夢とコーヒーとみんなの居場所
俺の名前は堂本誠。
メイの提案を受け入れる選択をした結果、俺の店は生まれ変わった。
シックな落ち着いた雰囲気の喫茶店から――
「レンちゃ~ん一口どうぞ~」
「喜んで~!」
「ミウさ~~ん、こっち向いて~」
「どうしたんだい?」キランッ
「キャーー」
「リオ様~! ツインテで叩いて~!」
「バカ言ってんじゃないわよ!」バシン!
「サエさん、今日は彼との相性を……」
「……五分五分ですね」
「メイちゃん注文よろしく~」
「は~い! ただいま伺いま~す!」
騒がしいけど、明るく楽しい雰囲気の『異世界カフェ』になった。
(しかし……、メイしかちゃんと仕事をしていないのか?)
今月のテーマは『異世界コーヒーショップ』、様々な種族のバリスタが集まってカフェを開き、各々の種族をイメージしたコーヒーを提供する企画だ。みんな様々な種族のコスをするが、服装はバリスタの恰好だ。
「玄さん、いらっしゃい。ご注文のコーヒーセットをどうぞ」
「やあ、マスター。何でマスターが持ってくるんだよ。メイちゃんに持ってきてもらいたかったよ」
そんな不満を言うこの人は玄さん。
前の店の時から、常連として来てくれていた人だ。前は「僕はマスターのコーヒーに惚れてるんだよ」と言ってくれていたのに……。
今ではメイちゃん、メイちゃんと。メイ目的で来る客になってしまった。
(まあいいけどさ。何だかな……)
「玄さん」
「何だい?」
「前の店と、今の店はどっちがいい?」
「前の店もさ、落ち着いていて、マスターのコーヒーも美味くてさ、とてもいい店だったよ。僕は好きだった……」
そして、玄さんは真剣な顔で俺を見る――
「でもさ、比べるのも申し訳ないくらいに、今の方がいいに決まってるじゃん」
いい笑顔でそう言った。
「ですよね~」
(やっぱり、誰がどう見たっていい店になったよな〜)
あの日、ユウキさんに言われたことを俺はずっと考えている。
その答えが、きっと……
俺が店長としてここにいるために、必要なことだと思うから――
ユウキさんの退院日――
睡眠不足で倒れてしまったユウキさんを、俺は病院まで迎えにきていた。
退院手続きをして、俺の運転でマンションへ帰る途中で。
「すまないね、誠」
「いいや、ユウキさんが無事で本当に良かったよ。俺も連絡を聞いた時は焦ったからさ」
「フッ。お前の子供を見るまでは、死ぬ気はないよ」
「……じゃあ、しばらくは平気だな」
「ハァ。それはそれで困るね。いい娘はいないのかい?」
「出会いがねーよ。こんな面だしな」
「見た目で決めるような娘はダメだ。私が認めないよ」
「小姑か!?」
「姑って言わないお前が好きだよ。誠」
「ありがとうユウキさん」
「そういえば、店に可愛い子がいっぱいいるんじゃないのかい?」
「いやいや! 店長が店員に手を出したらダメだろうが!?」
「小説じゃあ、よくあるよ?」
「フィクションだからでしょ!」
「お前たちの両親も、そんな感じだったと思ったぞ?」
「え? マジで?」
「……たぶん?」
「どっちだよ……」
しばらくして、マンションの近くまできた頃に。
「そういえば誠。メイが泣いてたぞ……」
「……そうか」
「何やってるんだい、お前が近くにいてさ」
「弁明できない。あんなに自分を卑下していたなんて……」
「あの子も優しいからね。お前のことも大好きだ。逆に言えないことも、あるかもしれないね」
「ユウキさんに感謝だよ。俺にはできなかったからさ」
「何言ってんだい?」
「いや、俺はメイの心の支えになってあげられてないなって……」
「ハア。この兄妹は本当に……」
「ん?」
「お前は自分で答えを出しな! もういい大人なんだから!」
「お、おう?」
「ったく! お前な~~!」
ユウキさんは髪をガシガシしながら、
「ヒントだ! お前は何で喫茶店を夢にした? それを思い出しながら、周りの人間を見てみな!!」
ちょうど駐車場に着くと、ユウキさんはさっさと降りてしまった。
「誠なら分かるはずだ! しっかりしな!」
そう言って、行ってしまった……。
言われた日から、ずっと考えてはいるが……。
夢の喫茶店。
これは一回挫折しかけたけど、今の『異世界カフェ』に変えることで成功した。
いい店になった。これは、間違いない。
(でもメイの心の支えと、どう関係があるんだ?)
