、折角俺がケーキを食べさせているのにキャンキャンと煩く言うので仕方なく唯を渡すと、キラキラと目を輝かせて颯爽と自分の部屋に連れ込んで髪をいじくり始めた。

戻って来たのは、毛先をくるくると巻いたツインテールをした俺の彼女。…というか子供?

可愛いと率直に思うのだが、それを素直には喜べない。複雑な心境のままでいると、桐生さんが写真を撮ろうと言いだして、あれよあれよという間に撮影会が始まってしまった。



それから解放されたのはたっぷり二時間後。

ぐったりと疲れきったであろう唯は車に乗り込むなり眠りの世界へと引きずり込まれた。それをしょうがないと思うものの、少しだけ寂しい。そんな気持ちを唯の柔らかな髪を撫でる事で払拭いし、現在に至る。



予想はしていたものの、まさか『魔ピンクの間』に寝かされるとは。母もうっとりとした目で寝ている唯を見ているし、父は小さくなった唯が俺の隠し子なのではないかという珍しく間違った指摘で、俺は初めて父に叱責された。なにやら波乱ぶくみの一日だったなと嘆息するしかない。


今もようやくメイドに連れられて起きて来たものの、手にはでっかい身の丈サイズのウサギの人形が握られており、それを見た母がやはり頬を赤く染めた。きっとろくでもない事を考えているんだろうなと内心思ったけれども、あえて何も言わなかった。



「唯、腹減ってないか?夕飯結局食いっぱぐれただろう?」


「ぅ…うん。だけどぉ…」


「ほら、こっちこい。渡瀬、軽いものでも良いから何かすぐに食べられるものを出してくれるか?」


「はい、わかりました。唯様…唯お嬢様ですね。何かお食べになりたいものはございますか?」


「ぶょっこりーいがいだったらなんでも!」



ニコニコと笑う唯につられたか、渡瀬も満面の笑みを零していそいそとキッチンへと急いで行った。渡瀬が出て行ったのを確認して、唯をそのまま抱き上げて膝に乗せると周りから視線を感じた。



「なに。」


「…いや、唯可愛いなーと思ってさ。」


「唯ちゃん可愛いわよ!!」


「ありがとうございましゅ…?あのー、このうしゃぎ…」


「気にしないで!なんだったらあげるわ!是非とも抱いて寝てもいいのよ、唯ちゃん!」



ふざけんな。

なんでこんな得体も知れないぬいぐるみを唯と同衾させないといけないんだ。


考えている事がわかったのだろう、ようやくどっかの世界から戻って来た父が俺を不審な目で見ていた。



渡瀬が用意した飯を食って満腹になったのか、きゃっきゃと翼と遊んでいる唯を見ながら父と向かい合って話をする。



「…超常現象って存在するんだねぇ。こんな年になって経験するとは。」


「こんな経験したくなかったけどな。」


「うーん、原因がわからない以上どうなるものか…。とりあえず様子見だね。」



ふと見ると翼に高い高いされて喜んでいる。

あれでも一応高校生。なのに見た目は幼稚園児…。なんかこんなフレーズのアニメがなかっただろうか。



「あ、そういえば…唯がうちの会社のチャイルドシートがあんまり乗り心地が良くないってぼやいてた。」


「ん?チャイルドシート?」


「ベルトが思ったよりも食い込んで痛いんだってさ。改善の余地があれば考えて置いてくれないかな。」


「なるほど、ベルトがキツいのか。…ふーむ…。子供目線の乗り心地か。なかなか興味深いね。わかった、言って見るよ。」



意外にいい意見だったのか、なにやら微笑んだ父に対して、俺はやっぱり微妙な心境なのは変わらない。

そして、母が風呂に一緒に入ろうと言い出した事で更に面倒くさいことになった。


別にいいんだが、そうなると今夜は泊まらなければいけないことになる。一応着替えはあるのだが(もちろんオヤジと桐生さんのお手製部屋着。ぶりぶりモコモコ仕様)、母がなにやら隠し持っていた服を引っ張り出してきた。うん、もちろんピンクのフリルなパジャマ。



「これねー、翼が着たやつなのよー。」


「「「え。」」」


「本当は亨にも着せたかったのに、亨ったら凄い嫌がって泣くの。挙句の果てには寝ている間に着せちゃおうと思ったのに、何を感じ取ったのかパチッと目を覚まして号泣よー。全く融通が利かない子だったのね。」



信じられずに翼を見ると、がっくり項垂れている姿が目に入った。不憫な奴…こんな事を今になってバラされるなんて。

そんな翼を憐憫の目で見ている俺と父を置いて、母と唯は風呂へ行った。



「翼…まぁ…気にするなよ。」


「うん、あれはね。しょうがなかったんだよ。私が目を離した隙に着替えさせられてたから…。」


「…下手な慰めはいらないよ…。」



心無しか、さっきの父の姿とシンクロしている。

仕方ないので暫く放って置くかと、俺も部屋に戻って部屋に備え付いているシャワーを浴びた。


浴び終わって、濡れた髪をタオルで拭いているとカチャリと部屋のドアが開いた。



「せんせい、どらいゃーかしてくだしゃい。」


「乾かしてやるから、こっちこい。」



てててーと歩いて来た唯を抱き上げてベッドの上にあげる。ふわりと香ったのはうちの家で使っているシャンプーの匂い。



「母さんに洗われたのか。」


「なんかね、しゅっごいてんしょんたかかったよ。」


「…ま、気にすんな。熱くないか?」


「だいじょーぶー。」



ふわふわと温風で舞う細い髪を梳きながら乾かしていると、ふわぁーっと大きな口を開けてあくびをした。さっき寝たあれだけだったら不十分だったらしい。今日に限っては色々と大変な一日だったのだし、眠気は仕方が無いだろう。

乾いた髪を綺麗に整えて頭を撫でてやると、ふにゃりと笑った。それが堪らなく愛おしいと思う俺は、末期なのかもしれない。



「わたち、もどりゅのかなー…。」


「案外寝たら元に戻ってるかもしれないぞ。」


「むー……」



こしこしと目を擦っている唯にベッドの布団を一枚捲って中に滑りこませる。ふかふかの布団に包まれた唯の頭が枕に沈んだのを見て少しだけ吹き出して、俺は喉が乾いていたので水を一杯飲んでくると言って、部屋を一端後にした。部屋に戻ってみると、既に眠りに引きこまれたのか寝息をたてて眠っているようだった。それにつられて俺もあくびをし、ベッドの中に入った。


電気を消して、唯の身体を引き寄せる。随分と小さくなってしまった身体だが、それでもいつものように抱き寄せると擦り寄ってくる。ふっと笑って頬に軽くキスをして俺も眠りに付いた。



「…んせい…先生、起きて!」


「ん…?…今何時だ…?」


「えっとね…三時半。」


「…早すぎるぞ。もう少し寝てろ…。」


「もー!先生ったら!!私、戻った!戻ったよー!!」



その言葉に、バチッと目を開けた俺が目にしたもの。それは…



「服ちっさい!!」



細いのに、ちゃんと出ているところは出ている、元の体型に戻った唯だった。



超展開過ぎて、頭まわんねぇよ。



亨の言う通り、超展開過ぎて頭が働きません。


唯が戻りましたー。という事で次は唯視点!次で『ちいさくなる』の回は終了です。

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