2人の日々
あっという間に時は流れ、3年が経った。
ユリウスが侯爵家としての勤めを果たすために、魔獣討伐のため国境へ赴くことになった。
セレナはそんな時も変わらず冷静だった。
「必ず戻る。手紙を書くよ」
彼の言葉に、彼女は何も答えなかった。
ユリウスが戦地に行ってからも、セレナの日常はこれまでと変わらなかった。
社交界では相変わらず皇太子が言い寄ってきたし、令嬢たちは嫌味を囁く。
そして、セレナはただそれを受け流す。
けれど、ふとした瞬間に、ユリウスがいないことを意識している自分に気づいていた。
心のどこかで、彼が近くにいないという事実に何故か物寂しさを感じていた。
戦場で彼がどんな日々を送っているのか、セレナには分からない。
ただ、時折届く手紙だけが、彼が今も生きている証だった。
***
ーー国境の戦地
ユリウスは剣を振るい、魔獣と戦い続けていた。
けれど、どれだけ血に染まろうとも、彼の思考の隅には常にセレナがいた。
彼女は今、どうしているのかーー。
社交界で嫌な目に遭っていないだろうか。
ユリウスは戦場にいながらも、頻繁にセレナに手紙を書いた。
*
《──セレナへ。
こちらは魔獣と毎日戦っているが、無事だ。
皇帝陛下からの命もあり、しばらくは前線での指揮を任されることになった。
以前より戦は長引くかもしれないが、心配はいらない。
そちらの様子はどうだろうか?
社交界において、君が面倒ごとに巻き込まれていないことを願う。
貴族の令嬢たちの間で、君の名前が頻繁に話題に上がるらしいな。
彼女たちは相変わらず、くだらない噂話に明け暮れているのだろうな。
そんな奴らのことは気にするな。いや、君は気にしていないか。
先日から空気が冷たくなったように感じる。
季節の変わり目だ。
そちらも、そろそろ秋めいてきただろうか?
どうか体には気をつけてほしい。
──君の婚約者より。》
*
《──セレナへ。
最近、やけに空が広く感じる。
中庭で共に読書をしていた頃が、ずいぶん昔のことのようだ。
君は相変わらず、静かに日々を過ごしているのだろうか。
”光の雫”は、まだ持っていてくれているのだろうか?
そういえば、君が皇太子と顔を合わせる機会が多いと、風の噂で聞いた。
君が不快な思いをしていなければいいのだがーー。
それと、何かあれば護衛の者を通じて知らせてほしい。
そちらは、そろそろ夜が長くなってきた頃だろうか?
君が眠る前に、この手紙が君の元へ届くことを願う。
──君の婚約者より。》
*
《──セレナへ。
こちらでは、先日雪が降った。
雪の白さが、君の髪の色とよく似ていて、とても美しかった。
君が読んでくれているかはわからないが、君に手紙を書くことが僕の習慣になりつつある。
返事をくれなくても構わない。
ただ、君が心穏やかに過ごしていればいいと思う。
この手紙が君のもとに届く頃、僕はまた魔獣と戦っているだろう。
もう直ぐ帰れるはずだ。早く君に会いたい。
──君の婚約者より。》
ユリウスの手紙は、セレナを心配する内容ばかりだった。
だが、セレナからの返事は一度もなかった。
それでも彼は、セレナに手紙を書き続けた。
彼女が読むかどうかは関係なかった。
ただ、セレナは一人ではないのだと伝えたかった。
そして3年後——
ユリウスは、セレナのデビュタントの日に帰還する。