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ゆい、ちいさくなる③

ミニマム唯の珍騒動。今回は美奈視点でお送りします。

「お疲れ様でしたー!」


「お疲れ美奈。あ、そうだ!ちょっと待ってて。」



泊りがけの撮影終わりでスタジオを後にしようとしたら、マネージャーのマチさんに声をかけられた。なんだと思って待っていると、その手には小さな箱があった。どうやらケーキみたいだ。

マチさんめ、あたしに少し太ったんじゃないかって言うくせにケーキだなんて嫌がらせ?しかも、箱にはいつも行列の出来る有名店のマークが印字されてるし。



「マチさん、嫌味なの?あたし、何かしたかなー?」


「してないわよ。これ、貰ったから唯ちゃんのお土産にどーぞ、持ってって。」


「きゃー!いいのー?唯喜ぶわー。ここのイチゴタルト好きなのよね。入ってる?」


「入ってるわよ。殿と王子は甘いもの嫌いだったわよね。だから、はい、これ。チーズなんだけど、食べるわよね?」


「押えるねー、マチさん。さすが敏腕マネージャー☆」



ふふんと胸を張ったマチさんに感謝して、待機していた車に乗り込んだ。

ちなみに、マチさんの言う殿と王子って言うのは、パパとお兄ちゃんの事だ。パパは殿って感じではなくてどちらかと言えば帝王っぽいのだけれど、お兄ちゃんに関しては王子で合っていると思うので訂正しないけどね。

家に着いたのはそうかからなかった。道が空いていたという事もあったけど、やはりマイラブ唯に会いたいと言う気持ちが強かったのだろうと思う。事務所の運転手さんに少し無茶してもらって、ようやく家が見えてきたのだが、図らずも自分の眉間に皺が寄ったのがわかった。


あの、派手な黒のBMWは。

あのロリコン野郎が来てやがる。ていう事は、昨日唯はお泊りだったのだろうか…?そりゃあ、あたしは昨日泊まりで撮影だったけど。パパもお兄ちゃんも国内にいなかったけど!でもでもでも、あいつぅぅぅぅ!!!!!

未だにあの野郎と付き合っている事実に納得出来ていないけど、反対すると唯が悲しげにうるるんとあたしを見てくるので強く言えない。我ながら甘いと思うけど、それが実態なのだからしょうがない。何といっても、唯はあたしのマイスウィートハートだから。


もし、あたしが男だったら間違いなく唯を自分のものにしていたはず。それこそ、並み居るライバル達を押しのけ押しのけ、グレイシー柔術で張り倒してでも。あんな細っこいもやしな男に負けるわけがない。


細マッチョだ?

世はマッチョだ、筋肉だ。ホイス、ホイスだ!!ホイス最高!!


そのくせ、自分の彼氏が細いとかは言いっこ無しだ。

惚れた者負けだよ、こんちくしょう。



「美奈さん、着きましたよ。」


「あ、ありがとうございますー。じゃあ、気を付けて帰ってくださいね。あと、無茶言ってすみませんでした。」


「いえいえー。じゃ、お疲れ様でした。」


「お疲れ様でしたー!」



一応泊まりだと言っても、ホテルに一泊だったので荷物は少ない。持っている物は、カバンとケーキの箱とチーズが入っている袋だけなので片手で事足りる。

家の来客用スペースに停まっているBMWを忌々しく一瞥し(車庫にはパパのベントレーとお兄ちゃんのマセラティがあるっていう事は帰って来ているらしい)、玄関のドアを開けた。

チャカチャカと走ってくるナイトに出迎えられてその頭を撫でくり撫でくりしていると、リビングの方から「お腹空いた!」と子供の声が聞こえた。他所の子供でも来ているのか、もしくはお兄ちゃんの友達の(ぜろ)君のとこの子供かなと思って、ケーキを近くにあったテーブルの上に置いて、ちらっと覗くと男三人に囲まれた小さな女の子が、可愛らしいピンクのワンピースの着せ替え人形になっていた。


うっわ、パパもお兄ちゃんも、あの男も全員が幼児性愛者(ペドフィリア)?

やっばい…と思ってそのシュールな光景にドン引きしていると、その女の子があたしに気づいた。



「あ、おねーちゃん。おかえりー!」


「…え?」


「おねーちゃーん、きいてよぅ、ぱぱもおにーちゃんもね、おかちくれないのー!」


「こら、唯、動くなって言っただろう。」


「あとちょっとだから。そしたらお菓子あげるから。な?」


「もうあちたぁ!!」



エクセレント!!

ミラクルだわ。

さすが、あたしの唯。不可能は無いのね。

見るからに二、三歳児。となると、あの男は彼女だなんだと連れて歩けないわ。むしろ、父親と娘って感じだわ。ま、高校生と教師なんてベタな恋愛小説の王道禁断設定だから、簡単にデートなんて出来ないだろうけどね。


しかし、可愛い。

さすが、あたしのマイラブ。それに、パパとお兄ちゃんの合作であろう服もあたしの好みのど真ん中。いい仕事してるわ、二人とも。むしろ心無しか、いつもの時より生き生きしているような気がするのは気のせいではないはずだわ。

