ゆい、ちいさくなる④
ミニマム唯の珍騒動。
今回は遠藤家へお邪魔します。彼女がいますよ、彼女が…。
と言う事で、視点は雅。
「ただ今。おや、ご機嫌だね、雅さん。なにかあったのかい?」
「お帰りなさい、蒼偉さん!あのねぇ、唯ちゃんが来るのよー。一緒に夕食をどう?って誘ったの。うふふふ、実は翼から面白い事聞いちゃってね。」
「唯さんが来るのか。それでご機嫌なんだね。…ねえ、雅さん。翼から面白い事を聞いたって何?そう言えば朝早くに出かけて行ったけど、あれは亨のマンションに行ったんじゃなかったのかい?」
「うふふふっ!唯ちゃんが来てからのお楽しみよ!!」
蒼偉さんが怪訝そうな顔をしたまま着替えに自室へと戻ったのを見送って、私は唯ちゃんが早く来ないかと待ちわびている。だって、あの可愛い可愛い唯ちゃんが小さくなったって言うんですもの、見ておかなければ損でしょう!?
翼が早朝に出かけて行ったのは、朝食を取る為に全員がダイニングに集まったよりも前で、どうしたの?と渡瀬に聞いて見ると、亨の所に行ったって言うし。こんな朝早くから呼び出すなんて亨に何かあったのかと思って心配していたのに、帰って来た翼に話を聞いてみると全く予想に反したもので…。
まさか、唯ちゃん二、三歳にしか見えないような背格好になっていたって言うんですもの。驚くより先に、二人の頭は大丈夫かと疑いたくなったわ。こんなに突飛な発想をする子達じゃなかったはずなのに…と内心哀れんでいたら、翼が携帯電話で撮った写真を見せてくれた。
…まあ…本当だわ。
あの元々小さな唯ちゃんが、もっと小さくなっている。しかも、心無しか亨の表情がおかしい。まあ、しょうがないわね。親の私から見ても溺愛傾向にある亨が、あの対象である唯ちゃんが小さくなるなんてショックだったでしょうし。
それにしても、この小さくなった唯ちゃんは可愛いわ。こんなに小さな携帯電話の画面でもその愛らしさがわかるんだもの、早く来ないかしら。
翼は二人とも桐生の家へ行ってしまったって言ってたけど、さっき電話したら大丈夫だって言ってくれたし。うふふふ、亨、早く連れて来なさい!!
夕食と言っても、今日は生憎お義父さんとお義母さんがいらっしゃらない。せっかくの連休だからと言って、温泉旅行に行ってしまったから。確か、湯布院だったわよね。いいわねー、のどかな温泉街。
私も唯ちゃんを連れて一緒に行きたいわー。あの子は細くて小さいのに、何気に胸はあるのよね…。きっと脱いだら綺麗な肌してると思うのよ。まぁ、あの小さな身体を我が息子が蹂躙してるのかと思うと、何だか暗澹たる気持ちになってしまうのだけれど…。
あの堪え性がない亨が、美味しそうな唯ちゃんを目の前にして何もしてないなんてあるわけがないし。私も蒼偉さんも、後日桐生のお義父様の所へ菓子折りでも持って行った方がいいのかしら。
まぁ!そうなると、桐生総一郎に会えるじゃないの!
あの歩くフェロモン帝王、桐生総一郎に!!
本当に素敵だと思うの、あの方は。間違えないように言っておくけれど、私は蒼偉さんが大好きよ。だけど、桐生総一郎は何て言うのかしら…。精悍な顔立ちに大人の持つ余裕の色気、匂い立つフェロモン!全く、あの方が唯ちゃんのお義父様だなんて凄いわ!!
よくあの父親に惹かれないで、うちの亨なんかを好きになったものだわ。
あら…?そう言えば翼も亨も『唯は美形音痴だから』って言ってた気がする。
となると、顔で亨を選んだ訳じゃないのね。となると…一体どうしてあの子を選んだのかしら…。
「ただいま。」
「!亨!!お帰りなさい!唯ちゃんは…って…寝てる…?」
「ああ、あっちの家でいいだけいじくり回されて疲れたんだろ。車に乗ってる時に寝た。」
亨の腕に抱かれた小さな子供、もとい唯ちゃん。
落ちないようにしっかりと抱きかかえている我が息子は、見る人が見たら眠ってしまった娘を抱く父親の様に見える。こんなにも亨が子供の扱いが上手いだなんて。と意外に思うものの、それが少しだけ嬉しいなんてこの子には言わない方がいいのかもしれないわね。
すやすやと眠っている唯ちゃんの顔を覗きこもうとしたのだけれど、唯ちゃんは、小さな子供がむずがる様にその顔を亨の胸にグリグリと押し付け、首に手を回して再び夢の中に落ちて行ってしまったようだ。
思わず、柔らかな髪がツインテールに結われた頭を撫でると、亨が視線を寄越した。
「起きないな。仕方ない、寝せてくる。」
「亨、亨!!待ちなさい!貴方の部屋じゃなくて、私の部屋に連れていきましょ!!さ、早く!!」
「は…」
「ほら、早く!!」
私の趣味の部屋は、絶対に今の唯ちゃんにピッタリだと思うの!!
