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シャベル×しゃべる ~うるさすぎる最強相棒と異世界開拓記~  作者: バックドロップ


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第二話 最初の一振り



「ワシを握れ。」


 さっきまでとは別人……いや、別シャベルのような低い声だった。


 ひよりは震える手で柄を握る。


 すると、不思議なことに手へ吸い付くように馴染んだ。


「よし。」


 シャベルが短く言う。


「まず落ち着け。」


「無理だよ!」


「無理でも落ち着け。」


「狼だよ!? あんな大きいの!」


 目の前の魔物はゆっくりと距離を詰めてくる。


 低く唸りながら、獲物を観察するように。


 逃げても追いつかれる。


 そんなことは運動が苦手なひよりにも分かった。


「聞け。」


 シャベルが静かに言う。


「嬢ちゃん。」


「……。」


「ワシは今からちょっとだけ黙る。」


「え?」


「戦う時までしゃべっとったら邪魔やろ。」


「今さら!?」


「ツッコミは後や。」


 狼が地面を蹴った。


「来るで!」


 ドンッ!


 一直線に飛び掛かってくる。


「きゃあああ!」


「右や!」


 反射的に体をひねる。


 狼の牙が制服の袖をかすめた。


「危なっ!」


「よう避けた!」


「偶然だよ!」


「偶然でも生きとる!」


 狼はすぐに向きを変え、再び襲い掛かる。


「構え!」


「無理!」


「できる!」


「無理!」


「できる!」


「どっちなの!」


 ひよりは半泣きになりながらシャベルを前へ突き出した。


 ガキィィン!


 牙とシャベルがぶつかる。


「え?」


 想像していた衝撃が来ない。


 腕が折れるどころか、ほとんど押し負けていない。


「なんで?」


「言うたやろ。」


 シャベルが少し得意げに笑う。


「ワシ、そこらの道具ちゃう。」


 狼が再び噛みつこうとする。


「今や!」


「え?」


「振れ!」


「うわぁぁぁ!」


 ブォンッ!!


 勢い任せに振り抜いたシャベルは、狼の横顔へ直撃した。


 ゴッ!!


 鈍い音とともに狼が吹き飛ぶ。


「えぇっ!?」


「ナイスや!」


「私、こんな力……!」


「今は考えるな!」


 狼はすぐに立ち上がる。


 しかし先ほどより警戒しているようだった。


「見たか!」


 シャベルが急にいつもの調子へ戻る。


「鈍器もいけるんや!」


「自慢してる場合じゃない!」


「剣やったら折れとるかもしれん!」


「そんなことないでしょ!」


「剣なんか切ることしかできへんやん!」


「今その話!?」


「ワシは切ることもできる!」


「掘ることもできる!」


「叩くこともできる!」


「耕すこともできる!」


「井戸も掘れる!」


「畑も作れる!」


「ケツは掘られたないけどな!」


「今そのボケいる!?」


 ひよりが叫んだ瞬間だった。


 狼が苛立ったように突進してくる。


「ほら来た!」


「喋りすぎ!」


「ワシはいつでも喋る!」


「知ってる!」


 狼が飛び掛かる。


「今度は左!」


 ひよりは一歩踏み込み、シャベルを横薙ぎに振る。


 ドゴォッ!!


 重たい一撃が狼の脇腹へめり込む。


 巨体が地面を転がった。


「おぉ!」


「え?」


 今度は自分でも分かった。


 軽い。


 まるでシャベルが勝手に動きを導いてくれているようだった。


「嬢ちゃん。」


「な、なに?」


「そのまま追撃や。」


 狼は立ち上がろうとしている。


「頭や。」


「頭を狙え。」


「……。」


 ひよりは息を飲む。


 目の前にいるのは魔物。


 でも、生き物だ。


 殺さなければ、自分が殺される。


「でき……ない。」


「できる。」


 シャベルの声は静かだった。


「生きるためや。」


 狼が最後の力で飛び掛かる。


「ひより!!」


「――っ!」


 気が付けば体が動いていた。


 シャベルを両手で握り締め、渾身の力で振り下ろす。


 ゴッ!!


 鈍い衝撃。


 狼はそのまま地面へ崩れ落ち、二度と動かなかった。


 森に静寂が戻る。


「……終わった?」


 ひよりはその場へ座り込む。


 手が震えて止まらない。


「私……。」


「ようやった。」


 シャベルは優しく言った。


「初めてでようやった。」


 ひよりは何も答えられなかった。


 助かった安堵と、生き物を倒してしまった罪悪感が入り混じる。


 すると、さっきまで静かだったシャベルが突然いつもの調子に戻った。


「……せや!」


「な、なに?」


「泥ついとる。」


「え?」


「ワシ、泥だらけや。」


「今それ!?」


「磨け。」


「今は無理!」


「嫌や。」


「血もついとる。」


「帰ったら磨いてや。」


「帰る家ないでしょ!」


「……。」


「……。」


 二人は同時に黙った。


「せやった。」


「忘れてたの!?」


 ひよりは思わず笑ってしまう。


 涙でぐしゃぐしゃの顔のまま。


「ふふっ……。」


「笑うとる場合ちゃうで。」


「シャベルのせいだよ。」


「せやな!」


 森に、二人の声が小さく響いた。


 異世界での最初の戦いは終わった。


 だが、本当のサバイバルは、ここから始まるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

少しでも「おもしろかった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

感想・レビュー・ブックマーク・評価などで応援していただけると、とても励みになります。


皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。

誤字脱字なども気づいた点があれば、遠慮なく教えてください。


これからもよろしくお願いします。

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