operation.46
初撃で隊長機の頭部を撃ち抜いたクレアのMⅢレプスへ都市軍の意識が集中するが、すでにもといた場所に彼女の機体の姿はない。
攻撃前から初動の算段をつけていたのだろう。大きく跳躍したクレアの機体はジパング社の大型機動兵器の上に乗っていた。
隊長機を撃った彼女の機体を注目してしまうのは分かるが、その間にアルフレッドも他の教導部隊の機体も当然動く。
MⅢオオタチが出ている分MⅢレプスが、MⅢオロチが出ている分MⅢジョロウがそれぞれ格納されており、こちらの稼働しているMⅢは8機。
対して相手は21機いたのだが、隊長機はセンサーの塊である頭部が潰れて射撃精度は地に落ちた。MⅢクーガー2機が使い物にならない隊長機のフォローに入ってしまっている。
ジパング社の機体は1機あたり2〜3機ほど相手取らねばならない状況だ。だが、翻弄されているのは都市軍のMⅢ部隊の方だった。
理由としては、教導部隊のMⅢは守りに入らずクレアのように前に出ていためだ。都市軍はそれを無視して車両を狙ってもいい。それをした瞬間、教導部隊のMⅢに撃たれる訳だが。
大きく立ち位置を変えないのはMⅢスキュータム2機と、隊長であるウェインのMⅢオオタチくらいだ。大型機動兵器と大型輸送車両をバリケード代わりにして、燃料車両やレーザー車両、訓練部隊をや物資を乗せているトラックを守っている。
そして、MⅢオロチも護衛対象を置いて当然のように敵機に突貫していた。すでに1機を捕まえて、攻撃用のマニピュレーターでバラバラにし始めている。
「ボウズ!護衛!」
教導部隊の隊員からそんな通信が入った。都市軍のMⅢが1機、ツチグモの前方に立ちふさがる。
「あれにそんなのいらねえ!」
あれとは失礼な物言いだが、たしかにこの程度の相手でツチグモに護衛が必要かと言われると怪しかった。
「そこの車両!とま……なっ離せえええぇっ!!」
オープン回線で雄々しく重機関砲を構えて警告を告げていた声が悲鳴に切り替わった。
原因はセイカのツチグモである。
MⅢが前に立ち塞がった瞬間、待っていたと言わんばかりに装甲を持ち上げて姿を現したツチグモの4つ腕の上半身。
その内3つの腕部に機体の自由を奪われた為の悲鳴だった。重機関砲と盾を持った腕部はもちろん、コクピットブロックにも手を伸ばさたパイロットは脱出も許されない。
暴れたところで機体の大きさの通り、馬力が違い過ぎて話にならない。
「うっわ」
「集中しろ」
通信越しに耳に入った愕然とする教導部隊員の声にウェインが釘を差した。
「試してみたかったことがあるのよね」
ツチグモの牽引車両の上部ハッチから無人兵器のアントが1機這い出る。1m前後の大きさのアントは器用にツチグモの上半身を足場にして、拘束されているMⅢのコクピットブロックまで辿り着いた。
「たしかクーガーの緊急解放レバーはここよね」
セイカの記憶をもとにアントがクーガーの頭部とコクピットブロックの間に脚部を叩きつけ、薄い金属板を貫く。そのまま脚先が引っ掛かったT時のハンドルを引き抜くとコクピットハッチのロックが死に、隙間ができた。
ツチグモのマニピュレーターが器用にハッチを開けてしまう。
「やめっ……助け……!」
命乞い虚しく、開かれたコクピットハッチの中にアントが入り込んでいった。
当然、仲間を助けようと都市軍のMⅢが動くが、アルフレッドのオロチは無視できる機体ではない。
ツチグモに向き直ったMⅢにオロチのサブアームが即座に反応し、大口径砲が火を吹いた。それだけで2機がコクピットブロックや脚部を撃ち抜かれ、戦闘継続が不可能になった。
「セキュリティが解除できたわね」
コクピットに入り込んだアントが内側から敵機体を操作したのだった。
複数のパイロットが使用する量産機ということもあり、生体認証のようなセキュリティは備わっておらず外部からの接続を承認してやれば事足りた。コードなどはAIに演算させればよい。入力にロックが掛かればアントが内側から解除する。
