表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷の勇者と鋼の英雄 〜世界を変えると誓った兄弟は、やがて敵対する〜  作者: ちぇ!
王国編 ――ジークの使命

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/63

二十、勇者と王、握手の裏側

王城・執務室


「では――王国の派閥についてご説明します」


エリシアが机の上に資料を広げ、背筋を伸ばした。その仕草がやけに板についていて、どう見ても先生が授業を始める時のそれだ。


(……うん、これ絶対小テストあるやつだろ)


そんな俺の不安をよそに、彼女はきっちり淡々と語り始めた。


「まず一つ目は――王党派。現王アルトリウス陛下と、騎士団長ダリウスが率いる栄皇騎士団を中心とする派閥です。強欲な貴族や取り巻きが集い、権力を独占しています。表向きは”若き豪快な王”として民衆人気を集めていますが……裏では、前王暗殺の黒幕とも囁かれております」


(開幕から物騒すぎんだろ。推理小説の犯人発表かよ)


「二つ目は――宰相派。宰相ロイド閣下を中心とする文官勢力です。数は多くありませんが、腐敗を正そうとする改革派であり、知略に長けた者たちが揃っています。ただし、かつて協力関係にあった”教会派”は法国へ戻り、現在は離脱。結果として孤立気味です」


隣でロイドが小さく「うむ」と頷く。完全に先生が「その通りだ」と板書を眺めてる時の顔だった。


「三つ目は――旧王派。前王に連なる者たちの残党です。表立った力は弱いですが、法国や帝国と水面下で繋がっている疑いが濃厚です。暗殺や陰謀を好み、最も読みにくい勢力といえるでしょう」


「暗殺……そういうのが一番タチ悪ぃんだよな」


思わずぼそっと言うと、エリシアは「仰る通りです」と即答した。


「最後に――地方侯爵家です。東西南北を治める大侯爵たちで、独自の軍事力と経済力を持っています。いずれにつくかで情勢は激変しますが、現在は中立、あるいは日和見と見るべきでしょう」


そこで、エリシアはほんのわずかに間を置いた。


「……ちなみに私の父、アルフォンス・エクス・ヴェルデン侯もその一人で、海洋都市ヴェルデンを治めております」


ロイドが静かに補足する。


「アルフォンス侯は、知において抜きん出ている。最大の港を擁し、この大陸でも最大級の人口、富、物資を抱えるヴェルデンは、もはや一つの小国ともいえる規模だ」


(ロイドがここまで褒めるなら、よほどの人物なんだろうな。……その娘が、王都で政務官をやってるってわけか)


そのあとも、北の城塞都市バストリアを治める侯爵、西の山岳都市マリオンの侯爵、南の農業都市フェリシアの侯爵について説明は続いた。だが、正直そこから先はあまり頭に入ってこなかった。


それを最後に、エリシアは資料を揃え、きっちりと重ねて机に置いた。完全に講義終了の空気だった。


(……はい、明日小テストで”侯爵派四家の名前を答えよ”とか出るやつだな。間違いない)


俺は心の中で深くため息をついた。だが確かに、王国の裏事情が少しずつ見えてきた。


三つの派閥と四つの地方侯爵。それぞれ思惑が違い、利害が噛み合わない。


(……カミナが聞いたら「みんなぶっ倒せばいいだろ」って言いそうだな)


