↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お盆の夜、閉園後の動物園から配信してたら、視聴者が全員死んでた  作者: 空の異変


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/7

最終話・裏 送り提灯

最初に気づいたのは、慧だった。


「善淵さん。生きてるのが一人、混じってますね」


お盆の夜の木立動物公園。釜の蓋が開いて、こっちの連中がぞろぞろ遊びに出ていた。


その中を、生きた女が一人、自撮り棒を持って歩いている。


「放っておくのが、いちばん楽ですね」


「放っておいたら、出られない」


「つなぐんですか。ここ、圏外ですね」


「俺の枠でつなぐ」


「僕、今夜は休みのはずなんですけどね」


「休んでていい」


あの女の端末は、圏外のはずだった。俺は自分の配信枠を、そこにつないだ。


コラボの申請は、向こうから出した形にしてある。チセ、という名前はそのとき知った。


つないだ途端、枠に客が流れこんできた。見物好きの亡者は多い。


【三年推し:え、チセちゃんだ】


【寝落ち番:知ってる人?】


【三年推し:生きてたころ、ずっと見てた】


【無課金席:じゃあ、普通の視聴者のふりをしよう。怖がらせないように】


それで決まった。今夜この枠にいる全員で、人間のふりをする。


画面の外で、誰かが笑う。


笑い声はいつまでも続いているのに、そいつの胸は一度も上下していなかった。


猿が、チセに寿命を借りに来ている。


俺は、そのまま教えた。逃げろ、という意味のつもりだった。


チセは振り向いて、猿に土下座を返す。数を読みながら、俺は自分が何を見せられているのか分からなかった。


猿を止めるには札が要る。描くのも売るのも、俺一人では追いつかない。


外で遊んでいた慧を、枠に呼び戻した。


「僕も遊びに来たんですけど、今夜は店番ですね!」


慧は茶色の座布団を尻の下に敷き直して、ショップを立ち上げた。


    *


オウムが、口を滑らせた。圏外のことも、俺たちのことも。


人は怖がると、間違える。


足が止まって、言われたことを取り違える。それが一番困る。


「善淵さん、ばれましたね」


「待て」


チセは、オウムを信じなかった。


「……あの人、ちょっと鈍いですね」


「助かる」


「褒めてないですね」


「俺は褒めてる」


【無課金席:ばれてないなら、このまま続けよう】


【寝落ち番:続けよう。主が前を向いてるうちは】


猿の借寿も、オウムの一言も、俺が仕込んだものじゃない。園の中には、本当に悪いのもいる。


枠の連中が笑っている間も、俺は画面の端に映るチセの足もとを見ていた。


    *


生きている人間に、亡者は占いを売れない。札も売れない。


ただで渡すのは、もっと悪い。あとで何で払わされるか、分からなくなる。


だから、付けにした。


「100枚も描かせておいて、売上の表示は全部付けですね」


「表示は芝居だ。こっちが儲かってると思わせておけば、あいつは遠慮しないで買う」


「遠慮されたほうが、僕は楽ですね」


「善淵さん、もう少し安くできません? 閻魔庁も、ちょっとの割引なら見逃してくれると思いますね」


「値段の問題じゃない」


「じゃあ、待つしかないですね」


「あいつが自分で稼ぐまでだ」


列車の運賃が入ったとき、慧は台帳を開いた。


「やっと、精算できますね」


「押せ」


慧は黙って、付けの行に一つずつ精算の印を押していった。


もう一つ、決まりがある。


占いを一つ外すのは、園の決まりだ。


象園で、俺は南の道を読んだ。外れだと分かっていて、読んだ。


チセは返品を求めてきた。未成年だと言って。


「善淵さん。あの人、どう見ても成人ですね」


「申請は出せ」


「出しても、通らないと思いますね」


「出さなきゃ通らない」


閻魔庁は、それを受理した。


【三年推し:閻魔庁、未成年者取消し通すんだ】


【無課金席:前例ができた。私も使う】


慧はしばらく、台帳に突っ伏していた。


「……僕の売上、3,333円減ったんですね」


「減らしたのは、俺だ」


    *


最後の占いを読み終えて、チセの電池が切れた。


暗くなった画面の前で、枠に残った連中が、俺を呼び始めた。


【寝落ち番:善淵さん、最後に顔見に行ってあげて】


【無課金席:私たちも行く。後ろから見送るだけ】


【三年推し:来年の分も、もう推してるから】


【寝落ち番:自分も行く。今度は酔わない】


慧が、腰を浮かせた。


「行くんですね」


「行く」


「濡れたままですね」


「乾かす暇がない」


棚から送り提灯を下ろして、火を入れた。袖の先から、まだ水が落ちている。


去年の7月から、この袖は乾いたことがない。


「最後まで、振り返らせないでくださいね」


「分かってる」


霧の出始めた大通りの先に、兎園の出口が小さく見える。


提灯を提げて、俺は大通りへ出た。


忘れてくれ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。