「問題は、まともな敵が相手の時、どうやってこの状況に持っていくかかしら」
敵機の管理者権限を奪い取り、コントロールを掌握して識別信号まで書き換えてしまう。
だが、セキュリティの死んでいる機体と異なり、1機奪ったからといって連鎖的に機体を奪えそうにはなかった。この機体は都市軍のパイロットを乗せたまま手駒になってもらう。
通信はオープン回線にした。
「待ってくれ!オレはまだ生きてる!!撃つな!撃たないでくれ!!」
「……うっわぁ」
悲鳴を上げながら攻撃してくる元味方に、都市軍の動きはさらに悪くなった。何やらアルフレッドの声が耳に入ったが聞こえなかったことにする。
奪った都市軍の機体で別の機体を押し倒し、同じ手順でコントロールを奪う。
セイカはそれを繰り返していった。
「これは、ミヤビの出番はなさそうね」
「そっか」
4機目を奪っている最中に、戦闘は終わってしまった。
奪われた機体に攻撃されたのがよほど衝撃だったのか、1機奪ったあたりから連携が総崩れになっていた。
残念ながら隊長機はクレアがスクラップにしてしまったため、戦利品はクーガーのみだ。そのまま持っていくのは困難なため、分解するしかないだろうか。
そして、戦闘が終わったら終わったでその処理が待っており、一段落とは行かない。
「捕虜を捕る余裕はない。こちらの情報を持ち帰らせる事もできない。生き残りは処理してくれ」
都市軍同士の戦争であれば、都市連合が定めた生き残りや捕虜の扱いに条約があるのだろうが、ジパング・インダストリーは企業連合であって国ではない。
相手が都市国家の重鎮であれば話は変わるかもしれないが、一兵卒の扱いなど残酷なものだ。
ウェインの指示のもと、全て処理することとなった。
「隊長、すぐに移動しますか?」
「準備ができ次第出発する。敵MⅢの重機関砲だけ回収。他は破壊だ」
「護衛対象が鹵獲した機体はどうしますか?」
そういえばそんな事をしていた。このタイミングで荷物が増えるのは好ましくない。
「……こちらで買い取ると言えば喜んで捨てるだろう。武装させて放棄しブービートラップにしろ」
積み込み方法に頭を悩ませていたセイカにとって、買い取るという申し出は棚からぼた餅だった。
トラップ用に鹵獲機のシステムへ無人兵器搭載AIのコピーや救難信号の偽装、鹵獲する武器の回収もサービスすることにした。
「これは貰っていこうかしら」
武器の回収と合わせて、敵MⅢが持っていた盾を自分用に頂戴することにした。単純に増加装甲として使うこともできそうだ。
当然ながら、その様子を教導部隊の隊員達も見ているわけだが。
「護衛対象が何やらネコババしていますが……」
「……好きにさせておけ。それよりも研究所と本社に連絡を取れ。横槍がこれだけで終わるとも思えない」
ウェインは見て見ぬふりをすることにした。
多少の損耗はあったものの、部隊に死者を出すことなく移動を再開した。セイカ達も護衛の順番も入れ替えることなく、引き続きアルフレッドのオロチを燃料車と繋ぎ直して護衛を継続することとなった。
幸い、その後の追撃は無かった。
厳密に言うとトラップに引っ掛かったので無かったわけではないが、輸送部隊にまで手を伸ばして来ることは無かった。
到着時間はずれ込んだものの、本日中の移動予定距離は走破することができた。
野営の準備を開始する頃には日が沈んでいたが、アルフレッドとミヤビは昨日と変わらぬ手際の良さでテントを組み立てていた。
昨日との大きな違いとしては、クレアが不機嫌だったこととツバキが一段と挙動不審だったことだろうか。
「アイアスの都市軍はあんなではないからな!」
「はいはい」
夕食のレーションを口に運びながら、クレアはそんな事を話しセイカが宥めるような形になっていた。昼に相手にした都市軍の動きがよほど気に障ったのだろう。
「たしかに、アイアスの新米パイロットの方がまともな動きをしてたわね」