ユウキさんの言い方だと、俺はメイの心の支えには、なれているのだろう。
店―― メイ―― 周りの人間を見ろ――
その答えが分からないまま、今月も企画会議が始まる――
「では! 今月もお疲れ様でした! お兄ちゃんよろしく!」
今月からは、更に新しいルールになった。
「おう。みんな、コーヒーセットだ。召し上がれ」
それは、会議で出すメニューを今月の”一番注文されたメニュー”にする、というルールだ。コーヒーセットはパンケーキと、俺特製ブレンドコーヒーだ。
「う〜ん。パンケーキ、うまぁ〜」
(レンは、生クリームをたっぷり付けて頬張っているなぁ)
「店長のコーヒーは、やっぱり美味しいね」
(ミウは、コーヒーを飲む姿もイケメンだな)
「砂糖とミルク入れると、もっと美味しいよ!」
(リオは、いつ大人の魅力を身に着けられるのだろうか……)
「パンケーキ自体の、仄かな甘みもいいですね」
(サエは、結構甘いもの好きだよな〜)
「パンケーキにはコーヒーだよね!」
(メイも美味しそうに食べ飲みしてくれている)
ある程度、食べたところで。
「じゃあ始めよっか、会議!」
コーヒーを飲みながら、メイの号令がかかった。
「はい!」
「はい、レンちゃん!」
「最近は奇抜な企画が多かったのでぇ、そろそろ王道路線はどうでしょう?」
(おお、レンがまともだ。あれ? 食べものが絡まなければ、いつもまともな方か?)
「いいね、いいね! 私は賛成~」
(リオはいつも乗っかるよな。そのノリに助けられることも多いけど)
「わたしもいいと思うよ。王道ってことは」「姫はないよミウちゃん!」
(ミウは相変わらずだ。でも、そんなめげないところもすごいよな)
「王道は正義ですね……」
(サエの言葉は、いちいち意味深く聞こえるのは何故だろう?)
「じゃあとりあえず、王道路線で考えていくよ!」
(メイが上手く纏めてくれるから、個性的なみんなも好き勝手に言えるんだろうな)
本当に、良いチームになったな。
「具体案がある人はいる?」
「異世界の王道といえば、ファンタジーですよねぇ」
「ファンタジーといえば」「ミウちゃん、進まないから止めて」
ミウはいつも通りに、うつむいてしまう。
「アハハ。最近は、何でも言える仲になったって感じでいいよね~」
「たまには良いこと言うね~。リオちゃん!」
「え? たまに? 私いつも良いこと言ってるつもり……」
「リオちゃん面白~い!」
リオはえ?って顔で固まっていた。
「サエちゃんは何か意見は?」
「そうですね。わたくしは異世界王道で浮かんだのが”ギルド”でした」
「「「「…………」」」」
「「「「それだ!!」」」」
「いいね! 来月のテーマは『冒険者ギルド』にしよう!」
「「「「異議なし」」」」
(『冒険者ギルド』か。面白そうだ)
「みんな何の役にする?」
「はい! あたしは、ギルド内食堂のウエイトレスがやりたいですぅ!」
「わたしは、ギルド内図書館の司書をしようかな」
「私は、解体作業の解体師にするわ! ドラゴンだって解体できるんだから!」
「わたくしは、ギルドの占い師ですね……」
「じゃあ私は、受付嬢ね!」
(おぉ。一気に決まったな)
「もちろんお兄ちゃんは、ギルドマスターねっ!」
「え? なんで?」
「あたりまえじゃない! お兄ちゃんはこの店の、ううん。この”ギルド”の”マスター”なんだから!」
みんなも、うんうんと頷いていた。
配役が決まったので、そのまま様々な事柄を話し合っていく。衣装・内装・料理メニュー、最近は宣伝方法なども企画会議で話し合っている。
ギャーギャーと騒ぎながらも、みんな笑顔で、自分たちの意見を自由にぶつけ合って。
その様子を見ていて、ふと思った。
(みんな自由で楽しそうだ、こいつらにとってここは居心地の良い場所なんだろうな……)
”居心地の良い場所”――
(あれ? 俺が最初に喫茶店を作った時の”夢”って……)
俺たち兄妹の家族が二人きりになった日――
あの日に俺は。
まだ小学生だったメイを絶対に守ろうと。
そう、誓ったんだ。
親戚たちが俺たちをどうするなんて話は興味は無かった。自分たちは厄介な存在だと分かっていたから。でも、メイにそう悟らせるのだけは嫌で、早く結論だけ出してくれと黙って拳を握りしめていた。