だって、唯ちゃんの着ている服!まさに可愛くて仕方がない唯ちゃんの魅力を余すことなく表現しているし!!
ひらひらのピンクのワンピースに、首にリボン。その上にベストを着用。一見シンプルに見えるそれらだけれど、細かいところにすごい気の使いようだと関心してしまうわ。ボタン一つにしても、リボン一本にしても。
髪型もまた可愛い…。毛先をくるくる巻いたツインテールだなんて…。垂涎ものだわ!!
亨の嫌そうな顔は全面無視を決め込んで、姫のベッドにその小さな身体を横たわらせる。
亨が唯ちゃんの着ているベストを脱がせた辺りは、本当に父親っぽかったのだけど、どうしてか『子供にイタズラしようとしている我が息子』というフレーズが頭に浮かんで、それを慌てて振り払った。
ピンクのベッドでスヤスヤと寝息をたてているのを、もうこのためにこの部屋を揃えたと言っても過言ではなかったという達成感のようなものが私の中に込みあげてきた。
自分の子供が男の子だったせいで、女の子に着せ替えさせてあげられなかった。
ベビー服や、幼児用の服を何着か買って、こっそりと翼と亨に着せようとした事がある。翼は抵抗しなかったのだけれど、亨は何をしてでも嫌がった。今思えば、その頃から融通が利かない子供だったのだろうと思うけど。
「あれ、唯来たんだ。…って、母さん…」
「今、感慨中だから行こうぜ。暫くしたら来るだろ。」
「唯、まだ戻ってないのかー…。あっちの皆の反応はどうだった?」
「予想通りかな…。それはまあ、あっちで話すから……」
翼と亨がいなくなった、私の部屋。
好きなだけ居ていいのよー唯ちゃん…うふふふふ。
「雅さん、ご飯だよ…ってその子はどこの子供?」
「亨がね、連れてきたの。可愛いと思わない?」
「亨が…?」
「二、三歳ってところかしらねー。もう、本当に可愛い!!ね、そう思わない?蒼偉さん!」
「…………」
「蒼偉さん?ねえ、どうしたのー?」
蒼偉さんが怖い顔でどっかに行っちゃったわ。どうしたのかしら。
そう言えば、唯ちゃんご飯どうするのかしら…。このまま眠ってたらご飯食べ損ねちゃうわね。
可哀想だけど、起こしてあげた方がいいかも。
「唯ちゃん、起きて。ゆいちゃーん…!」
「…ん…ゃー……」
「ごめんね、起きないとご飯食べ損ねちゃうわよ…」
「にゅー……ぅ…」
「……可哀想になってきちゃったわ…。仕方ないわね、このまま寝かせておきましょうか…」
うふふと笑って、抱き枕代わりにウサギのぬいぐるみをベッドのお伴にさせ、私はリビングへと向かった。
「あら?」
「亨、どういう事か説明しなさい。」
「だから、俺の子供じゃないって。」
「だったら、誰の子供なんだ。私はお前を誘拐犯になんか育てた覚えは無いぞ!」
「父さん、違うって。あれはー…」
「翼は黙ってなさい!私は亨に聞いてるんだ!」
「蒼偉さん、どうしたの?」
本当に珍しく蒼偉さんが声を荒げている。この人がこんな風になるのも珍しい。と言うか、滅多にない。
「あの部屋で寝ている子だよ。亨が連れて来たんだろう?」
「ああ。」
「可愛いわよねー。」
「だから!!誰の子供なんだとさっきから聞いてるじゃないか!!」
「誰って…千歳先生と祥子さんの子供。」
「なんだと?」
「ああ、蒼偉さん。勘違いしてるのね!あの子は唯ちゃんよ。さっき来るって言ってたでしょう?亨の隠し子なんかじゃないわよ、蒼偉さん!」
私の言葉にきょとんとした蒼偉さん。
こんな顔も珍しいわ。可愛い☆
「唯さん…?」
「そうだ、唯だ。朝起きたら縮んでたんだ。母さんが連れて来いって言わなかったら連れてこなかったし。」
「そうよ蒼偉さん。あの子は唯ちゃんよー。小さくなっても可愛いわよね、そう思うでしょう?」
「………」
「あら、大丈夫?」
絶句しているわ。こんな風になったのは、私が素敵過ぎるリフォームした家を見た時以来でしょうね。
怒らない蒼偉が初めて怒った、記念すべき日。寂しいのは、それが見当違いだったっていう事だけ(笑)
次回、ようやく当事者達の視点となります。
ということで、次は亨!お楽しみに。




