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二十、勇者と王、握手の裏側

◆ 王城・執務室


「では――王国の派閥についてご説明します」


エリシアが机の上に資料を広げ、背筋を伸ばした。

その仕草がやけに板についていて、どう見ても先生が授業始める時のそれだ。


(……うん、これ絶対小テストあるやつだろ。今から「はい、ジーク様、復唱してください」って言われそうだ……)


そんな俺の不安をよそに、彼女はきっちり淡々と語り始めた。


「まず一つ目は――王党派。現王アルトリウス陛下と、栄皇騎士団を中心とする派閥です。

強欲な貴族や取り巻きが集い、権力を独占。表向きは『若き豪快な王』として民衆人気を集めていますが……裏では、前王暗殺の黒幕とも囁かれております」


(開幕から物騒すぎんだろ。推理小説の犯人発表かよ)


「二つ目は――宰相派。宰相ロイド閣下を中心とする文官の改革派。少数精鋭ですが、腐敗を正す知略派です。ただし、かつて協力していた“教会派”は法国に戻り、不在。結果として孤立しております」


隣でロイドが軽く「うむ」と頷く。完全に先生が「いいぞ、その通り」って採点してる顔だ。


「三つ目は――旧王派。前王の残党です。表立った力は弱いですが、法国や帝国と水面下で繋がっている疑いが濃厚です。暗殺や陰謀を好み、もっとも不気味な存在ですね」


「暗殺……そういうのが一番タチ悪ぃんだよな」

思わずぼそっと言ったら、エリシアは「仰る通りです」と即答してきた。


「最後に――地方侯爵派。東西南北を治める大侯爵家です。独自の軍事力と経済力を持ち、どちらにつくかで情勢は激変します。今は中立、あるいは日和見。

ちなみに私の父、アルフォンス=エクス=ヴェルデン侯もその一人で、海洋都市ヴェルデンを治めております」


そう言って資料を揃え、綺麗に重ねて机に置いた。

もう完全に授業終了後の「チャイム鳴ったから帰っていいですよ」って空気。


(はい、明日小テストで“侯爵派の四家の名前を答えよ”とか出るやつだ……間違いない)


俺は心の中で深くため息をついた。だが確かに、王国の裏事情が少しずつ見えてきた。



次にロイドが、古びた書簡を机に置き、西部の地図を指で叩いた。

その表情は相変わらず柔和なのに、目だけは冷たく光っている。


「……まずは、ジーク君に“勇者”の力を示してもらう必要がある。民衆に、だ」


「民衆にアピールねぇ……派手にやれってことか?」


「そうだ。最近、黒鷲旅団が紅牙連盟を飲み込み“黒鷲紅牙団”と名乗っている。千前後の規模、西部の山岳を拠点に交易路を襲い、奴隷売買や武器密輸を行っている」


「黒鷲に攫われ、紅牙に喰われる」

エリシアが静かに呟く。その声音にはわずかな嫌悪が滲んでいた。


ロイドは頷いて続ける。

「本来なら西部侯爵の責任だ。だが……侯爵は裏で上納金を受け取り、見て見ぬふり。さらにダリウス将軍も動かない。王党派の貴族たちが“裏で利益を得ている”からだ」


「なるほど……。つまり『王国軍』は動かん、ってわけか」


「その通り。要請は出すが……せいぜい術皇騎士団くらいだろう」


(術皇騎士団…… “ラスボス感ある名前”だが、ジルヴァンもいってた奴らだよな……名前負けも大概にしろよ……)


ロイドは軽く肩をすくめ、言葉を締める。

「だからこそ、勇者ジーク。君が前面に立ち、討伐するべきだ。民衆の前で力を示せば、王党派も無視できなくなる。……ジルヴァンに頼めば“暁の牙”も裏で協力するだろう」


エリシアもきっぱりと補足した。

「黒鷲紅牙団は、王国にとって国家レベルの脅威です。倒せば、あなたは間違いなく民衆の英雄になります」


「……なるほどな。腐った貴族も騎士団も放置プレイ。なら――俺たちがやるしかねぇ」


早速カミナ達、暁の牙との共同作戦と聞いて、自然と口元が笑った。腕が鳴るぜ。



◆ 王の間・夜


玉座の間。人払いをした広い空間で、王アルトリウスと騎士団長ダリウスが向かい合っていた。


「……あの若造勇者、ロイド様の改革派に取り込まれたようですな」

低く硬い声のダリウス。


「ふむ」

王は顎に手をあて、考える素振りを見せる。


「ロイド様は理想論者すぎます。愚民は愚民のままでいいのです。隙を与えれば力をつけ、いずれ歯向かってくる……平民など犬畜生と同じ。何故権限を与えたのです?

勇者などという過去の遺物、もはや不要でしょう」


「はは、真面目だなダリウス。そういう物言いは酒の席じゃ嫌われるぞ」

アルトリウスは愉快そうに笑い飛ばしたが、その瞳は冴えた光を帯びていた。


「――言いたいことは分かる。だが泳がせておけ。何しろ、あの帝国のヴォルグを返り討ちにしたというではないか。法国や帝国に引き抜かれたら厄介だ。ならば、王国に縛りつけ、精々利用させてもらう」


「……なるほど。確かに」


「それにな」王はにやりと笑う。

「法国では瘴気の影が蠢いているらしい。勇者には勇者らしく、魔族退治でも命じておこうか。王国の名の下にな」


その笑みは豪快。だが奥底に潜む野心は隠そうともしなかった。


ダリウスは深く一礼する。

重い沈黙が玉座の間を包んだ。


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