そんな時に――
「お前たちはもう黙りな。今から私が、この子たちの保護者になる」
そう言い放ち、俺たち兄妹の手を取って歩き出したユウキさん。
周りの大人たちが何を言っても、ただ黙って俺たちの手を引くうしろ姿がカッコよくて。
こういう大人になりたいと、強く思ったんだ。
そのうしろ姿の安心感に憧れて。
そういう頼れる、自分になりたくて。
だから俺は――
そんな場所があったらいいなと思った。
寂しさや悩みとかを、抱えてても居られる場所。
そんな居場所を、作りたかったんだ。
(そうだ。俺の夢は、メイがいつでも帰ってこれる場所を作ることだったんだ)
俺は、楽しそうに会議をするメイやみんなを見る。
(まさか、メイと一緒に店をやるとは思ってなかったけどな……)
「なあ。一つ聞いていいか?」
最近懐いてくれているレン。
期待を寄せてくれるようになったミウ。
すごく距離が近くなったリオ。
よく笑ってくれるようになったサエ。
そして、俺の大事な家族のメイ。
みんなの視線が俺に向く。
「みんな……。ここは楽しいか?」
みんなは不思議そうな顔をして、それから満面の笑顔になり。
「「「「「もちろん!!」」」」」
その瞬間――
メイやみんなの笑顔が身体の中にスッと入ってくる。
俺の心の中にとけ込み、気持ちが軽くなって、今までのことを思い出す。
よく頑張ったねと……。そう両親に言われたような……。そんな気がして……。
ああ……、俺はちゃんと、できてたんだな……。
俺は、込み上げるものが抑えきれなくなり、うしろを向く。
「そうか」
それだけ告げて、部屋を出た――
テーマ『冒険者ギルド』初日の朝。時間は開店前。
「みんな、準備は大丈夫か?」
レンは俺のそばにきて、軽く胸を叩く。
「バッチリですよぉ店長! 今月はナポリタンを売り上げ一番にして、月末の会議食をナポリタンにしますよぉ~!」
「おう。期待してる」
「任せといて下さいね! 店長ぉ!」
レンはウインクをする。
ミウがそばで上目遣いになり、祈るポーズをする。
「任せてください店長。わたしがココアを一番にしますから」
「ミウはココア、好きだもんな」
ミウはちょっと拗ねたような顔になり、
「店長は分かってないな。ココアは、わたしを可愛く魅せるアイテムだから好きなんです。まあ、店長の淹れるココアは好きですよ」
リオがドヤ顔で、仁王立ちをする。
「私が大人の魅力でチョコバナナパフェを一番にしてあげるから、感謝しなさい!」
「そうか」(頼んでないのだが……)
「なんで私の対応は、淡泊なのよ~~~!!」
リオが、ツインテで俺を攻撃してくる。
「店長……」
サエが俺の袖を、後ろから軽く引いていた。
「どうした?」
「わたくしも、月末の会議食をチュロスにできるように頑張ります。占いで、チュロスを食べれば恋愛運アップって言います」
「いやいや、それはダメだろ?」
「フフッ。冗談ですよ、店長」
サエは微笑み、袖を離した。
「お兄ちゃん」
メイが、強い意志を持った目で見てくる。
「私も目指すよ。オムライスで一番を。お兄ちゃんのオムライスは世界一だもん!」
「おおう。ありがとうなメイ」
「みんな! 負けないよ!」「負けません!」「望むところだよ」
「目にもの見せるわ!」「わたくしが勝つ未来が……」
(どんだけみんな会議食好きなの!?)
そして今日も開店の時間になる。
店の扉が開き――
「さあ、お客様がいらしたぞ」
ここは、都内某所の雑居ビルの中にあるちょっと変わったカフェ。
ここでは個性的な女の子たちが、今日も元気に働いています。
そしてここは、
彼と彼女たちにとっての、優しくて掛けがえのない居場所――
「「「「「ようこそ!異世界カフェへ!」」」」」
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
誠(店長)たちのお話は一旦お終いですが、『異世界カフェ』の営業はきっと続いておりますので、またお暇の際にはお立ち寄りください。
『異世界カフェ』が、誰かの優しい場所になれたとしたら幸いです。
またのご来店をスタッフ一同お待ちしております。