そうじゃないところが、王都での戦い方だ。



次にロイドが、古びた書簡を机に置き、西部の地図を指で叩いた。その表情は相変わらず柔和なのに、目だけは冷たく光っている。


「……まずは、ジーク君に”勇者”の力を示してもらう必要がある。民衆に、だ」


「民衆にアピールねぇ……派手にやれってことか?」


「そうだ。最近、黒鷲旅団が紅牙連盟を飲み込み”黒鷲紅牙団”と名乗っている。千前後の規模、西部の山岳を拠点に交易路を襲い、奴隷売買や武器密輸を行っている」


「黒鷲に攫われ、紅牙に喰われる」


エリシアが静かに呟く。その声音にはわずかな嫌悪が滲んでいた。


ロイドは頷いて続ける。


「本来なら西部侯爵の責任だ。だが……侯爵は裏で上納金を受け取り、見て見ぬふり。さらにダリウス将軍も動かない。王党派の貴族たちが裏で利益を得ているからだ」


「なるほど……。つまり”王国軍”は動かん、ってわけか」


「その通り。要請は出すが……せいぜい術皇騎士団くらいだろう」


(術皇騎士団……ラスボス感ある名前だが、ジルヴァンが言ってた奴らだよな。名前負けも大概にしろよ……)


ロイドは軽く肩をすくめ、言葉を締める。


「だからこそ、勇者ジーク。君が前面に立ち、討伐するべきだ。民衆の前で力を示せば、王党派も無視できなくなる。……ジルヴァンに頼めば”暁の牙”も裏で協力するだろう」


エリシアもきっぱりと補足した。


「黒鷲紅牙団は、王国にとって国家レベルの脅威です。倒せば、あなたは間違いなく民衆の英雄になります」


「……なるほどな。腐った貴族も騎士団も放置プレイ。なら――俺たちがやるしかねぇ」


暁の牙との共同作戦と聞いて、自然と口元が笑った。カミナたちと一緒に動ける。腕が鳴る。



王の間・夜


謁見を終えた広間。すでに人払いは済んでいた。


王アルトリウスと騎士団長ダリウスが向かい合っていた。昼間の豪快な笑声はどこにもない。二人の間には、刃のように冷えた空気だけがあった。


「……あの若造、ロイド閣下の改革派に取り込まれたようですな」


ダリウスの声は低く、硬い。


「ふむ」


王は短く応じ、肘掛けに頬杖をついた。


「この王国の騎士団長として聞こう。勇者の見立てはどうだ?」


「あの若さであの気配。魔力も底が知れない。――相当できます。確かに、“勇者”と呼ぶに足る力を持っているように見えました」


一拍。


「……しかし、不可解です。あれほどの逸材が、なぜ今まで埋もれていたのか。本来なら、とっくに貴族に取り立てられていておかしくない」


ダリウスは目を細める。


「考えられるとすれば一つ。最初からロイド閣下が目をつけ、意図的に隠して育てていた――それくらいでなければ、あの素質を隠し切れるとは思えません」


「なるほど。叔父上に、まんまと一手先を打たれていたわけか」


王は顎に手を当て、わずかに笑った。


「ロイド閣下は理想に寄りすぎておられる」


ダリウスは続ける。感情は抑えている。だが、言葉の切っ先は鋭かった。


「愚民は愚民のままでいいのです。隙を与えれば力をつけ、いずれ歯向かってくる。魔法を扱えぬ平民など、犬畜生と同じ。何故権限など与えたのですか。勇者などという過去の遺物、もはや不要でしょう」


「はは、真面目だなダリウス。そういう物言いは酒の席じゃ嫌われるぞ」


アルトリウスは愉快そうに笑い飛ばした。だが、その瞳は冴えた光を帯びていた。


「――言いたいことは分かる。だが泳がせておけ。あの帝国のヴォルグを返り討ちにしたというではないか。法国や帝国に引き抜かれたら厄介だ。ならば王国に縛りつけ、精々利用させてもらう」


「……なるほど。確かに」


「それにな」


王はにやりと笑う。


「法国では瘴気の影が蠢いているらしい。勇者には勇者らしく、魔族退治でも命じておこうか。王国の名の下にな」


その笑みは豪快だった。野心すら、その豪快さの中に隠そうとしない。


ダリウスはわずかに目を伏せた。


「……お考えは理解しました。勇者もまた、王国の剣として使うべきでしょう」


そう言い残し、一礼して静かに踵を返す。


広間に残ったのは、王の笑みと、利用できるものはすべて利用するという打算だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