「それはそうだろう。基礎ができているからな」
「あれはどういった訓練をしているの?」
セイカは訓練の話に逸らして、役に立ちそうな話を聞き出すために誘導を始めていた。誇らしげに話すクレアは気付いていなさそうだ。ミヤビは横から聞き耳を立てていた。
「お前はいったいどうしたんだよ。実戦見て今さらビビったのか?」
「ううう……」
アルフレッドに問われて、ツバキは小さくなっている。これから兵士になろうという人間がこれで大丈夫だろうか。
彼女にさほど関心はないが、戦闘支援部隊になるとしても今回の戦闘で萎縮しているようではまだまだ経験不足なのかもしれない。
「戦闘は、別に……隠れてただけですから……」
「じゃあ何なんだ?」
「その……」
ツバキがちらりとこちらを見てきたため、ミヤビと目が合った。首を傾げるが、すぐに視線を逸らされてしまった。
「……何?」
「いや……えっと……」
まごまごとしていたが、ツバキは深呼吸すると意を決したように口を開いた。
「セイカさんと、ミヤビさんて……指名手配……犯罪者なんですか?」
その言葉に、話をしていたクレアも口を止めた。急な沈黙に、そんなことを口にしたツバキの方がオロオロとしている始末だ。
襲ってきた都市軍の都市など行ったこともなければ知り合いすらいないが、研究所の何もかもを破壊し皆殺しにしたことを犯罪と言われれば犯罪なのだろう。
セイカとミヤビがどう答えたものかと考えていると、アルフレッドがため息をついて沈黙を破った。
「お前なぁ……」
「それは難しい問題だな」
少年が何か言おうとしたところで、クレアが割って入った。少年がジロリと目を向けるが、片手で制して任せろとでも言いたげだ。
「私も都市国家の軍人だからな。彼女達が指名手配犯で、ここに入るから捕まえてこいと命令されればそうするだろう」
「そ、そうですよね……」
「だが、私の所属する城塞都市アイアスで彼女は良い取引先で戦力になりえるからな。むしろアイアスに住まないかと亡命を提案するかもしれない」
「えっ……ええ……」
同意するような文言から、それを否定するような話に持っていかれてツバキはさらに萎縮してしまった。
「都市国家とはそんなものだ。各都市とも自治権と経済を維持するのに死に物狂いだ。都市連合も名前ばかりで助けてくれない。仮に都市連合から指名手配と言われても、その都市にとって損失しかなければ突っ撥ねるだろう」
シュンとするツバキを見かねてクレアはポンポンと軽く頭を叩いた。
「だから、犯罪者かどうかなど今の国際情勢からすると相対的なものでしかないということだ。中にはどうしようもない悪党もいるが、少なくとも彼女達とは会話ができて良識もある。都市国家がどうこう言おうが過度に怖がる必要もないということだ。君は彼女達と話していてどうだった?」
「……いい人達かも……と、思いました」
「なら、それでいいじゃないか」
「……はい」
都市軍に所属しているだけあって、クレアの物言いには説得力があった。おそらく彼女の価値観でもあるのだろう。姉に愚痴たれていた女だが、綺麗に丸く収めたものだとミヤビは感心して見ていた。
「さて、説教に関しては彼からだな」
「えっ……」
「命令に従う軍隊としては0点の発言だったからな」
「ええ……」
見ると、アルフレッドが眉間にしわを寄せてツバキを見ていた。隣にいたミヤビも思わず少し離れた。
「お前さぁ、今言ったこと絶対に教官に言うなよ?せっかく他の奴等と違って仕事任されてんだぞ。部隊全体の目的を理解できないと思われたら元の班行動に戻されるからな」
部隊長が都市軍の指示を無視すると決めたこと。
そもそも姉妹がこの輸送部隊の護衛対象であること。
敵対勢力側の物言いを真に受けていること。
などなど、アルフレッドはツバキに小言を並べる。怒られているはずなのだが、口の端が緩んで若干ニヤけているように見えるのは気の所為ではないと思う。
そんな様子を、ミヤビは頬杖をついて眺めていた。