あぁ、もうあの淡いピンクの半そでのワンピースが…。それにリボンだなんて、やるわね、パパにお兄ちゃん。

結いたい。あの細くて柔らかそうな髪をツインテールに…。


脳内まっピンクでうずうずとしているあたしに気付いたのか、あの男が声をかけてきやがった。



「おい、美奈…」


「あ゛?」


「………ご挨拶だな。」


「おねーちゃん、めっ!!」


「ごめんねー、唯、怒らないでー。やーん!ぷにぷにしてるー!かーわーいーいーーーーーー!!!!!!」


「美奈、まだ動かすなって言っただろ。唯に針が刺さる。」


「うっ…!仕方ないわね…。あ、そうだ。唯、マチさんに唯の好きなお店のケーキ貰ったから後で一緒に食べようね。」


「ほんとにー?いちごたりゅとある?」


「あるわよーーー☆」



もうキュン死するんじゃないかしら、あたし。

舌ったらずの可愛い唯に悶絶しながらパパとお兄ちゃんの工程を見ていると、視線を感じた。今あたしに視線を寄越すのは一人しかいない。正直そっちを向きたくないけど、なんでまた唯がこんなちっさくなったのか原因を探らなければならない。

なにせ可愛い可愛いといくらあたし達が愛でようが、唯は高校生だという現実問題が存在しているのだ。面倒な事この上ない。ずっとこのままでもいいのに…と内心残念に思いながら、今までの経緯を隣の男に聞いた。話がずれるようだが、ソファーにどかりと座ったコイツが邪魔でいちいち一人がけの方に座らなければいけなくなった。客のくせに態度がデカすぎるぞ、この野郎。



「なんでまたこんな背格好に?」


「わからん。朝起きたらこうなってた。」


「朝…昨日寝る前は何ともなかったのよね?」


「ああ。俺が朝、目が覚めた時にはもう小さくなってた。唯にも何にも思い当たる事は無いって言うし、寝てるときもなんら異常はなかったとさ。」


「ふーーーーん…。世の中科学だけでは解明出来ないことってあるのねー。不思議だわ。」



全く不思議な事もあるものだと嘆息しながらも、やっぱり可愛いあたしのマイラブ。

戻るのかしら?いっそのことこのまま…。



「不吉な事考えてんじゃねーよ。」


「人の考え読むんじゃないわよ!」



キーっと楯突くと、呆れた表情の男が癪に触る。ギリギリと睨みつけていると、パパがようやく腰を上げた。



「よし、唯、少し回ってみろ。はい、くるくるー…秀人、どうだ?」


「うん、いいんじゃないかな。欲を言えば小物も作りたいけど、流石にね。」


「あとは、普段着用に何着か…。」


「えー!?もうあちた!!おなかもすいたー。」



とてとてとこっちに歩いて来たあたしのマイラブ。やっぱりパパとお兄ちゃんの力作は凄いの一言に尽きるわ。

ワンピースはひらひらで、(なび)くリボンが可愛い。この短時間にベストまで作った辺りに執念すら感じる。さて、そのあたしの(以下略)は、あたしのところに来ると思いきや…



「唯、どうしてその男のところに直行なの?」


「だって、あちたんだもん。せんせい、おなかしゅいた。」


「昼食ってないもんな、お前。おい、美奈、ケーキあるんだろ?」


「わかった、一緒に食べようねー。おいで~唯。だから、あんたは唯を放しなさいよ。」



しれっと膝に乗せてんじゃないわよ!!

見なさい、パパもお兄ちゃんもあんたを睨んでるのに気付かないわけ!?勝手に二人の世界作り上げてんじゃないわよ!!

ていうか、この時点であんたの唯に対する認識は確実にロリコン認定決定だけどね。幼児であろうがお構い無しだ、こいつ…!!


あたし達の氷点下の視線をわかっているであろう男の携帯が鳴ったので、一端小休止。

唯をパパに渡して、一人廊下に出て電話をしているのをこれ幸いと、さっさとケーキを食べようとキッチンに行き、貰った箱を開けた。



「たりゅと…。いちご…。」


「あれ、イチゴタルトじゃないね、これ。ベリータルトだ。マチさんがイチゴって言ってたんだけど、唯これでもいい?」


「うん、いちごのってるからいい。」


「あ、パパとお兄ちゃんにコレ。チーズだって。」


「ああ、このチーズ美味しいんだよね。ワインに合って。」


「後で貰う。ほら、唯食わせてやるからおいで。」



パパがちゃっかりカウンターのスツールに座り、唯を膝に抱っこしてタルトを食べさせようとしている。あたしだってしたいのに!と思っているのはあたしだけでは無いらしい。お兄ちゃんも卑怯だと言う風にパパを見ているから。



「ずるーい!!あたしだって唯に食べさせたいのに!!」


「そうだよ。ていうか、父さんが今それやると、完璧孫におやつあげてるおじいちゃんの図だよね…って痛い!!」


「誰がじいちゃんだ!じゃあ何か、バンビが父親か!」


「えー、じゃあママは誰よ。唯を産むんだから祥子ママじゃないと駄目でしょー?」


「祥子がバンビなんかに見向きするか!」


「いやー、わかんないよー。案外若い方に…。祥子さん凄まじく童顔だったからね。」



ぎゃーぎゃーと騒いでいたので、三人とも気付くのが遅れた。既に唯がキッチンにいないこと。そしてタルトだけではなく、ケーキが入った箱ごと無いことに。



「美味いか?」


「うん!せんせいもたべりゅ?」


「いや、いい。ほら、口開けろ。」


「あーん。」


「あのな、さっき母さんから電話があって。夜あっちに呼ばれたんだ。お前が。」


「わたち?なんで?」


「ほら、あーん。多分、翼から聞いたんだろうな。ついでだから実家に泊まるか?」


「いいのー?」


「ま、いいんじゃないか?」


「よくないわよ!!!!!」



あたしの絶叫が家中に轟いたのはしょうがないだろう。

しかも、人ん家でラブラブしてんじゃないわよ、このロリコン教師!!!!

さて、次回は。

ミニマム唯が遠藤邸に招かれました。当然待ち構えているのは彼女です。

ていう事で、次は雅視点で!

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